女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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馬具職人 3

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「お貴族さまだったなら、初めにそう言ってくれや……。道理で立ち居振る舞いが美しいはずだぜ……」

 ビジューめがみ特製の<着物ドレスきもの>はトーニオさんの目にどう映ったのか。 いきなり頭を抱えて座り込んでしまったので表情かおいろから読み取るのは難しいけど、なんとなく、困っているように見える。

「私は平民でただの冒険者だから、そんなお世辞を言ってくれなくても大丈夫だよ?」

 とりあえず誤解を解こうと声を掛けてみるけど、

「貴族のお嬢さま以外の誰が、そんなとんでもなく高価そうなドレスを着て平気で街を歩くんでしょうな? 普通の冒険者はあれほどの素材を持ちっぱなしにはせず、さっさとギルドに納めて金に代えます。 
 あと、……わしに世辞は言えませんよ」

 トーニオさんは立ち上がり、言葉遣いまで改めてしまった。 ……この人にこういう話し方をされるとなんだか寂しいなぁ。

 感じた寂しさを払拭しようと、私は自分が貴族でないことを証明するために言葉を尽くす。

 このドレスきものは確かにとても高価で素晴らしいものだけど、あくまでも<防具>であること。これは贈られた物で、贈り主は高位の存在だけど、私は一般の平民でしかないこと。自分はまだ駆け出しだけど本当に<冒険者>であり<商人>でもあるので、<貴族のお嬢さま>なんて存在ではないことを力説する。

 ちょっとだけ、王弟であるモレーノお父さまのことが頭をよぎったけど、お父さまと私はあくまでも後見人と被後見人なんだから、言っていることは嘘ではない。 

 だから、今まで通りの対応をして欲しいと説得したんだけど、

「お嬢さまがそう言ってくれるのは嬉しいですが、貴族のお嬢さまにそんな口を利いてるのをお嬢さまの従者にでも聞かれたら、わしらは処罰されます。
 わしのことは構いません。でも、弟子や家族に累が及ぶのだけは……」

 トーニオさんは困ったように首を横に振った。部屋の隅で怯えたように私を見ている小僧さんの反応を見て、もしかすると、過去に似たようなケースで処罰を受けた職人さんがいたのかもしれないと推測する。

 ジャスパーで見たおバカな貴族たちを思い出すと、なんとなく納得だ。

 でも私は貴族じゃないし、従魔はいるけど従者なんて存在ははなからいない。

 外を見てそれらしき人がいないことを確かめてもらい、<冒険者カード>を見せて、さっき出した素材は私が自分で狩った魔物であり魔物素材であることを説明し、<商人カード>を出して、さっきの魔物素材を商品に商売をするのだと改めて説明する。

 トーニオさんはしばらく黙ったままだったけど、外に私の<従者>が待っていないかを確かめに行った小僧さんが戻って来て状況を説明すると、覚悟を決めたような目で私を見た。

「わしにはあなたを貴族のお嬢さま以外には思えんし、さっきの素材もあなたの護衛が狩りに参加したものだと思っている。 
 だが、あなたがそこまで言ってくれるなら、わしは、わしのままでいさせてもらう。 ……本当にそれでいいんだな? 嬢ちゃんよぉ?」

 ……❝ニッ❞と笑ったトーニオさんは、誤解だと納得するつもりはないものの、態度を元のものに戻すことを選択してくれた。

 できれば誤解は解いてもらいたかったけど、この際だから贅沢は言わない。 態度を元に戻してくれるだけで十分だ。 

 部屋の隅でガタガタ震えている小僧さんを見て「もしもの時はわしだけを処罰してくれな?」と言うので、とびきりの笑顔で「わかった」と答えるとトーニオさんも笑顔を返してくれる。 2人の笑顔を見て、小僧さんの震えも止まったようだ。

 そんなことには決してならないんだけどね~。そのことを納得してもらうのは、追い追いでいいだろう。










「❝訳アリ❞か? だったら余計なことは聞かねぇよ」

 そう言って意識を切り替えたトーニオさんは、早速お仕事モードに戻ってくれる。

<きもの>のレースに目を留めて、

「この辺りでは見ない花だが嬢ちゃんの故郷の花か? 美しい花だから、その花の意匠をサドルクロスや肢巻に刺繍すると映えるぞ」

 と提案してくれたので、レース部に咲いているアマリネの花を見せながら、トーニオさんの提案をどう思うかスレイとニールに意見を聞くと、2頭が((主とお揃いで嬉しい!))と喜びを露わにはしゃぐ。

 その姿を見てトーニオさんも満足そうだし、私も嬉しい。 

 2頭があんまり嬉しそうなものだから、ハクとライムにも何か作ろうかと思ったんだけど、

(窮屈なのは嫌いにゃ! たまにリボンでおしゃれするくらいがちょうどいいのにゃ)
(のびちぢみするのにじゃまなものはいらないよぉ)

 2匹にはあっさりと断られてしまった。 

 ちょっと残念だけど仕方がないね。これも彼らの個性だ。







 素材の持ち込みという形で、オークの皮とトレント材の費用を代金からを引いてくれるという話はハクとライムを喜ばせ、❝知らない誰か❞が調達した素材ではなく私が狩った獲物の素材を使うということにスレイとニールがとても喜んでくれたので、気を良くした私はインベントリからヴェルの糸を取り出した。

「スフェーンの森のヴェルっていう魔物の糸なんだけど、これも使えるかな?」

「おお、ヴェルの糸は丈夫で美しいから使い勝手がいいんだ! でも、糸だけで綿わたはないのか?」

「綿?」

「ああ。ヴェルの腹ん中から採取できるんだが」

 私は糸を採取することしか聞いていなかったので、ヴェルには全て糸として吐き出させてしまったけど、糸として吐き出す前は綿状のものがヴェルのお腹の中にあるらしい。

 買い取り価格は糸の方が断然高いらしいので、イザックも綿のことは頭になかったんだろうな。 

 どうせならその素材も私が用意したい。 「ギルドの要請で明日から森へ行くからついでに採取してくる。戻って来てから渡してもいいか」と聞くと、ちょっと驚いた顔をしながらも了承してくれた。

 ❝綿はヴェルの下半分の位置で精製されている❞ことを教わったので、狩りの仕方が決まる。 今回は糸を吐き出す前に、速攻で胴体の上の方を横に真っ二つにして仕留める。 間違っても縦に真っ二つにしないように気を付けないとね。

「……本当に<冒険者>なんだな」と小さく呟く声が聞こえたけど、今はスルーしておこう。 森から持って帰る素材で納得させてやるんだ!
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