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メイドさんとの攻防 4
しおりを挟む「マルタ、とっても良い香り♪」
「アリスだって、凄く良い香りよ!」
(おいしそうな匂いにゃ~)
(おいしそう~~)
念入りなマッサージが終わった後、マルタと私は全身に香油を塗りこまれた。
マルタはシトラス系の爽やかな香りで、私はフルーツ系の甘酸っぱい香りになっている。
(齧っちゃダメだからね?)
怪しい感想を呟いた従魔たちに釘を刺してみたけど、返事がないのがちょっと怖い。
今日は甘いデザートをたくさん用意しておいた方が良さそうかな……。
香りを堪能している間に、メイドさん達によって私たちは綺麗に化粧を施され、髪も綺麗に結ってから、美しい髪飾りを飾られた。 もちろん、私はモレーノお父さまから貰ったターフェアイトの髪飾りだ。
ここまでは特に問題もなく、私たちもメイドさん達も和やかな雰囲気の中で進んでいたんだけど……。
「このドレスはちょっと……」
「昨日よりちょっと豪華なだけじゃない? すっごくアリスに似合っているのに何が気に入らないの?」
「フリル」
「え?」
「フリルがヒラヒラし過ぎだし、スカートの裾も広がり過ぎ。 とっても素敵なドレスなんだけどね? 今日の食事スタイルには合わない」
と私が言うと、マルタは着替えの途中のしどけない姿のままその場で立ったり座ったりし始める。
「特に問題なさそうだけど?」
「そう? もしもそのヒラヒラの袖口が料理に入ったり、綺麗に膨らんだスカートの裾が料理に触ったりしたら?
ドレスは【クリーン】でどうとでもするけど、ドレスが触った料理は全部捨てるからね」
私が決意を持ってそう言うと、マルタは慌てて脱ごうとし始めた。
「このドレスはダメよ! もっとシンプルなものにしないと!!」
いきなり意見を変えたマルタにメイドさん達は驚いたようだが、
「アリスが捨てるって言ったら本当に捨てるわ! 今まではそんなことなかったけど、今回のドレスは危険よ。 もっとすっきりした物はないの?
……いつもの装備の方が安全ね。 もう、いっそドレスをやめにしない?」
とまで言い出すのを聞いて一気に慌て始めた。
「お待ちください! 本日の食事会には国王陛下が参加されると聞いております!」
「水晶越しとはいえ陛下の御前に出られるのですから、盛装は礼儀でございます!」
ドレスを脱ごうとしているマルゴを必死に止めようとするメイドさんと、何とか私にドレスを着せようとするメイドさん。
ダメだ。この件は私の手に余る。
「執事さ…、コホン! フィリップを呼んで! それと着替えは中断するわ。 執事との話がすむまではこのままでいるから、無理に着替えさせようとしないで!!」
強い口調でお願いすると、メイド達は困ったように動きを止めた。
「マルタも一旦そのままね? ああ、侍女長か家政婦長がいたら呼んで来て」
執事さんだけだとこの部屋に入れないから困るよね。 呼び名があっているかどうかは自信がなかったけど、女性の責任者を呼んでもらうように言った。 けど、紹介された覚えがないからそういう役職の人はいないのかもしれない。
どうしたものかと迷っている間に、執事さんが到着する。
メイドさん達が目隠しの衝立を立ててくれたのでドアを開いてもらうように指示を出すと、穏やかな声で執事さんが自分の聞いている状況の確認を始めた。
たまに困った行動をするメイドさん達だけど基本は優秀な女性たちだったらしく、ほとんどの状況が正しく執事さんに伝わっている。
「用意されたドレスを着るのなら、食事のスタイルを昨夜の晩餐形式に変更してもらう必要があるの。 私にはこの場のルールがわからないから、判断はあなたに任せるわ」
反対に食事のスタイルをそのままにするなら、このドレスは着用できない。どちらにしても不都合がでるなら、判断は執事さんに丸投げだ!
丸投げされた執事さんは一瞬の間の後、気負う風でもなく穏やかに言った。
「では、ドレスを変更いたしましょう。 お針子をこちらの部屋に呼んでおりますので、お嬢さまが邪魔にならない程度に飾りをお取りください。
ただ、この国のドレスの着用だけはお願いいたします」
王様が見ている以上、ドレスは必須ってことか。 了解!
「この屋敷には侍女長はおらず、侍女のまとめはわたくしがしております。 折り悪く家政婦長も宿下がりをしておりまして…。
お嬢さまやマルタさまにはご不自由をお掛けして申し訳ございません」
続いた執事さんの言葉に思わず納得する。 メイドさん達のたま~の問題行動は、上司がいなくて羽を伸ばし中だったから起こったんだな。
……家政婦長さんが戻ってきたら、しっかりと教育してもらってね!
「わかったわ。こちらはこれ以上の問題はないと思うから、フィリップには大広間の設営を少し変更してもらいたいの」
裾の広がっているドレスを着なくてはいけないなら、今のままの設営では不備が出る。 執事さんに変更内容を伝えていると、パタパタと足音をさせながらお針子さん達が部屋に入って来た。
お針子さん達の後ろからドレスを抱えたメイドさんも走って来たが、状況が状況だけに、執事さんも叱ったりはしない。
「本日のお食事のスタイルをお聞きして、僭越ながらこちらのドレスをお作りしました。 裾の広がりが少なくてこの国の令嬢方にはあまり好まれていませんが、その分動きやすいかと思われます」
本来、令嬢と呼ばれる人たちが食事中に動き回ることはないはずだ。
必要にならない可能性の方が高かった、動きやすいドレスを用意してくれたお針子さんの判断力に感謝して、持ってきたドレスを見せてもらう。 動きやすさを重視しているといっても、十分に華やかなドレスだ。
「……悪くないわ。 この部分の飾りを少し後ろにずらすことは可能?」
「できます!」
「この部分のフリルをとってしまうと寂しすぎる?」
「代わりに宝石を縫い付けましょう!」
「裾が少し長いかも…」
「すぐに裾上げします!」
打てば響く反応に感動した私は、思わずお針子さんの手を握り締めた。
「ありがとう! あなた達のように優秀な人達がいてくれてよかったわ! 時間がなくて大変だと思うけどお願いね!」
本当に大変なことをお願いしているのに、優秀なお針子さん達は嬉しそうな笑顔で「はい」と笑ってくれる。 もう、感謝しかない!
マルタには今夜のことを詳しく説明して、無理にテーブルから動く必要はないと伝えたんだけど、
「いやよ! あたしも自分で料理を見に行きたいわ! ねえ、あたしもアリスみたいなドレスに変更してくれない?」
とお針子さん達にねだり始めた。
時間がないのにどうするのかと思っていると、お針子さん達はみんなで目を交わした後、笑顔で引き受けてくれた。
詳しい希望を聞きながら手を動かし始めたお針子さん達に重ねて感謝する。
後でお礼をさせてね~!!
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