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食事会 改め 懇親会
しおりを挟む酒場の隅っこのテーブルの上には、
オークステーキのマッシュポテト添え、私の作ったカッテージチーズと輪切りトマトのカプレーゼ風、野菜たっぷりの卵スープとカットした果物を漬け込んだお水が入った水差しが乗っている。 食後には焼き桃&アイスを出す予定だ。
フレーバーウォーターと焼き桃以外はもともとインベントリに入っていたものだけど、今夜はこれで許して欲しい。時間がなかったんだ。
心の中で言い訳をしながらテーブルを囲うメンバーの様子を見ると、自分たちがリクエストした肉と水を見て嬉しそうなハクとライム。そして、果物を入れたままのフレーバーウォーターの水差しをキラキラした目で見つめているディアーナに、オークステーキに目が釘付けになっているシルヴァーノさん。
みんな不満はないようで一安心だ。
スペースの問題で今回は一緒に食事ができないスレイとニール達には大量の野菜スープと焼き桃&普通の桃を用意して来たので、2頭がいなくて少し寂しいのさえ我慢すれば、心置きなく食事を楽しめる。
ちなみに、スレイとニールは冒険者ギルドの馬小屋の一番奥を貸してもらった。 少し手前でロープを張り、立ち入り禁止札を付けてもらったので、誘拐される心配もほぼないだろうとハクが言ってくれたので安心だ。
セラフィーノが仕事あがりに貢ぎ物をしたいと言ってくれていたけど、彼なら面識があるので大丈夫だろう。 セラフィーノの人柄はディアーナさんとシルヴァーノさんが保証してくれたし、保護者のOKも出てるしね!
好きなだけ貢いでもらっちゃおう♪
元々は、急な休日変更で無理をさせてしまったディアーナとの❝ごめんね&ありがとう&これからもよろしくね❞の食事会のつもりだったんだけど、ちょうど仕事あがりで帰ろうとしていたシルヴァーノさんをライムが見つけたことで、担当職員さんとの懇親会になった。
最初は遠慮していたシルヴァーノさんだけど、ハクとライムが可愛~く(!)誘う姿に見惚れている間に、私が椅子に誘導した。
ハッと気が付いたシルヴァーノさんが顔を真っ赤にする姿は、最初の紳士的だけどちょっといかついイメージを簡単に壊した。 ハクとライムの可愛らしさの前には当然だけどね!(主バカの自覚はあるよ)
酒場のテーブルを利用する代金として注文したワインが思いのほかおいしくて、ついつい、おつまみメニューをテーブルに追加してしまう。
最初は遠慮がちだったディアーナとシルヴァーノさんだったけど、私がインベントリから次々とおかずを追加するのを見て何かが吹っ切れたようだ。
シルヴァーノさんはお肉を重点的に。ディアーナは食が細いんだけど食いしん坊さんのようで、少しずつだけど満遍なく出したものを制覇する。 そしてハクとライムは…、言うまでもないかな^^
「解体部の職員たちから伝言を預かっています。 ❝さいっこう!に美味かったです! どこで買ったのか教えてください!❞と。 みんな口々にお礼を言っていました」
デザートの焼き桃とアイスを見て口をぽかんと開けていたディアーナが、ハッと思い出したように言うと、シルヴァーノさんも「私も是非知りたいです」と真顔で言った。
ゴブリン専門の職員さんに鼻と気分のリフレッシュをしてもらおうと差し入れた<生キャラメル>は、ゴブリンの臭気に辟易していた彼らを大熱狂させたらしく、人数割りして余った生キャラメルを手に入れようと熾烈な争奪戦が始まりかけたらしい。
争いを回避するために、余った生キャラメルを私の担当職員であるディアーナとシルヴァーノさんにお裾分けしたようだ。
「「役得です」」
満面の笑みで声を揃える2人を見て、ハクとライムが鼻高々な様子なのが見ていて可愛い!
❝ぼくにも頂戴♪❞の視線に負けて、2匹に一粒ずつ生キャラメルを出してあげると、
「んにゃん♪」
「ぷきゃ~♪」
ありがとう!の鳴き声を上げ、私の手を抱え込むようにして生キャラメルに齧りついた。
もう飽きるほど食べたものでも他の人が「おいしい」って言うのを聞くと、食べたくなるのはどうしてだろうね^^
「まだ登録申請中なの。申請が通ったら、ジャスパーで売りに出されるのかな?」
現状では販売していないと答えた私に露骨に残念そうな顔をして心底うらやましそうな目で2匹を見ている2人には、後でお土産に渡してあげるからね? とりあえず今はごはんを食べよう?
アイスが溶ける前にと勧めてみると、恐る恐るスプーンを入れて……、
「「っ!! ~~っ! ~~!!」」
2人は言葉を忘れたように、身振り手振りで驚きを現した。 表情には驚愕と歓喜が表れていて2人がこれを気に入ってくれたのがよくわかる。
ハクとライムは早速おかわりを要求することで、感想に代えたらしい。 たくさんあるからね~! いっぱいお食べ♪
色々と話をしたり、情報交換をしたり、私のレシピはいつになったら販売されるのかと私にもわからないことの回答を迫られたりしながら過ごした時間はあっという間に過ぎていった。
話の中で、ディアーナの言っていた❝休み❞が❝夜勤が終わって、次の日の朝勤が始まるまでの時間❞のことだったとわかり、驚愕する。 そんなの、寝て起きたら夕方でしょ? それで次の朝には仕事?
なんてハードなんだと目を丸くした私を見てハクが笑っていたけど、ビジューやハクが私に<冒険者>を勧めてくれた理由の1つはこれだと確信した。
週休二日制に慣れた私には、決まった休日がなく働き続けるのは無理だ。
<気が向いた時に休める冒険者>と<店舗を持たず気が向いた時に営業する商人>を経験してしまった私にはもう、❝どこかに雇われて堅実に働く❞という選択肢がなくなっていたことに気づかされた夜になった。
お土産の<生キャラメル>を大事そうに胸に抱えた2人と別れ、部屋に戻った私は気合を入れ直す。
かまどを取り出してお鍋に張った油を熱したら丸パンを優しく投入。軽く揚げ色が付いたら、たっぷりの砂糖をまぶして揚げパンの出来上がり♪ あとは、桃のコンポート、桃のゼリー、桃のフローズンヨーグルト、桃のジャム、ついでに他の果物のジャムも作っていると、あっという間に真夜中になっていた。
「朝が早いのにどうして今作っているのにゃ?」
とハクには叱られてしまったけど、どうしても今日中に作りたかっんだ。
ディアーナやシルヴァーノさんとの話の中で、フランカは甘いものが大好きだったと知った。 でも、フランカの稼ぎでは、なかなか買えるものでもなかったことも。
だから、いっぱいお供えしたいんだ。 次に生まれて来る時は甘いものをたくさん食べられるように、との祈りを込めて。
……私の自己満足に過ぎないことは、理解しているんだけどね。
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