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初めての馬車旅 22
しおりを挟む突然のパーティー解散発言に驚いている私たちを置いて、ビビアナは1人話し続けていた。
「私の知っているあんたは先輩冒険者のアドバイスを素直に受け入れて、ミスをしたらきちんと反省して謝ることのできる男だった。でも、今のあんたはイザックさんのアドバイスを頭から拒否してミスを認めない。
それって、アリスさんの前だからだよね。
綺麗なアリスさんの前でカッコ悪い姿を見せることを認められないから、そうやって意地を張ってるの。
……そんなあんたを見てるの、もう疲れたよ」
「な、お前、いきなり何を言い出すんだ!?」
「サルがイザックさんとアリスさんに突っかかっていくのを見る度に、私がどんな思いであんたを見ていたかなんて、あんたは気付きもしないんだ」
サルの慌てる姿を見てもビビアナは何も感じないらしく、何かに突き動かされるように話し続ける。
「私みたいに平凡な容姿じゃあ、あんたが満足しないことには気が付いていたけどね。それでも、綺麗な人を前にした時のあんたの露骨に変わる態度を見て、私が何も感じないとでも思ってた?」
ビビアナは話しながらどんどん感情を高ぶらせ、とうとう涙をこぼしながら叫ぶように言った。
「もう、あんたと一緒になんていたくない! 私のことを見ないあんたはもういらない! 私は私をもっと大切にしてくれる人とパーティーを組むから、サルとはここでお別れする!!」
「……ふざけるなっ! 今まで守ってやっていたことも忘れたような口を利きやがって!
こっちこそお前のような可愛げのない女はお断りだっ! ああ、今ここで解散してやるよ。とっととどこへでも行っちまえ!」
「………お前ら、いい加減にしろっ!!!」
ビビアナの拒絶の言葉を聞いたサルがビビアナに別れを告げるのを聞いて、それまで黙って見ていたイザックがとうとう2人を怒鳴りつけた。
「こんな所で解散だの別れるだの、お前たちには護衛依頼を遂行中だという自覚がないのか!? ジャスパーを立ってまだ3日目だぞ。ラリマーまであと何日あると思っているんだ? 依頼を途中で放棄するつもりなのか!?」
「「…………」」
上位ランク冒険者からの忠告に2人は一瞬だけ黙り込んだが、
「こんな所で❝解散❞を言い出したのはビビアナだ。 ペナルティーはビビアナが負えばいい」
「<冒険者ギルド>と<依頼>はそんなに甘くねぇよ! 解散を受け入れて依頼を途中で放棄するなら、当然お前も処罰の対象だ!」
「パーティーを続けられないのはサルの態度のせいなんだから、仕方がないと…」
「護衛の途中、こんな所で解散を言い出したのはお前だろう? 人のせいにするな! どうして街に着いてからにしなかったんだ? 護衛依頼を舐めているのか!?」
2人ともが責任をお互いのせいにしては、イザックに切り捨てられていた。
周りを見回すと、護衛たちの不仲を見せられている乗客たちの顔は不安に曇っているし、依頼主のディエゴ親子は不愉快そうに眉間にしわを寄せている。
どうしたものかと考えていると、
(もう、遠くへ逃げなくていいのにゃ?)
ハクが不思議そうに問いかけた。
予想外のビビアナの行動に一瞬状況を忘れていたけど、私たちは今、追跡してくるかもしれないハーピーたちから逃げている最中だった。
「イザック、ハーピーとの距離はもう大丈夫なの?」
「大丈夫じゃねぇな。 ディエゴ! 馬の世話と交代は済んだのか? 」
「あ、ああ! すぐに代える!」
やっぱりまだ逃げなくてはいけなかったらしく、イザックはすぐさまディエゴに指示を出してからサルたちに向き合った。
「お前たちがもう冒険者をやめるって言うなら俺は何も言わないが、これからも冒険者を続けるつもりがあるのなら少しは冷静になれ!
討伐依頼ならまだしも、今受けているのは護衛依頼だろう? お前たちの身勝手な行動の為に、依頼主と乗客を危険に晒すつもりか!?」
先輩冒険者の一喝は2人にも届いたらしく、一瞬唇を歪めた2人だけど、ぎこちなく頷き合ってからディエゴ親子と乗客たちに頭を下げた。
……ラリマーに着くまでは話を凍結させるつもりらしいと安心していたら、
「あの……、街までパートナーを交換してもらえませんか?」
私たちに火の粉が飛んできた。
「は? ふざけるなよ、ビビアナ。 どうして俺たちがお前たちの為にバラけないといけないんだ? そもそも、お前たちは俺たちが客だってことを忘れていないか?」
降りかかる火の粉をイザックがあっさりと払ってくれて、ほっとする。 夜の間中、2人のうちのどちらかとずっと一緒だって想像するだけでも、胃が重たくなった気がするからね。
「そんな訳では……。 すみませんでした……」
イザックに拒否されたビビアナは目を伏せて顔を曇らせたけど、同情はしない。 私たちを巻き込もうとするのはやめて欲しいな。
途中でもう一度休憩を挟み、馬を急かしながら移動して野営のできそうな所に着いたのは、もう日が落ちる寸前だった。
急いで野営の支度をしてごはんを取り出すと、いそいそとディエゴ親子とお腹の出たおじさんが近づいてきた。 鍛冶屋の親方とペーター君一家もその後に列を作る。
ごはんの販売がすっかり定着しちゃったな~。 作る量を増やさないと、森に着いてから困るかもしれない。
ディエゴ親子にはおまかせ定食を2種類、お腹の出たおじさんにはボアバラ大根とハニーヨーグルト、鍛冶屋さんには照り焼きハーピーと卵スープ、ペーター君一家には野菜と卵のスープを2人前とボア串のたれ焼きを2本販売すると、
「本当に出てきた!」
「凄いな! 何種類用意しているんだ?」
「このメニューには本当に出せるものしか載せていないのか?」
食べる前から妙に盛り上がっている。
「美味しい! 母さん、この固いパンも美味しいスープと一緒に食べると美味しいよ!」
「ほんとね~。お肉も信じられないくらいに柔らかくて美味しいから食べてごらん」
ペーター君とお母さんだけは食べた感想を言ってくれたけどね。 冷める前に食べてもらえて嬉しいよ!
「イザックは何が食べたい?」
「チーズバーガー!」
(ハクとライムは?)
(肉!)
(こおり!)
リクエストされたものをインベントリから選んで取り出すと、「あれは何だ!?」と周りがどよめいたけど気にしない。メニュー表には載せているから、気になったらオーダーが入るだろう。
少し離れた所から、バラバラに座ったサルとビビアナの視線を感じたけどそれは無視する。 今関わると碌なことにならないだろうしね。
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