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スライム絶滅危機?
しおりを挟む「それ、どうするんだ?」
「お料理に使おうと思って」
エミルが指差している先にはスライムジェル。
「食えるのか?」
「多分…」
スライムジェルは、今まで植物活性薬の材料としか思っていなかった。でも、じっくりとインベントリのリストを眺めているときに、何か引っ掛かるものを感じたのだ。
鑑定スキルと料理スキルをリンクさせたときに発生した【レシピ】スキルが何かを訴えている気がするので、ビジューのくれたスキルを信じてスライムジェルを観察していると、ぷるぷる触感がゼリーや寒天に見えてきた。
物は試し。やってみようか!
まずは【クリーン】、そして【ドライ】を掛けてからすり鉢で粉になるまですり潰す。
日本で使っていた粉寒天と同じような見た目になったので、鍋で水と一緒に加熱してから氷水に鍋ごと入れて冷やすと、歯切れがよくてなめらかな食感になった。
よし! この粉寒天のような粉スライムジェルがあれば、ゼリーが作れる♪
「その顔は、レシピを思いついたんだな!? 甘いものか?」
期待に満ちた眼差しのイザックに満面の笑みで答えると、マルタとエミルがハイタッチで喜びを分かち合う。
「手伝ってくれる?」
「「「もちろん!」」」
楽しそうに返事をしてくれた3人に遠慮なく手伝いを頼み、ミルクプリン、珈琲ゼリー、紅茶ゼリー、トマトゼリーと大量の練乳を作ることが出来た。
「このレシピを登録したら、スライムが絶滅するんじゃないか?」
「もう、遅いだろう? クリーン魔法を使った水とミルクの美味さが広まれば……」
「……まあ、大丈夫じゃない? スライムの繁殖力は侮れないし」
小さな達成感に浸っていた私には3人がぼそぼそと話している声は聞こえなかったけど、大事なことならきちんと話してくれるから大丈夫だろうと気にしないことにした。
まだ出かけるまで時間もあるしアルバロも戻って来ていないので、もう一品何か作ろうかと考えていると、
(冷たいおやつはシャーベットだけなのにゃ? マルゴに言っていた<アイス>は作らないのにゃ?)
小首をかしげたハクに可愛く聞かれ、思わず、
「ミルクアイスを作ろう!」
と言ってしまった。 昨日シャーベットをたくさん食べたばかりなのに……。
喜ぶハクとライムを見て「やっぱりやめよう」なんてとても言えなくて、ミルクと砂糖を火にかけて混ぜる。インベントリから出したかまども使い、護衛組も交えて1人1鍋を混ぜ続けていると、退屈したハクとライムは台所から出て行って遊び始めてしまった。
……できても味見させてやらないぞ~?
十分に煮詰まったので氷と塩を使って鍋ごと冷やしながらミルクを混ぜていると、アルバロが戻ってきた。
どうやら走ってきたらしく、汗を拭きながら台所に入ってきたアルバロは私たちのかき混ぜている鍋を見ると視線を固定させる。
急いでグラスに水を注いであげると、
「ああ、ありがとう…」
アルバロはお礼を言いながらも目はアイスになる予定のミルクに釘付けだ。 みんなも気は付いていたが、黙ってアイスを冷やしながらかき混ぜ続けていた。
仕方なさそうにグラスを受け取ったアルバロだったが、
「冷たいっ!? 水まで冷やしたのか? 美味いなぁ! ……おかわりしていいか?」
水を受け取り一口飲むなり感嘆の声をあげ、一気に飲み干した。
冷やしておいた水を、こちらも冷やしておいたグラスに注いだのだ。 氷に余裕が出来て、惜しむことなく細かい所までこだわれるのが嬉しい。
「今飲んでも、外から戻ったばかりのアルバロほどおいしいとは感じないと思うよ?」
アイスをかき混ぜていた3人が羨ましそうな顔で見ているけど「どうせ飲むなら裁判所に着いてからにしたら?」と提案すると、あっさりと納得してくれる。
「アリスの勧めに従った方が美味そうな気がするからな」
が理由らしい。
信頼が嬉しいね! 冷たい水の中にレモンの果汁も入れておこう♪
「こっちがミルクアイスで、マルタとエミルの鍋がカフェオレアイスだよ」
アルバロは落ち着くなり「俺がいない間におもしろいことを……」と拗ね始めたので、私がかき混ぜていた鍋を任せてみた。手が空いたのでみんなの手元の氷を補充して塩をかけて回る。
「なんで塩をかけているんだ? もったいないじゃないか」
眉間にしわを寄せているエミルには“凝固点降下”を簡単に説明して納得してもらう。 氷は溶けるときに周りの温度を下げるから、
氷を早く溶かす=アイスが早く出来る
と言うと、あとは何も言わずに機嫌よくアイスをかき混ぜている。 早く出来ても、今ここでは食べないんだけどね? …まだ言わないけど。
私の好みの“緩めのふわふわアイス”になった所で手を止めてもらって、そのままインベントリに収納すると、
「「「「あああああああっ!?」」」」
4人の悲痛な叫びが響いた。
「にゃっ!?」
「ぷきゃっ!?」
様子を見に来た2匹も、とっくに片付いている台所を見て事態を察したらしい。 抗議の体当たりをぶつけてくるけど、ちゃんと手加減してくれているらしくほとんど痛くないので頭を撫でてやり、
「もう、家を出る時間なんだよ。 お昼ごはんの後に一緒に食べようね?」
にっこり微笑むと、しぶしぶだけど納得してくれた。 まあ、早々に飽きて隣の部屋で遊んでいたんだから、文句の言いようもないよね。
「味見をするのに1分もかからない!」
と騒ぐ4人には、モレーノ裁判官の名前を出して納得させる。
甘い物好き筆頭の裁判官と一緒に食べるために、今は我慢だよ~!
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