女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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ささやかな、とてもささやかな戦い

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 ギルマスは幹部を名乗る男を静かに見て……眺めていて、サブマスも「彼はミルコ。会計担当の幹部だ」と短い紹介をしてくれた後はギルマス同様、黙って彼に視線を送り、ディアーナは棘のある視線を隠さず彼に向けている。

 3人の決して温かくはない視線を集めながらも彼、ミルコは平気な顔で2枚の紙を差し出し私にサインを迫った。

 そこには小さな字でびっしりと今回の経緯やそれに伴う報酬のことなどが書かれていて、普通なら全部を読む気力が萎えそうなほどの文字量だ。

 でも、私の前職はとある地方公務員。 書類に埋もれる部署で仕事をしていたので、こういった文章を読むのに抵抗が少ない。 

 特にこれは、信頼関係も何もない初対面の男が差し出したものなので、隅々まで熟読する。

 すると、やっぱり書かれてた。 本来の褒賞金を減額して、その代わりにランクアップさせることを記した文言が。

「私はランクアップなんて望んでいないの。 ゴブリンのコロニーを解体させたことで出るはずの、本来の褒賞金をもらいたいわね」

「………何?」

 2通の書類は当然サインをせずに突き返す。 ランクが上がった方が割のいい依頼が多そうなのでハクが怒るかな?と思ったんだけど、何も言わないところを見るとこのままの路線で進んで良いようだ。

「君は先日<登録>したばかりだろう。それをこれほどの短期間でBランクに上げてやるなんて、破格の待遇だとわからないのか? ランクアップの最短記録だぞ?」

「必要のないものを、そんなに恩着せがましく押し付けられても迷惑なだけよ」

「…………君は、君が壊した宿泊区域の修理費用がいくらかかるかわかっているか?」

「私は冒険者ギルドの受付担当の偏見と悪意で固めた報告を信じ込んだギルドマスターに寝込みを教われたから反撃しただけよ。その責任を被害者の私に取れと言うの?」

 あの件についてはギルマスギルドのせきにんしゃ達と話は付いていると思っていたんだけどなぁ。チラリとギルマス達を見てみると、さっきと同じ静かな表情のまま男の顔を見ている。

「わかった……。宿の修繕はギルドの責任で行い、コロニー解体の褒賞金は満額だそう。 その代わりにランクアップ」
「ランクアップはしない。そもそも本来の褒賞金を減額する代わりにランクアップさせるってことだったでしょう? 満額受け取るんだから、ランクアップさせる必要はないじゃない」

「Bランクだぞ? Bランクにもなれば誰も君を<コンパニオン>扱いはしなくなる。 ランクアップした方が得じゃないか!」

 どうやらこの男は最初から私をランクアップさせるつもりなのに、それを恩に着せて褒賞金を値切るつもりだったようだ。

 私とハクが男に不審の目を向けると、

「だから言ったじゃねぇか。もうその辺にしておけ」

 ため息交じりにギルマスが口を開いた。

「ですがこんな逸材を今のままEランクに置いておくなど……。治癒魔法だけでもかなりの価値が!」

「俺はギルドマスターとしておまえの立場は理解するがな。
 冒険者の目線で見たら今のおまえの言動は、『有望な新人をギルドの都合の良いように不当に買い叩いてこき使おうとした、性質の悪い職員』にしか見えねぇぞ? そんなことを容認したら、このギルドから冒険者がいなくなっちまう」

「…………」

「アリスの実力なら、こっちが何もしなくても勝手にランクアップするから放っておけ」

「アリスはランクアップの前に、冒険者間のルールや常識などを学ぶ必要があるからね。今は時期じゃないのさ」

 それまで黙っていた上司たちに諭されて、彼は渋々納得したようだ。

「すまなかった。……金を用意してくる」

 眉間にしわを寄せたままだけど詫びを口にして部屋を出て行った。

 彼の思い通りの展開にはならなかったのに、私を睨んだり捨て台詞を残すこともなくドアを静かに閉めるので、なんだか拍子抜けしてしまう。

 そんな私を見て、サブマスがゆっくりと頭を下げた。

「すまなかったね。彼は冒険者ギルドうちの職員には珍しい、冒険者の経験が全くない男なんだ。元は商人で数字には強く、病気で急遽引退した前任者の代わりに頑張ってくれているんだが……。たまにああいった強引な手を使う。
 今までは問題にならなかったが、大きな失敗につながる前にそろそろ頭を打ってやりたくてね。 今回はアリスに甘えさせてもらったよ」

 ……信頼されていると喜ぶべきか、いいように使われていると憤るべきか。まあ、今回は❝信頼❞と受け取っておこうかな。

「こうなる結果がわかってた?」

「私としては五分五分だった。 アリスは金に興味がなさそうだから、そのままレベルアップを受け入れてしまう可能性もあると思っていたよ。
 だがオズヴァルドが『アリスは断るだろう』って言っていたからね。そういう勘は当たるんだ。 だから、今回は」
「お金、好きだから! そこは誤解しないでね!」

 サブマスがもう一度頭を下げようとしたので、それを邪魔するように声を張り上げた。 このまま誤解を解かないでいると、ハクに叱られそうな予感もしたし。

 胸を張って「お金は大事。お金大好き!」と強調すると、部屋に大きなため息が5つ落ちた。 ……ギルマス、サブマス、ディアーナにハクとライム。 つまり私以外が全員ため息を吐いたことになる。 

 地味にショックを受けて固まっていると、

「ディアーナ。アリスに物の値段やその価値、ギルドの依頼の相場についても教えておけ。 フランカの墓の件もだが、さっき❝コロニー解体の褒賞金が5万メレ❞って聞いた時も、なんの疑問も持っていなかったぞ」

「はい、私も気が付きました。 ついでに自慢しますが、先ほどアリスさんからお土産にコレをいただきました。 個人としては非常に残念ですが、アリスさんにはしっかりとモノの価値を理解していただきます。
 ……ギルマスの資産を使い果たしてから」

「……………わかった。それでいい」

 真剣な顔でディアーナに向き合うギルマスと、アイテムボックスから取り出した桃を大切そうにやさし~くナデナデしているディアーナの会話が聞こえてきた。

 もしかして私、世間知らずだと思われてる?

 誤解だよっ! 私、ちゃんとジャスパーで勉強して来たから、大丈夫だよ~っ!
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