女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
254 / 754

メイドさんとの攻防 4

しおりを挟む


「マルタ、とっても良い香り♪」

「アリスだって、凄く良い香りよ!」

(おいしそうな匂いにゃ~)
(おいしそう~~)

 念入りなマッサージが終わった後、マルタと私は全身に香油を塗りこまれた。

 マルタはシトラス系の爽やかな香りで、私はフルーツ系の甘酸っぱい香りになっている。

(齧っちゃダメだからね?)

 怪しい感想を呟いた従魔たちに釘を刺してみたけど、返事がないのがちょっと怖い。

 今日は甘いデザートをたくさん用意しておいた方が良さそうかな……。








 香りを堪能している間に、メイドさん達によって私たちは綺麗に化粧を施され、髪も綺麗に結ってから、美しい髪飾りを飾られた。  もちろん、私はモレーノお父さまから貰ったターフェアイトの髪飾りだ。

 ここまでは特に問題もなく、私たちもメイドさん達も和やかな雰囲気の中で進んでいたんだけど……。

「このドレスはちょっと……」

「昨日よりちょっと豪華なだけじゃない? すっごくアリスに似合っているのに何が気に入らないの?」

「フリル」

「え?」

「フリルがヒラヒラし過ぎだし、スカートの裾も広がり過ぎ。 とっても素敵なドレスなんだけどね? 今日の食事スタイルには合わない」

 と私が言うと、マルタは着替えの途中のしどけない姿のままその場で立ったり座ったりし始める。

「特に問題なさそうだけど?」

「そう? もしもそのヒラヒラの袖口が料理に入ったり、綺麗に膨らんだスカートの裾が料理に触ったりしたら?
 ドレスは【クリーン】でどうとでもするけど、ドレスが触った料理は全部捨てるからね」

 私が決意を持ってそう言うと、マルタは慌てて脱ごうとし始めた。

「このドレスはダメよ! もっとシンプルなものにしないと!!」

 いきなり意見を変えたマルタにメイドさん達は驚いたようだが、

「アリスが捨てるって言ったら本当に捨てるわ! 今まではそんなことなかったけど、今回のドレスは危険よ。 もっとすっきりした物はないの? 
 ……いつもの装備の方が安全ね。 もう、いっそドレスをやめにしない?」

 とまで言い出すのを聞いて一気に慌て始めた。

「お待ちください! 本日の食事会には国王陛下が参加されると聞いております!」
「水晶越しとはいえ陛下の御前に出られるのですから、盛装は礼儀でございます!」

 ドレスを脱ごうとしているマルゴを必死に止めようとするメイドさんと、何とか私にドレスを着せようとするメイドさん。 

 ダメだ。この件は私の手に余る。

「執事さ…、コホン!  フィリップを呼んで! それと着替えは中断するわ。 執事との話がすむまではこのままでいるから、無理に着替えさせようとしないで!!」

 強い口調でお願いすると、メイド達は困ったように動きを止めた。

「マルタも一旦そのままね?  ああ、侍女長か家政婦長がいたら呼んで来て」

 執事さんだけだとこの部屋に入れないから困るよね。  呼び名があっているかどうかは自信がなかったけど、女性の責任者を呼んでもらうように言った。 けど、紹介された覚えがないからそういう役職の人はいないのかもしれない。

 どうしたものかと迷っている間に、執事さんが到着する。

 メイドさん達が目隠しの衝立を立ててくれたのでドアを開いてもらうように指示を出すと、穏やかな声で執事さんが自分の聞いている状況の確認を始めた。

 たまに困った行動をするメイドさん達だけど基本は優秀な女性たちだったらしく、ほとんどの状況が正しく執事さんに伝わっている。 

「用意されたドレスを着るのなら、食事のスタイルを昨夜の晩餐形式に変更してもらう必要があるの。 私にはこの場のルールがわからないから、判断はあなたに任せるわ」

 反対に食事のスタイルをそのままにするなら、このドレスは着用できない。どちらにしても不都合がでるなら、判断は執事さんに丸投げだ!  

 丸投げされた執事さんは一瞬の間の後、気負う風でもなく穏やかに言った。

「では、ドレスを変更いたしましょう。 お針子をこちらの部屋に呼んでおりますので、お嬢さまが邪魔にならない程度に飾りをお取りください。 
 ただ、この国のドレスの着用だけはお願いいたします」

 王様が見ている以上、ドレスは必須ってことか。 了解!

「この屋敷には侍女長はおらず、侍女のまとめはわたくしがしております。 折り悪く家政婦長も宿下がりをしておりまして…。 
 お嬢さまやマルタさまにはご不自由をお掛けして申し訳ございません」

 続いた執事さんの言葉に思わず納得する。 メイドさん達のたま~の問題行動は、上司がいなくて羽を伸ばし中だったから起こったんだな。 

 ……家政婦長さんが戻ってきたら、しっかりと教育してもらってね!

「わかったわ。こちらはこれ以上の問題はないと思うから、フィリップには大広間の設営を少し変更してもらいたいの」

 裾の広がっているドレスを着なくてはいけないなら、今のままの設営では不備が出る。  執事さんに変更内容を伝えていると、パタパタと足音をさせながらお針子さん達が部屋に入って来た。

 お針子さん達の後ろからドレスを抱えたメイドさんも走って来たが、状況が状況だけに、執事さんも叱ったりはしない。

「本日のお食事のスタイルをお聞きして、僭越ながらこちらのドレスをお作りしました。 裾の広がりが少なくてこの国の令嬢方にはあまり好まれていませんが、その分動きやすいかと思われます」

 本来、令嬢と呼ばれる人たちが食事中に動き回ることはないはずだ。 

 必要にならない可能性の方が高かった、動きやすいドレスを用意してくれたお針子さんの判断力に感謝して、持ってきたドレスを見せてもらう。 動きやすさを重視しているといっても、十分に華やかなドレスだ。

「……悪くないわ。 この部分の飾りを少し後ろにずらすことは可能?」
「できます!」

「この部分のフリルをとってしまうと寂しすぎる?」
「代わりに宝石を縫い付けましょう!」

「裾が少し長いかも…」
「すぐに裾上げします!」

 打てば響く反応に感動した私は、思わずお針子さんの手を握り締めた。

「ありがとう! あなた達のように優秀な人達がいてくれてよかったわ! 時間がなくて大変だと思うけどお願いね!」

 本当に大変なことをお願いしているのに、優秀なお針子さん達は嬉しそうな笑顔で「はい」と笑ってくれる。 もう、感謝しかない!

 マルタには今夜のことを詳しく説明して、無理にテーブルから動く必要はないと伝えたんだけど、

「いやよ! あたしも自分で料理を見に行きたいわ!  ねえ、あたしもアリスみたいなドレスに変更してくれない?」

 とお針子さん達にねだり始めた。

 時間がないのにどうするのかと思っていると、お針子さん達はみんなで目を交わした後、笑顔で引き受けてくれた。

 詳しい希望を聞きながら手を動かし始めたお針子さん達に重ねて感謝する。

 後でお礼をさせてね~!!
しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...