女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
402 / 754

街歩き1日目 4

しおりを挟む



「…………!」
「………………!?」

「こんなに近くにいるのに、何も聞こえないなんて……」

「便利でしょ? もちろん、こっちの声も向こうには聞こえないよ」

 突然現れて道を塞ぎ、自分が何者かを名乗りもせずに私の時間を割かせようとした傲慢な一組の男女。

 ❝嫌だ❞って意思表示をしても無駄な気がしたので、存在そのものに気が付かなかったことにする。

「……外部の音が聞こえない上に衝撃もないのに移動が可能な結界……。 アリスさん、これがどれほど凄いことなのか理解していますか?」

「あ~……、すっごい勢いでMPが減っているから、そんなに凄い物じゃないよ?」

 さすがにこれは規格外だろうと判断して、私の実力ではあまり長い時間は張れない結界なんだと説明しておく。

 もちろん、実際に張ってくれているのはハクで、

(こんなに小さな範囲で攻撃といえる攻撃も受けない状態なら、ひと月張り続けていても平気なのにゃ!)

 ということらしいけどね。

 男女に前を塞がれていたので、結界を張ってもらった後は来た道を戻って他のルートに変更した。

 地元民のディアーナが案内してくれるので、私の【マップ】は男女が後ろをついて来ていることの確認に使うだけ。振り向くと彼女たちが調子に乗るかもしれないからね。

 前を向いたまま相手の位置が確認できる【マップ】は本当に便利だ。……ハクが振り返ってはバカにしたように笑っているから、意味はないかもしれないけど。

 さっきはディアーナの名前も出ていたから知り合いなのかと尋ねたら、……あの2人がフランカの元・パーティーメンバーだと、苦々しい表情で答える。

 思わず足を止めて振り返ったら、ディアーナが、

「今は相手にしないでください」

 私の手を引きながら、事情を説明してくれた。

 私の不在の間にギルドに出頭した2人は、❝ゴブリンが持ち去っていたフランカの遺品を回収した冒険者がいるので、当時の状況を詳しく知りたい❞という名目でギルドからの事情聴取を受けたらしい。

 ❝遺品を買い取る気があるのならギルドが仲介する❞という名目でパーティーの金の動きを探り、改めて❝当時の状況を確認する❞ことでフランカの手紙の内容との齟齬を確認し、❝ギルドに改めて事情を聞かれた❞ことで危機感を持った二人がどのように行動するかを監視しているようだ。

「監視?」

「はい。逃亡は許しません」

「今も?」

「もちろんです」

 ディアーナの言葉に驚いて【マップ】を確認してみると、2人組から付かず離れずの距離にいるポイントが2…、いや、3つ?

「3人、かな?」

「4人と聞いています」

 3人と思ったら4人もいるらしい。 最後の1人はどこだろう? 【マップ】で簡単に確認させてくれないあたり、優秀な監視人のようだ。

 これなら、あの2人がフランカのお金を返さないままで街を出る心配はなさそうだ。

 2人の動向がある程度把握できたら改めてギルドで尋問をするらしいので、私はギルドからの呼び出しがあるまでは2人に関わらない方が良いらしい。

 そういうことなら、これ以上彼女たちに意識を向ける必要はないね。

 私は一旦2人のことを忘れることにして、ディアーナが次にどこへ案内してくれるのかを期待しながら、リクエストリストに目を落とした。










「強度はそのままで形と大きさを変えるのか? できることはできるが、高くつくぞ?」

「まとめて発注したら安くなる?」

「そうだな……。 50本買ってくれるなら1本450メレでいい」

「500本なら?」

「…390メレだ」

「1,000本なら?」

「500本以上は何本でも一緒だぞ。390メレだ」

「じゃあ、500本。100本出来たらその都度<冒険者ギルド>のディアーナ宛に届けてくれる? 残りの半金は500本目を納品してくれた時に」

 ガラス製品の工房で、初級ポーション用のビンを発注する。 私の作る初級ポーションは従来の物より容量が少なくて済むので、ポーション用のビンを特注してみた。

(なぜ【複製】しないのにゃ!)

 というハクのお叱りは、

(するよ? でも、最初にまとめて買っている実績を作っておかないと、みんなに変に思われるでしょ?)

 簡単に説明するだけで霧散してくれた。

 下手に目立って【複製スキル】がバレたら困る。私は平穏な人生を送りたいからね!










 次は、

「紡績? それとも製糸かなぁ? 魔物が吐き出す糸状の物を❝糸❞にしてくれるところ」

「ヴェルとアラクネーの糸ですか? それなら<製糸>ですね。 こちらです」

 製糸工場に案内してもらう。

 ヴェルとアラクネーの糸を預けた職人長から、

「もつれや絡み、傷みのほとんどない極上の素材じゃ! これは腕が鳴るわい! 
 ……ところでお嬢さん、この工場と専属の契約をせんか?」

 素材の調達人としてスカウトをされてしまった。持ち込んだ素材の状態がとても良かったので気に入られたらしい。 お陰で超特急で仕上げてくれると約束してくれた。 

 アラクネーの糸を採取してくれたスレイとニールにお礼を言わなくっちゃ♪ …彼らの馬具の為の糸だけど^^

 さて、次はどこに連れて行ってくれるのかなぁ?

 ワクワクしながら店を出て、ディアーナの案内で角を曲がった時だった。

「アリス!」

 今度は後ろから声を掛けられる。

 ………今度は誰かなぁ?
しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...