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モレーノという男性(ひと)… 5
しおりを挟む「アリス殿が王都に居を構えたら、心配したモレーノがちょくちょく顔を出すかと期待しての提案だったのだが、この上ない結果になったな!」
「はい、陛下! モレーノさまの治めていらした領地を直轄地として大切に置いておいた甲斐がございましたな!」
水晶の向こうで王様と宰相が祝杯を挙げはじめ、何となく法廷を出るタイミングを外してしまった私たちも少しだけ付き合うことになった。
私がモレーノ裁判官の後見を受けると決まったとたん護衛組が快哉を叫び、ギルドマスターたちは驚きながらも深く頷いて笑い合い、ウーゴ隊長は安心したように笑いながら拍手をして喜んでくれた。
ティト裁判官だけはなぜか顔色を悪くしていたが、ウーゴ隊長に「諦めろ。アリスさまは自由をお求めなんだ」と言われて、悔しそうな顔をしながら「頭を冷やしてくる」と言って出て行ってしまった。 ……どしたんだろう?
「ティトはアリスさんを教会に連れて行きたかったのですよ。 <聖女>として」
不思議に思っていると、ティーゼリーを嬉しそうに食べていたモレーノ裁判官が苦笑しながら話してくれる。
ティト裁判官は取り調べ中の盗賊たちの素直な様子や私の強力な治癒魔法を見て、私を“女神に慈愛を託された乙女=聖女”だと思い込んで、私の事を教会に知らせる手紙を送ってしまったらしい。
迷惑な話だ…。
今、教会には<聖人> も <聖女>もいないので、求心力が落ちているらしい。
従魔たちがいるとはいえ、女の1人旅。 強力な力を持っていると教会が知ったら力尽くで連れて行かれ、聖女として祭り上げられた挙句に教会の為にこき使われることになる可能性が高い。
事情を聞いて逃げる算段をつけようとする私の目の前に、モレーノ裁判官の穏やかな笑顔が広がり、
「大丈夫ですよ。 いくら教会とはいえ、公爵の身内を力尽くでどうこうすることはできませんからね。 アリスさんが望まない限り、教会へなど行く必要はありません」
力強く言い切ってくれた。 さっそく<後見人>として、権力を使って私の自由を守ってくれるようだ。
「ありがとうございます!」
お礼を言いながら空になった器に【クリーン】を掛けて、おかわりのティーゼリーを注いでいると、
「なんとも美しい食べ物だな。 もしやアリス殿のレシピか?」
王様の羨ましそうな声が聞こえてきた。
「はい。紅茶のゼリーです」
紅茶のゼリーを崩して上から練乳をかけただけ。でも、思った以上にキラキラと輝いて涼しげな印象になっている。
「モレーノが早くもおかわりを所望しているからには、美しいだけではないな?」
「ええ、陛下。 とても美味しいですよ。 レシピが販売されたらすぐにお送りします」
「そうか! 楽しみに待っておるぞ! そなたが直接王宮に届けてくれるともっと嬉しいのだが?」
兄弟がゼリーの話題で盛り上がっているのは見ていてとても微笑ましいけど、まだレシピ登録をしていないんだよね~。 明日にでもモレーノ裁判官にレシピを届けようかと考えていると、
「アリスさん! 陛下とモレーノさまがこのレシピを欲しています! この機会に我がギルドでレシピ登録をしていただけませんか!?
私の支部が大儲けをするチャンスなのです!」
サンダリオギルマスが私の両手を握って訴えてきた。 さすがは商人だ。機会に敏感に反応する。
宰相は「アリス殿にそのような物言いを……」と少し心配そうな声を出していたけど、私が声を出して笑ってしまったのが聞こえたのか、静かになった。
さっきレイナルドが王様の威を借りて同じような言葉で登録を迫ったばかりだったので、心配をしてくれたようだ。
でも、サンダリオギルマスはおためごかしは言わず、あけすけに言ってくれるので私的には印象が全然違うんだよね。
「儲かる?」
「ええ、必ず! この美味しさと美しさに陛下のお気に入りとなれば、貴族たちが飛びつきます。 それを見た豪商から使用人、庶民に伝わって……!
是非ともこのお菓子のレシピを! いえ、昼食にいただいた数々の新作もありましたね…。 先日の試食会以降に作った全ての新作のレシピの登録をお願いします!」
……さすがはやり手のギルドマスター。新作をまとめての登録に話が広がってきた。 面倒だな~と迷っていると、
「アリス殿はそんなにたくさんの新作をお持ちなのですか? 一体どこでそのような…?」
宰相が訝しげに疑問を挟んだ。 うん。私を貴族の令嬢だと勘違いをしているんだから、その疑問は当然だよね。
これは、平民だと納得させるチャンスかもしれない!
「家で、です。 弟が私の作るものが大好きだと言ってくれていたので、腕を磨きました」
胸を張って告げると、
「アリス殿には弟がおるのか! 可愛いか?」
宰相ではなく王様が食いついて来た。
「ええ、とっても可愛いです♪ 年が離れているので、多忙だった両親に代わり流威を育てたのは私です。
他の人の作ったきちんとした料理よりも、私が初めて作った味の付いていない玉子焼きを“おいしい”と言って嬉しそうに食べてくれた弟が愛しくて、弟においしいものを食べて欲しい一心で料理を覚えました」
「そうか! 年の離れた弟が愛おしいと思うその気持ち、予には痛いほど理解できるぞ! 弟とは可愛いものよな?」
「ええ! 陛下のお気持ちも私には理解できます! 幼い弟が自分に向けてくれた純粋な信頼をなくさない為にはどんな努力でもできますよね!」
「おお、アリス殿にはわかってもらえるか! さよう、幼いモレーノが予を尊敬してキラキラした瞳で見てくれたから、モレーノにいつまでも尊敬してもらえるように勉学も剣も魔法も政も必死に取り組んだものよ!」
私と流威以上に年の離れた王様とモレーノ裁判官。 王様にとっては目に入れても痛くない、ポケットに入れていつでも連れ歩きたいくらいに可愛いんだろうな~。
すっかり王様と意気投合していた私は、
「なるほど、弟御の為に。 陛下と同類だったのですな」
王様という前例がいた為に、宰相があっさりと納得してしまって誤解は解けず、
「もしや弟御の為に1人国を離れて旅に? 後継者争いを起こさせない為か…?」
ぶつぶつ呟いている宰相が誤解を発展させていたことなど何も気が付かずに、王様と“可愛い弟自慢大会”を繰り広げていた…。
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