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最初が肝心だから 1
しおりを挟む腕を飛ばされた男の悲鳴が響く中、ギルドは一瞬だけ静寂に包まれたけど、すぐに喧噪が広がった。
「てめぇ! 何しやがる!!」
男の仲間たちの怒声、こちらへ向かってくるドカドカとやかましい足音、驚いた酔っ払い達が床に落とした食器の割れる甲高い耳障りな音。
それらに負けない様に、私も声を張る。
「警告はしたわ!『やれるものならやってみろ』と言ったのはそこで転がっている男自身よ。 ……これ以上私に絡んでくるならその命を放棄したものと見なすから、覚悟するのね!」
武器を手にこちらへ向かってくる男たちをただ突っ立って待っていてあげるほど、私は世間知らずではない。
迎撃する気満々で<鴉>を構え、ハクにライムと私の担当さんを守る為の防御壁を張ってもらうようにお願いしながら警告する。
私の警告を❝挑発❞と受け取った男たちが余計にいきり立ったけど、男たちを害する覚悟を決めた私には、どうでもいいことだ。
オスカーさんも「世の中にはふざけた野郎がウヨウヨいる。理不尽な目に遭いそうだと判断したら、遠慮なくぶった切っちまえ!」って言っていたしね。 ありがたいアドバイスには従わないと♪
血相を変えた男たちが私に迫り、男たちの手足を飛ばす為に私が<鴉>を握り直した瞬間、それまで静観の構えだった(私の受付さん以外の)ギルド職員たちが動き出した。
「そこまでだ!」
「全員動くな!!」
ギルド職員の声と同時に破裂音が響き、視界が白く染まる。 ……白い煙のようなもので視界を奪われて、相打ちを恐れた男たちは動きを止めた。 その代わりに、
「俺たちは仲間を傷つけられた落とし前を付けるだけだ!」
だの、
「先に暴力を振るったのはあの女だぞ! あの女を拘束しろ!」
と言った怒鳴り声が響いたけど、ギルド職員は誰も(ビーチェと呼ばれた受付以外)相手にしない。
「最初に嫌がる彼女の腕を掴んで離さなかったのはお前たちの仲間の方だ!」
「彼女の警告を本気にしなかったお前たちが悪い!! これ以上は私闘と見なしてギルドが介入する!」
「ギルド内での私闘は禁止事項よ! この煙が晴れた時に立っている冒険者は戦いの意思が有ると見なして処罰します! 処罰の対象になりたくなければその場に座りなさい!」
「仲間の命が惜しくはないのか!? 争う暇があるのなら手当をしろよっ!」
……さっきまでの静観の構えはどこへ行ったのか。 私の知らないギルド内のルールに則って、ギルド職員たちが主導権を握っていた。
確かに、私の腕を掴んでいた男をこのまま放置すると出血多量で大変なことになるだろうし、争っている暇なんかはないだろうな。
私のすぐそばで転げ回っている気配があるんだけど……、まだ、大丈夫だ。放っておこう!
白い煙が晴れた時、その場に立っていたのはギルド職員たちだけだった。
その場にいた冒険者たちは不服そうな顔、不安そうな顔、心配そうな顔をしながらそれぞれその場に座り込んでいる。
「ポーション代は後で支払いなさいよ!」
職員の女性がポーションを持って、転げる力を無くしてうずくまっている男の所へ駆け寄ると、
「ああ、必ず払う! 助けてやってくれ!」
少し冷静になったらしい、腕を飛ばされた男の仲間が頭を下げた。
「アリスさま、大丈夫ですか!?」
「私は大丈夫。強く掴まれた腕には痕が残っているけどね。
それよりも、ギルド職員が冒険者を❝さま付け❞するのはここのギルドのルールなの? 以前立ち寄ったギルドではそんなことはなかったんだけど?」
ことの決着が付いていない今、暇な私は気になっていた疑問を担当さんに聞いてみる。
それまで呼び方を意識していなかったらしい担当さんが、❝初対面の時のビーチェの態度があまりにも悪すぎたので、フォローする立場としてついつい丁寧になりすぎた❞と言って気まずそうに苦笑したので、だったらこれを機に、普段通りの話し方にして欲しいと伝える。
ちょっと驚いた顔の担当さんだったけど、私が「冒険者とギルド職員は対等でしょう? 私もあなたをさま付けで呼べばいい?」と聞くととてもイヤそうな顔になり、快く了承してくれた。
「では、アリスさん。 改めてよろしくお願いしますね! 私は」
「ポーションが足りないわ! 誰か予備を持っていたら買い取らせてちょうだい!」
……担当さんが名乗ろうとしてくれた時、ポーションを男の切り口に掛けていたギルド職員さんが悲鳴のような声を上げた。
冒険者たちにとってポーションは必需品。誰かが渡すだろうと思って黙っていると、冒険者たちは悲壮な顔で首を横に振る。 ……なんで持ってないの?
不思議に思ったのは私だけのようで、職員さんが「そうよね。今日は誰も持っていないわよね…」と呟いているのが聞こえたので、何か訳アリなのかな?
ポーション担当(?)の職員さんが気まずそうにだけど、すがる様に私の顔を見ていることに気が付いた私はちょっとだけ考えて首を横に振る。
私の態度を当然だと受け止めた職員さんが、何とか出血を抑えようとしているのを見ながら、私はぐったりしている男と男の仲間たちを観察した。
男はぐったりとして目をつむり、仲間たちはその様子を辛そうな、悔しそうな、何とも言えない表情で見つめている。 先ほどまでの下卑た様子はみられない。 ただ、仲間を心から心配する姿がそこにあった。
……仕方がないなぁ。
「誰か、治癒士を呼んで来てくれ!」
「ねえ、担当さん。 この男の治療に掛かる費用はいくらくらいかな?」
私の声と、男の仲間の声がほぼ同時にギルド内に響いた。
え? お高いことで有名な治癒士を呼ぶの? だったら少し多めに稼がせてもらっちゃおうかな~♪
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