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値引きも割り増しも気分次第

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「この<しゃーべっと>を作るのに氷を使うの?」

「うん。 今朝氷を買えたから、安心して食べていいよ? でも、お腹を壊さないようにね?」

 おかわりをしたいのに言い出せない!といった感じのマルタに、残っていたシャーベットを全て渡すと護衛組から大歓声が上がった。 こんなに喜んでくれるなら、多めに作ってストックしておこうか。

「明日も氷の買い取りをしておきたいんだけど、今朝の2人に連絡は付くかな?」

「ギルドに確認してみるが、多分大丈夫だろう。 今朝会ったギルマスはあれでなかなかやり手だからな。 もう、再登録が済んでるんじゃないか?」

「じゃあ、指名依頼になるのかな?  高くつく?」

「いや、再登録はランクが下がるから、指名じゃなくて希望扱いになる。大丈夫だ」

 指名依頼はBランク以上が対象で、別途指名料がかかる。 ……冒険者側から断るのは面倒らしい。

 Cランク以下の冒険者を名指しで依頼したい時には“希望”すると、無料で対象の冒険者に話が届く。 こちらは断るのも冒険者の自由だそうだ。

「じゃあ、今日と同じ時間でお願いしてもらえる?」

 これで1つ話が済んだ、と思っているとアルバロが何かを言いたそうな表情で私を見ている。

「アルバロ?」

「……ああ」

「アルバロ~?」

「うん…」

 何かを言いたそうなのに、なかなか言い出さないアルバロに焦れたのか、

「今朝の男の治療だろう?」

 エミルがアルバロの背を叩きながら口を開いた。

 氷を一番多く出してくれた義足の男性はアルバロと仲が良さそうだったから納得だ。

「ああ。 アリスに【リカバー】を頼みたいんだ……。 頼めるなら、治療費を教えて欲しい」

「治療は引き受けるけど、治療費はまだ決めてないんだ…。 彼はいくらまでなら払えるの?」

 材料費のかからない【魔法】だから、値段はあってないようなもの。 多少の値引きもOKだ。

「すぐに用意できるのは350万メレくらいだ。 足りない分は俺が貸すが、1500万メレまでしか動かせない…」

 アルバロが1500万メレという大金を貸してまで治療を受けさせたい人かぁ。 クッキーを喜ぶ(多分)小さいお子さんがいるんだよね?

「じゃあ、350万メレ。 治療は早い方が良いね? ちょうどいいから、明日の氷の買い取りの後にしよう。
 その後の予定はないよね? そろそろこの町の観光とかしたいなぁ」

 この町に着いてからはいろいろとバタバタしていて、買い物くらいしかしていない。のんびり町をぶらつくのもいいと想像していると、アルバロの焦った声がした。

「アリス! リカバーの標準価格を知っているか!? 1千万メレは」
「1千万メレはくだらない。 時間が経って<治癒士>にも手に負えなくなった四肢欠損の治療ならもっと高額になる…、だっけ?
 それは<治癒士>たちの決めた標準価格でしょ? 私は<冒険者>で<商人>だから価格は私が決めるの。 今回は350万メレで良いんだよ! 次回は1億メレを超えるかもしれないけどね?」

 すべては私の気分次第!と強調すると、アルバロは緊張が解けた情けない顔でへにょりと笑う。

「冒険者と商人は金に」
「金にうるさくしないと依頼主に舐められる、だっけ? そこはアルバロが上手くまとめてね?」

「……わかった。 アリス、ありがとう!」

 アルバロが嬉しそうに笑い、護衛組もホッとしたように微笑を浮かべて食後のカモミールティを楽しんでいると、

「お待ちください! そちらは今、立ち入り禁止になっています!」

「我らは領主隊だ! 領主家御嫡子のレイナルド様の命でアリスという女を捜している。邪魔立て無用!」

 止めようとしている法廷兵を振り切って強引に近づいて来る見覚えのある制服。

 私に用があるらしいが、領兵の言葉を聞いた瞬間に護衛組が私の前に立ち塞がり邪魔をする気満々だ。 モレーノ裁判官の指示もあったしね。

 私としても、あの制服を着ていてあの態度の兵士は時間を割きたい相手じゃない。

(ねぇ、ハク? 私たちを囲むように守りながら、相手の声は聞こえるけど、私たちの声は聞こえない仕様の結界を張れる?)

 ちょっと無茶振りかな?と思いながらも聞いてみると、

(任せるにゃ♪)

 余裕の返事が返ってきた。やっぱり頼りになるね!

(じゃあ、法廷兵さんたちをこっちに呼ぶから、私たちと法廷兵さんを囲む形でお願いね!)

「法廷兵さーんっ!  事情を聞きたいからこっちに来てくださーいっ!!
 みんなは法廷兵さんたちがこっちに来たら、領兵のとの間に空間を作って欲しい。 結界を張るから上手に線引きしてね?」

 法廷兵さんたちを手招きしながら小声でお願いをすると、護衛組はしっかりと頷いてくれた。

 法廷兵さんたちは急いで走ってくるが、領兵たちは私が「事情を聞きたい」と言った為か、ゆっくりと歩いてくる。

 都合のいい感じに私たちの間に空間が出来て、目ざといハクがきっちりと結界を張ってくれた。

「アリス様! 彼らの言葉に耳を貸す必要はございません!」
「モレーノ様の命により、お守りさせていただきます!   …はあっ!?」

 私たちの前にたどり着き、私を守る為に領兵たちに対して振り返った法廷兵さん達は驚きの声を上げる。

「「これは…?」」

「結界です。 こちらの声は向こうに聞こえないので、安心して事情を聞かせてください。
 あ、喉が渇いていませんか? お茶にしましょうね!」

 結界を見て警戒を解いた護衛組と一緒に、法廷兵さんたちを敷物の上に招く。 クリーンを掛けたらあとは護衛組に任せて、私はお茶のセッティングだ。

 さっきカモミールティーを飲んだから、私たちに温かいシチュードティーを、法廷兵さんたちにはアイスシチュードティーでいいかな。 おやつは朝市で買ったポルボロンにしよう。 買ってて良かった♪

 それにしても、今日のお昼休みは騒がしいなぁ……。
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