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襲撃者 3 交渉開始
しおりを挟む「冒険者ギルドが運営している宿の部屋で安心して眠っている女性を、冒険者ギルドのマスター自らが襲撃…。
冒険者ギルドが運営している宿だから。と安心して衣類を脱いでいた女性は、普段は隠している肌と下着姿を見られた…。
襲撃には高ランクの男性冒険者が3名同行。 女性は4人もの男性に寝起きのしどけない下着姿を見られてしまった…。
……これって、今後女性に変な噂が立ったりしない?」
自分に起きたことを整理しながら呟くと、男性たちは、ギクッと身を強張らせた。
あ~…、そうなの? 寝室に踏み込まれた段階でやっぱりアウトなの?
「せ、責任を取るっ」
「ん?」
「俺と結婚」
「嫌よ!」
どうして責任=結婚なのか…。最悪のプロポーズを最後まで言わせずに、速攻で却下する。
ジャスパーではアルバロたちと一緒に雑魚寝していたけど、そのことを知っていたモレーノお父さまもサンダリオギルマスたちも何も言わなかった。つまりは問題のない行動だった。でも、今回はアウト。 なかなか複雑な貞操観念だな。
でも、
「責任を取られる方の身になってものを言ってね? 無理やりあんな姿を見られた挙句にその相手と結婚なんて冗談じゃないわよ」
せっかくビジューが若返らせてくれたんだし、私にだって❝恋愛結婚❞に対する夢はある。
ぴしゃりとお断りすると、男たちは揃って驚いた顔になった。
「は?」
「え?」
え?じゃないよ。どうしてそこで驚くの? 私は普通のことを言っただけでしょ?
私が目を丸くしていると、
「こいつらは揃って❝独身の高ランク冒険者❞で命の危険はあっても高給取り。それこそ、女の方が肌を見せながら迫ってくることも珍しくないくらいにはモテるんです。 今回のようなケースだと『責任を取って結婚しろ』と迫られるパターンですね」
サブマスターが苦笑しながら説明してくれた。
……ここの常識はまだまだ奥が深いらしい。 でも、私にはそんな形の結婚は必要ない。
「お金で片を付けましょう」
(ふんだくるのにゃ!)
(みぐるみはいじゃえ!)
私が「お金で片を付ける」と言うと従魔たちは張り切り、男たちは少し残念そうな顔になる。
そんな顔をしなくても、本当に身ぐるみ剥いだりしないよ? ……多分。
「私はこの街に着いたばかりで、これから買い物……、着替え、食材、馬具、調理用品、冒険者初心者グッズなど、色々と揃えなくてはいけないものがあるんだけど…。 これらの支払いをあなた達に回そうかな」
初めにいくらの慰謝料って決めるよりも、いくらかかるかわからない支払いを後から回すっていう方が精神的にキツイかな?と思っての提案だったんだけど、
「そんなもんでいいのか? わかった、俺に支払いを回してくれ」
男たちは気が抜けたように、安堵のため息を吐いた。
……かなり安く見積もられたようだ。
((ありすっ!!))
激おこな従魔たちをなだめる為にも、今後の為にも、ここはきちんと訂正しておかないと……!
ハクとライムに笑いかけながら、急いで羽織っていたマントをインベントリにしまって<鴉>を取り出す。<鴉>を腰に佩き、ビジュー特製の着物ドレスを見せつけるように胸を張って、
「着替えとその他の買い物。 ああ、馬具はいらないわ。 可愛い従魔の為の物は私が買ってあげたいから」
流威からもらったダイヤのネックレスを指先でちょいちょいとつつきながら、改めて男たちに視線を戻すと彼らは見事に顔色を変えた。 赤くなったり青くなったりと忙しい顔色の変化がちょっと面白い。
なんとなく、高くつきそうだってことは理解してもらえたかな? いくらかかるんだろうって、ハラハラしてる?
……いくらまでなら払わせても良いんだろう?って、私もちょっとだけハラハラしてるんだけどね。 この提案は失敗だったかな?と少しだけ後悔していると、
「❝そんなもの❞ですんで良かったな?」
サブマスターがニヤリと笑って男たちに言った。
「ビーチェの誤った情報があったとはいえ、おまえたちは、夜中に女性が眠っている部屋のドアを蹴り破るなんて蛮行を行っても自分たちなら許されると高を括っていたんだろう? 今までの思いあがりのツケが回って来たんだ。きっちりと支払いな!」
サブマスターは❝良い薬だ❞とでも言うように男たちを見下ろした後、私の耳元でこっそりと男たちに出せる範囲の金額を教えてくれる。
……決して少なくはない額だったんだけど、ここまで悲壮な表情になるなんて、いくらくらいを想像したんだろうね? 私の最初の狙い通り、しばらくはハラハラしてもらいましょ♪
「当然、治療費は別にもらうから」
「治療してくれるのかっ」
話がついて満足そうな従魔たちに一安心しながら歩き始めると、男たちは慌てたように立ち上がる。
重症って言っていたから、急がないとね!
「兄貴! 兄貴ぃ!! しっかりしてくれ!」
1階の酒場だったスペースには、複数の怪我人たちが横たわっていた。
その中で奥の方に寝かされてる人の側にディアーナさんが付き添って懸命に手当てをしている。全身にやけどを負っているようだ。
あの人がこの場で一番の重症者だと、急いで奥の方へ進んでいくと、怪我人の側で泣きながら声を掛けていた男が振り返った。
見覚えのある顔だなぁ。誰だっけ? 思い出そうとすると、男は気まずそうな顔になり視線を逸らせた。でもそれも一瞬で、すぐに顔を上げて訴えてくる。
「頼むよぉ、兄貴を助けてくれよぉ! あんたが俺を許せないって言うなら、この腕を返すから!」
涙と鼻水で顔を大変な状態にした男が必死に言い募るのを聞いて、この男は私が腕を切り飛ばした男で、けが人はこの男の兄だと気が付いたけど、治療をする意思は変わらない。
激マズな増血薬を飲ませたことで私の気は済んでるしね。だから、
「今の私は商人よ」
の一言だけを告げて、怪我人に向き直った。
「【診断】」
怪我人は本当に重症だった。 全身の火傷は決して軽いものではなく、命に関わるほどのものだ。
「【リカバー】2回で2千万メレ、【クリーン】1回千メレ、キュア2回で6万メレ。合計20,061,000メレ。即金で払える?」
「払う!」
私の提示した金額は大金なのに、ギルドマスターは一瞬の躊躇もしなかった。
「ディアーナさん! 今すぐに私の口座を作って、そこに入金して」
本当なら代金は前払いを鉄則にしたかったんだけど、この患者にはもうそれだけの余裕が残っていなかったので、私はディアーナさんと必死の形相のギルマス、そしてそのお姉さんのサブマスターを信じることにして、治療を開始する。
状況がわかっているらしく、ハクもライムも何も言わないことに心の奥で感謝した。
「【クリーン】【キュア】【リカバー・ダブル】【キュア】!」
立て続けの治癒魔法に患者の全身が白い光に包まれて、一瞬だけ姿が見えなくなる。でも、光が消えた時には患者のただれた皮膚は元の張りを取り戻し、ほとんど虫の息だった呼吸は正常な寝息へと変化していた。
「あにき……? 兄貴―っ!」
寝ているお兄さんに抱きついて泣き声を上げる男に、もう安心だけど、もしも何かあったらすぐに声を掛けるように言ってから立ち上がる。
怪我人はこの人だけじゃないんだけど、他の人の治療はどうするんだろう?
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