女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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初めての馬車旅 30

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 イザックがあまりにも真剣に❝ゴブリンの撲滅❞を語るので驚いていると、私が理解できていないことに気が付いたイザックが<ゴブリン撲滅の必要性>講座を開いてくれた。

 ゴブリンは魔物の中では弱い種族で、1匹と遭遇するだけならそこまで脅威を感じることはない。 

 でも、ゴブリンは群れを作って集団で生活をする習性があり複数で行動することが多いので、実力に不足があったり数で負けていると苦戦を強いられることもあるので、要注意。

 そして、ゴブリンが集団を作れる理由の一つの❝繁殖力❞

 ゴブリンは異様に繁殖力が高い種族で、雌雄一対がいれば三月後には孫が生まれているのが当たり前で、放っておくとアッという間に集団が出来上がるらしい。

「それに、ゴブリンは異種族間でも繁殖が可能なんだ。 ゴブリンに捕まった女たちは❝苗床❞として、死ぬまで出産を繰り返すことになる」

「……は?」

 ゴブリン同士での生殖で生まれる子よりも、他種族、特に人や亜人、エルフとの間にできる子の方が強い個体に生まれるので、ゴブリンは積極的に人型の女性を犯したがるらしい。

「奴らは性欲が強いからな。集団で絶えず犯されて、短いスパンで妊娠・出産を繰り返すことになる。 女の気が狂っても孕ませることに問題はないから、奴らに遠慮なんてものはないぞ」

「私たちの出産って、十月十日はかかるんじゃなかった?」

「ああ。通常の出産ならな。 ゴブリンに犯された女が孕むのはゴブリンの子だ。ひと月ではらから出てくる」

 ……無理やり犯された挙句に、魔物を出産? 想像するだけで気が遠くなりそうだ。 

 イザックは血の気が引いて気分が悪くなってしまった私を座らせて、ハクとライムを膝に乗せてくれた後も話を続けた。

 ゴブリンに捕まった女性が無事に解放される確率はとても低く、運よく助けられても、多くの女性が正気を手放していて、長く生きることはないようだ。

 また、人族の男性の精子で子を作った雌のゴブリンが産んだ子もやはり強い個体になるらしいが、

「男はその気にならんとモノが使えないからな。 ゴブリン相手にその気になるやつもそうはいないから、ほとんどが食料にされる。 勃起しないことに腹を立てた雌ゴブリンにモノを引きちぎられた後にな」

 ということらしい。 どっちにしても、まともな最期は迎えられないようだ。

 また、赤ん坊だからといって見逃してしまうと、その一月後には立派なゴブリンに成長してしまうので、見つけたら、情け容赦なく退治しなくてはならない。 

 私たち、人族の不幸の連鎖を生まない為に。

「できるか…?」

「……うん」

 イザックの話を聞いた上で「そんなことできない、したくない」なんて、とても言えない。 

(ゴブリンは魔物にゃ! 退治するとお金になるのにゃ!!)

 直接自分に害をなさない❝赤ん坊❞という存在を手にかける覚悟を決めようとこぶしを強く握った私に、ハクがいつも通りの顔で、いつも通りの発言をする。

(………)

(この世界ビジューには魔物がいて、魔物は人族を襲う。それを退治するのが冒険者の仕事にゃ! 
 アリスが魔物を見逃しても、魔物はアリスや他の人族を見逃したりしないにゃよ)

 あまりにもいつも通りのハクを見ていて、ふと思い出した。  

 ビジューもハクも、最初から私を冒険者にしたがっていたな。 こういうことも最初から分かった上で、私に冒険者稼業を勧めていたのかな?  

 それはちょっと厳しいと思いながらも、こういうことまものたいじが当たり前の世界なんだとストンと胸に落ちてきた。

 何かを、誰かを守る為!なんて、悲壮な覚悟を決めるような話ではない。 厳しいことが当たり前の世界で生きていくだけなんだと。

 それなら、冒険者になることを決めた私が魔物退治をするのは当たり前。 どうしても辛く感じたら、ビジューやハクの期待を裏切るのは申し訳ないけど、【治癒】ができる<商人>として生きていく道もある。

 だから、

「その場になってみないとわからないけど……、多分できると思う。 私はゴブリンという種族よりも、自分と自分に関わる人たちの方が大事だから」

 今は正直な気持ちを答えておこう。 その場で自分が何を感じるかは、その時にならないとわからないから。

「できない可能性もあるのか?」

「限りなく低いと思うけどね。 今まで襲ってくる魔物ばかりと戦ってきたから、無抵抗(?)の魔物を退治するイメージが湧かなくて…」

「そうか……。もしもその場で迷いが出たら、すぐにそこから全力で逃げろ。 迷いを抱いたままで魔物と対峙するのだけは避けるんだぞ?」

「わかった」

 さっきは❝逃げるな❞と言っていたイザックが、今度は❝全力で逃げろ❞と言う。 どんな時でも自分の命を守るために行動することを、頭に叩き込んだ。








「まだ食べられないのか?」

「うん、まだ。 朝になったら食べようね?」

 ハクとライムがおとなしく諦めたと思ったら、今日はイザックが駄々っ子モードに入ってしまった。

 スライム皮で包んだまま茹でたハーピー肉を余熱調理中なんだけど、イザックの目には❝できた料理を放置している❞ように見えるようで、味見したさにそわそわしている。

(イザック、つまみ食いはダメにゃよ? 連帯責任はイヤにゃ!)

(ありすをおこらせたらごはんがなくなるよ?)

 いつもは駄々をこねる2匹が珍しくイザックを止める側に回っていて、見ていて面白い。

 自分の足元をパシパシはたいている2匹に苦笑を零し、イザックは肩を竦めながらお米を洗い始めた。 

 うん。お米はいっぱいあるから、たくさん炊いておいてね! 

 スフェーンの森では調理をしなくてもいいように、今のうちにたくさんごはんを作っておかないと♪
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