女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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ここまで長かった…

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「ギルドで宿を経営しているって聞いたんだけど、部屋は空いてる? 空いていないなら、今から泊まれる宿を紹介して欲しいんだけど」

【リカバー】を使える<冒険者>はとても貴重な存在らしく、ギルドにいた冒険者たちの私を見る目は一気に好意的なものに変わった。中には面白くなさそうな顔でこちらを睨んでいる人(ほぼ女性)もいるけどね。

 彼らの熱気に付いていけない私は、早々にこの場から退散することにする。

「宿泊に関してはあちらの食堂兼酒場のマスターの管轄になりますので、ちょっと確認をしてき…。 空いているみたいですね」

 担当さんが酒場に向かおうと立ち上がると同時に、こちらを見ていた酒場のマスター(食堂の時はなんて呼ぶのかな?)がハンドサインを送ってくれて、無事に部屋の予約が取れた。

 今夜の宿が取れたことに安心しながら担当さんに明日の勤務予定を聞くと、朝の4時で交代とのことだったので少しだけ迷う。 今から眠って担当さんの交代前に起きて話をするか、襲ってきている睡魔を蹴散らして今から話をするか……。

 担当さんが何か用かと聞いてくれたので報告と相談があることを告げ、簡単な事情を紙に書いて渡すと、

「……っ」

 担当さんが息を呑むのが伝わって来た。

 ❝スフェーンの森にゴブリンの群れ有り。退治済み。捕らわれの女性に生存者なし。捕らわれの女性の遺品を預かっているので相談したい❞

 文字にすると、たったこれだけ。でも、みんなの耳目が集まるこの場では報告したくない。

 そんな思いが伝わったのか、担当さんは紙に❝どれくらいの群れ?❞とだけ書いて私に視線を向ける。

 ❝巣にいたのは82体。その後巣に戻って来たのが6体いたから合計で88体❞と答えると、担当さんは驚いたように目を見開いたけどすぐに気を取り直し、少しだけ震える手で、紙に書いた単語を指差すことで私にいくつかの確認をとる。

 ❝討伐済み❞❝生存者なし❞❝相談❞彼女が単語を指差すたびに頷きを返し、最後にもう一度❝88匹❞❝退治済み❞を指差すのを見て、❝その場に一晩留まり、巣に戻った個体も退治済み❞と書き足してから頷きを1つ返すと、担当さんも深く頷きを返した後にうつむいて「よく無事で…」と本当に小さな声で呟いた。 

 ……会ったばかりの私のことを案じてくれるなんて、優しい人だな。 感謝の気持ちを視線に込めて微笑みかけると、

「今すぐに報告をいただかなくても大丈夫ですので、今日はゆっくりとお休みください。お疲れでしょう? 私は明日、アリスさんが起きられるまでギルドでお待ちしていますから」

 彼女も微笑みを返してくれながら、私の起床を待つと言ってくれた。

 勤務時間を過ぎる可能性が高いと告げると、「これも担当の仕事の内です。今後はアリスさんの報酬から5%をいただく身ですから、どうぞお気になさらず、ゆっくりと休んでください」とにっこりと笑って言ってくれる。 

 疲れを自覚した今、彼女の気遣いは本当にありがたい。 素直に受け取ることにして、席を立ちながら、インベントリから取り出したものをカウンターの上に置く。

「これは?」

「報告は食後の方がいいと思うから、良かったら明日の朝ごはんは一緒に食べない? 無理させるお詫びに私が奢るよ。私が起きるまでにお腹が空いたらこのクッキーでも摘まんでおいて。 後はさっきの報酬、1,300万メレの5%で65万メレね」

 欠伸を1つ零しながら答えると、担当さんはびっくりしたように目を丸くして、65万メレを返してきた。

「どうしたの? 計算が違ってた?」

「そうじゃないわ! (コホン!)……先ほどの1,300万メレは<冒険者>としてではなく<商人>としての報酬だったので、私への報酬対象にはなりません。 ……このクッキーは、遠慮なくいただきますが」

 担当さんはきっぱりと言い切ってお金を私に返したけど、クッキーは嬉しそうに受け取ってくれたので、四角四面な性格ではなさそう……って言うか、結構話せるタイプと見た!

「でも、冒険者ギルド内での商売だったけど?」

「アリスさんは<商業>ギルドに登録済の<商人>ですよね? さっき、きちんと『商人としての販売』だと宣言してからの治療だったので、今回は大丈夫です。 …そうよね!?」

 担当さんにいきなり話を振られたギルド職員さんは少しだけ慌てたようにだけど、何度も大きく頷いている。

「本当にいいの?」

「いいんです! ほら、他の職員だって、何も異議を言いません」

 担当さんの言葉が聞こえる範囲にいた職員さん達が一斉に頷くのを見て、私は安心してお金をインベントリにしまった。 ……なんだか得した気分だ。

 同じく嬉しそうな様子のハクとライムを腕に抱きあげて、担当さんにおやすみの挨拶を告げると、担当さんが慌てたように、

「アリスさん! 私は『ディアーナ』!! ディアーナよ! ディアーナというの!」

 大きな声で一息に言った。 今まで担当さんの名前を聞こうとするたびに何かが起こっていたので、思わず周りを見てしまったけど、何も起こらない。 担当さんも同じように感じていたのか、少しだけ拍子抜けしたような顔になっている。

「うん! ディアーナさん! これからよろしくね!
 この仔たちはハクとライム。仲良くしてくれる?」

「はい。よろしくお願いします、アリスさん! ハクちゃんとライムちゃんもよろしくね!」

「にゃん♪」
「ぷっきゅっ♪」

 突然3度も名前を連呼したディアーナさんに周りの視線が集まっていて、ほんの少し恥ずかしそうだけど、やっと名乗れた!とばかりに晴れやかな顔でディアーナさんは笑っている。 私もやっと名前が聞けて満足だし、お気に入りのディアーナさんとご挨拶ができたハクとライムも嬉しそうだ。

 今夜はゆっくりと、気持ちよく眠れそう♪
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