女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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ただ、生きて欲しい

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「この子を街に連れて帰ったら、どうなると思う?」

「……親がいれば親元に帰って、もしもいなければ、どこか…、保護施設や教会とかで保護されるんじゃないの?」

 私の答えを聞いた彼女は目を閉じて眉間にしわを寄せるとそのまま首を横に振り、深い呼吸を繰り返し、

「あんたは夢の国から来たのか? あいにくここは現実だ。 そんなに甘くはないよ」

 子供に言い聞かせるように、ゆっくりと言った。

「この子は行商人の娘で、一緒に旅をしていた両親はゴブリンに殺された。 ……たとえ親が生きていたとしても、ゴブリンに犯された上に正気まで無くした娘を迎え入れてはくれないよ」

 彼女たちは地球で言う犯罪被害者のようなもの。彼女もだけど、まだ幼さの残る少女は保護されて手厚くケアされるのが当たり前だと思っていた私は、頭を殴られたような衝撃を受けた。

「ゴブリンに犯された女なんてもう嫁にも行けないし、まともな働き口もありゃしない。 その上で正気を無くした女の行く末なんざ、言わなくてもわかるだろう? 
 ……場末の売春宿ではした金で売り物にされるならましな方。 薄汚い路地裏で死ぬまで好き放題に嬲り者にされるのが定石さ。 自分で飯も食えないこの子だと、3日と生きちゃいないよ」

 この環境から出て行ったら正気を取り戻したかも?という考えは、彼女の説明で霧散する。

 母親と一緒に犯されていた挙句、先に亡くなった母親が目の前でゴブリン達に食い荒らされるのを見てしまったら、手放した正気を取り戻すことは難しいだろうし、正気に戻ったとしても、長く精神を苛まれることは想像に難くない。

 ❝私が少女を保護して一生面倒を見る❞ 今、そこまでの覚悟は持てない私に、彼女のしたことを非難することはできなかった。

 思えば、私を少女に触れさせなかったのは、少しでも情が移らない様にと考えてくれた彼女の思いやりだったんだろう。 それに気が付いた私がお礼を言おうと顔を上げると、

「この子を殺した責任は取るさ。 あたしが女神の元に送って行くよ」

 彼女は拾った木の枝で自分の喉を突こうとしている。

「なっ…! 待って! ちょっとだけ待って! は、話をしよう!?」

 慌てて彼女の手から木の枝を叩き落としたけど……、彼女の浮かべる表情はさっきのまま、一見穏やかにさえ見える表情のままだ。 

 ……彼女には❝生きる意志❞がないらしいけど、目の前で命を絶とうとしているのを黙って見てはいられない。

「どうしてあなたが死ぬの!? あなたは正気で怪我だってもう治ってる! 死ぬ必要なんてないでしょ!?」

「……生きる必要もないね」

 私が言葉の選択を間違えたのか、彼女は目を伏せて小さく首を振ると、もう、私を見てはくれなかった。

「あなたが死んだら悲しむ人がいるでしょう!? ……私だって、目の前であなたに死なれたら、悲しい、とは違うかもしれないけど、ショックだよ!」

 小さく「だったら見るな。さっさと立ち去ればいい」と呟くように言った彼女の手を強引に握り、注意を引き付ける。

「じゃあ、説明して! どうしてあなたが死を選ぶのか。 私を納得させてよ! そうしたら、もう、何にも言わない。 
 ……お墓を作って、花を供えて、あなたと彼女が迷わずビジューめがみの元へたどり着けるように祈るから!」

「花……」

「そう、お花! お墓にお花くらいないと寂しいじゃない? あなたの話に納得したら、私があなたの最後を看取って、お墓…、穴を掘るだけだけど、お墓を作ってお花を供えるよ。 
 だから、あなたの話を聞かせて?」

 必死に言葉を重ねると彼女は少女に目をやって、小さく、本当に小さくだけど微笑みを浮かべると、

「そうだね。この子の為に、花を供えてもらおうか……」

 少女を抱いていた片腕からゆっくりと力を抜いた。

 彼女から少女を受け取り、帆布の上に横たえさせてからマントを着せ掛ける。 もっと早く渡せばよかったと反省しながら彼女にもマントを渡すと、素直に受け取って羽織ってくれる。

 彼女の様子に少しだけ安心しながらインベントリからお茶を取り出して手渡すと、少しだけ目を見開いた。

「温かい……?」

「うん、おいしいから一緒に飲もう」

 少しでもリラックスしてもらえるようにと選んだシチュードティーに何を感じたのか、彼女は黙ってしまった。

「よかったら、これも食べてね?」

 聞こえているかはわからないけど、一声かけてからミルクプリンも出しておく。 ……お腹に優しい食べ物を食べて、少しでも元気になって欲しいと祈りながら見つめていると、彼女は深いため息を吐きながら、口を開いた。

「あの数のゴブリンを1人で殲滅した上に全部アイテムボックスに放り込んだかと思ったら、こんな温かい飲み物まで……」

 独り言のように呟くと、いきなり高い声で笑いだす。

「なんなんだよ、あんた! 幸運を独り占めして生まれてきたってのか!? 
 お綺麗な顔に、高い戦闘力。温かさが保てるほどのレベルの高いアイテムボックスに、バカみたいに金のかかってそうな装備!
 それらのどれか一つでもあたしの物だったら、あたしはこんなことになってなかっただろうに……!」

 彼女の様子と言ったことに返す言葉を失った私を見て、少しだけバツの悪い顔をすると小さくため息を吐き、

「あんたが悪いんじゃない。ただの八つ当たりだよ…」

 と言って、そっぽを向いてしまう。

 彼女に落ち着いて欲しくて、元気になって欲しくて取った私の行動は空回りしたようだ。

 思わずしょんぼりすると、

「あんた、親は?」

 質問が飛んでくる。 私が話を聞く予定だったんだけどな。 

 どうしてこうなったのかはわからないけど、聞かれたことに答えることにする。 

 何が彼女を傷つけることになるかわからないから、ちょっと不安だけどね……。
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