女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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最初が肝心だから 2

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 ギルドを飛び出して行く冒険者たちを見送りながら、改めて聞いてみる。

「治癒士に治してもらった場合、いくらくらいかかるものなの?」

「……このケースなら」

 私の担当さんはいきなり話を振られてびっくりしていたけど、「どうして?」とか「何のためにそんなことを?」といった無駄な質問をすることなく、冷静に答えてくれた。

「四肢欠損の治療をするなら軽く1千万メレを超えるのが相場ですが、今回は切られた腕が綺麗な状態で残っているので安く……」

 すらすらと話してくれていた担当さんが不意に口を噤む。 瞬きを忘れたように一点を見つめていて、その視線の先には……。

 落ちている腕の切り口に重点的に酸を掛けているライムと、5本の指を手から切り離しているハクの姿があった。

 ……あの腕はもう使えないだろうなぁ。

 残酷な遊びに興じている2匹が、

(この腕がアリスを掴んだのにゃ! おしおきにゃ!)
(ありすのうでがいたそうなの、ゆるさないーっ)

 と、私の為に怒ってくれているのがわかるので、私としては2匹を叱れない。 2匹の気持ちが嬉しくて思わず笑っちゃったしね。

「あの腕はもう使えなさそうね。で、いくらくらい掛かると思う?」
「ひでぇ……、あそこまでしなくても」

 私が担当さんに声を掛けるのと同時に聞こえた声。 誰の声かはわからないけど、

「私はこの男の腕を❝潰す❞と警告したわよ? 後から文句を言うくらいなら、初めに彼を止めれば良かったのに!」

 言外に❝おまえ自身も当事者だ❞と鼻で嗤ってやる。 

 うちの可愛い従魔たちに、くだらない反感を残さない様にしないとね!

 私の言葉を聞いて悔しそうに唇を噛みしめた男は放っておいて、私の担当さんに向き合うと、

「今回のケースだと1,200万メレ前後が相場かと。 腕を無くした直後で治療が楽ですからね。まあ、治癒士によって多少は変わりますが。それに出張費の50万メレがかかって、1,250万メレといったところでしょうか」

「出張費が50万メレ!? ……動けない病人や怪我人の為にわざわざ来てくれるのはとてもありがたい話だけど、50万メレも掛かるなら、仲間たちが抱えて治癒士の所まで運んだ方が早い上に安くない?」

 50万メレと言えばお風呂付の宿に1泊できるくらいの大金だし、治癒士を呼びに行って一緒に戻って来ると往復の時間がかかるけど、この男を連れて行ったら片道の時間で済む。

 運ぶ人手は余っているくらいなのに、どうしてわざわざ呼びに行ったのかと不思議に思って聞いてみると、

 治癒士の治療を受けるには、教会の門が開いている朝の9時から夕方の16時までに訪ねて行かないといけない。 それ以外の時間に治療を受けたいのなら❝出張費❞として50万メレを上乗せしないと治療してもらえないと説明された。

 別にわざわざ❝出張❞なんてしなくても、❝時間外診療費❞として別途料金をもらえばよくない? その無駄な時間で命を落とす人たちだって出てくるだろうに……。

 ついつい眉間によってしまったしわをほぐしていると、ギルドのドアが乱暴に開いた。

 さっきギルドを飛び出して行った冒険者の内の1人が戻って来たのだ。

 治癒士が来てくれた!とギルド内に安堵の雰囲気が広がる中、戻って来た冒険者はその体で入り口を塞いだまま顔を強張らせている。

 不審に思った誰かがどうしたのかと問う間もなく悔しそうに口を開くと、

「すまない! 奴らに出張を拒まれちまった……!」

 血を吐くように叫んで壁にこぶしを打ち付つけた。

 ……冒険者が教会に行ってみると、珍しいことに門が開いていたので彼は幸運に感謝をしたらしい。門番に説明をして門を開けてもらう時間が短縮できた上に、建物の入り口には治癒士が2人も立って談笑していたからだ。

「これでヤツの腕は治る!」と喜びながら駆け寄った彼に、治癒士たちは表情を冷たいものに変えて、「今日は大切なお客様がお越しになるから出張治療はしない。明日出直せ」と告げたそうだ。

 腕を無くす大怪我をしている上にポーションも足りない。何とか助けて欲しいと懇願してみたが治癒士たちの態度は変わらず、けんもほろろにあしらわれた。

 治癒士を力づくで連れてくるわけにもいかず、集まって来た門番にも追い出されてしまい、仕方なしに戻って来たらしい。

「すまない…っ!」

 自分が悪いわけでもないのに詫びる彼の姿に、男の仲間たちも責める言葉は持たないようだ。 出血は落ち着いたものの自分の置かれた状況を理解して涙を流している男の顔を、唇を噛みしめ、こぶしを握り締めながらただ見つめている。

 痛みと絶望に涙で顔をぐちゃぐちゃにしている男と後悔しているそぶりの仲間たち。それを見守る冒険者たちから私を恨む声が出ていないことから(内心はどう思っているにしても)、彼らの性根が腐っているわけではないと判断して、たくさん儲けてあげることにする。

 何も言わなくても私が彼を治療しようとしていることに気が付いた従魔たちが、

(放っておくにゃ!)
(なおさなくてもいいよ~?)

 と抗議の声を上げるけど、

(明日はフランカのいた孤児院に行ってから、観光しよう! 残金を気にせずにおいしそうなものを買う為にも、お金はいっぱいあった方がいいでしょ? 稼いでおこう?)

 と説得すると、簡単に手のひらを返した。

 値切り交渉には応じないことと私が格安価格を提案しないことを条件にされてしまったけど、今回は大丈夫!

 担当さんと話している最中にいきなり絡まれたことの不愉快さを忘れていないからね!

「前払いで1,300万メレを支払うなら、その男の腕を生やしてあげてもいいけど?」

 男の鳴き声交じりのうめき声しかしていなかったギルド内に、私の冷たい声が必要以上に大きく響いた。

 ……自分が思っていた以上に冷たい声が出てしまい、内心で慌ててしまったことは内緒の話だ。
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