女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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馬具職人 2

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 私の希望は❝綺麗で恰好良くて可愛い❞の。多少高くついてもOKだけど、宝石で飾るとかは意味がわからない。

 スレイとニールの希望は❝軽いもの❞。防御力を考慮して重たい鞍を付けるよりも機動力を重視したいそうだ。

 この希望を告げて「後は任せる」とお願いすると、トーニオ(というらしい)さんは苦笑しながら頷き、そこから私たちは彼のマリオネットと化した。

 工房に併設していた馬場でトーニオさんが「立て」と言えば立ち「座れ」と言えば座る。スレイとニールだけでぐるぐると歩いたり駆けたりした後は、私が乗った状態でぐるぐる歩いたり駆けたり、乗り降りを何度も繰り返したかと思えば、木で作った人形相手に攻撃をしかけたり。

 その間トーニオさんはスレイプニルたちの筋肉を触って動きを確かめたりしながら、ずっと私たちの動きを観察し続けていた。  

「トーニオさんも乗ってみる?」
「!? …良いのかっ!?」

 スレイプニル達に負担のかからない様に鞍の位置や形を決める為らしいんだけど、少し触ったり見ているだけじゃあ、筋肉の動きはわかりにくいよね? 自分で感じた方がわかりやすいと思っての提案は、彼を随分と驚かせた。

 ❝誇り高い<スレイプニル>は人を乗せない。テイムされたスレイプニルは主以外を乗せない❞というのが通説のようだけど、2頭に(彼を乗せてくれる?)と聞いたら((主のご随意に))と返って来たので、問題はない。

「いいよ」と伝えると、トーニオさんは子供のように嬉しそうに無邪気な笑みを見せて喜んだ。あまりにも嬉しそうなので、スレイもニールも満更でもない様子でトーニオさんの動きをみている。

 でも、それぞれの背に乗ると瞬時に真剣な顔になり、何かを検証し始める姿はやっぱり一流の職人さんらしく、静かな気迫が感じられた。 ……降りた瞬間に、子供のような顔を覗かせるのはご愛敬、だね^^










 鞍の素材は革と木材と綿わたが基本の材料らしく、素材の見本を見せてもらうと、その中に見覚えのあるものがあることに気が付いた。

「オーク革とトレント材か? 悪くはねぇが……」

「安っぽい?」

 私の視線の先に気が付いたトーニオさんが少しだけ困ったような顔をするので、<スレイプニル>の馬具に<オーク>や<トレント>では釣り合いが取れないのかと思ったら、

「いいや、素材としては悪くねぇんだがな……。 嬢ちゃんの馬スレイプニルは普通の馬より体がでかいだろう? トレント材はともかくオーク革なぁ。 スレイプニルに見合う大きさの革が手持ちにねぇんだ。
 ……少し時間がかかってもいいか?」

 ということだった。

 懇意にしている業者をあたり、そこになかったら冒険者ギルドに素材採取の依頼を出す流れだ。

 革の条件は、十分な大きさに加え傷が少ないこと。 なので、オークに余計な傷を残さずに倒せる冒険者が依頼を受けてくれるのを待つのに時間がかかるかもしれないとのことだった。

 でも、その条件なら何とかなる気がするなぁ。

 トーニオさんをもう一度馬場に誘いライムに声を掛けると、「まかせて~」と言って平たく伸びてくれる。 何にも説明しなくても端の方を上に向けて折り曲げてくれているので、聡いライムには私の考えはお見通しのようだ。

 インベントリを開いて食用に複製しておいた大きな個体を取り出す。 首を切っているので取り出した瞬間から血液が溢れ出すが、ライムが上手に受けてくれるから馬場を汚す心配はない。

 驚いているトーニオさんに「これ使える?」と聞くと、驚きから立ち直ったトーニオさんはオークの皮をゆっくりと検分し、「2体とも大きい上に傷が少ない。上等の素材になるぞ」と嬉しそうに笑ってくれる。

 ついでにトレント材も何本か取り出して見せると❝コンコン❞と叩いて音を確認し、「これで全部か?」と残念そうな声を出した。

 何を基準に選んでいるのかわからないので手持ちのトレント材を全て取り出して馬場に広げると、一瞬だけ呆けていたトーニオさんだったが、すぐに気を取り直して1本1本を丁寧に確認し始める。

 素材選びを邪魔するのも申し訳ないので、ハクの胸毛をもふりながらのんびりと待っていると「ぼくも~」とライムが体をぷるぷる震わせながらなでなでのおねだりをする。   

 お仕事中のライムの邪魔をしないようにしていたんだけど、少し寂しかったのかな? 私の腕を抜け出したハクがたたたたっとライムに向かって駆けだし、頬をすりすりと摺り寄せる。 もちろん私は片手でハクの背中をもふもふし、もう片方の手でライムのぷるぷるボディをなでなでするという両手に贅沢な時間を堪能した。

 従魔たちとのスキンシップを楽しんでしばらくすると、オークの血抜きが終わったようだ。

 以前のライムなら、乳白色のボディがピンクに染まっていたけど、今の普通のスライムに擬態しているライムのボディは青いまま。 これならリッチスライムだとはバレないだろう。安心してライムのぷるぷるボディを堪能できる。 ハクの❝加護❞って、本当に凄いよね!










 ハクやライムとじゃれ合っていると、いつの間にかトーニオさんが近くに来て私の胴体部分をじっと見つめていた。

 2匹とじゃれているうちにマントがはだけて、中のキモノが見えてしまっていたようだ。 でも、トーニオさんの視線には不快なものを感じないから、気にする必要はないかな。

「使えそうなものはあった?」

「ああ、あの2本を使う。  ……嬢ちゃんは変わった服を着ているな。故郷のものか? ちょっと見せてくれ」

 さりげなくマントを直すと、トーニオさんが少し私から離れながらマントを取って欲しいと言い出した。

 とても真剣な顔をしているので、特に疑問も口にしないでマントを取って見せると、トーニオさんが大きなため息を吐き出す。

 ………どうしたんだろう?
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