410 / 754
街歩き2日目 5
しおりを挟む「ああ、そのりんごは少し大きすぎたわね。食べやすい様に切ってあげるからお皿に乗せて?」
「や! これあたしの!!」
「取り上げたりしないよ~。 ……本当にそのままでいいの? じゃあ、少しずつよ~く噛んで食べるのよ!」
「ぐっ、げほっ!」
「おじいさん、大丈夫!? ゆっくり食べないと喉に詰まるよ? はい、お水!」
「すまなねぇ、娘さん」
「いいえ~。 あ、おばさん! 坊やに食べさせてばかりいないで、自分もちゃんと食べてよ~?」
「ありがたいねぇ……。こんなに美味しいごはんをこの子たちに食べさせてあげられるなんて……。あんたは本物の聖女さまだよ!」
「違うから! それだけは間違えないで!? 私は聖女なんかにならないから!!」
「そうだよ、かあちゃん! ねえちゃんは聖女なんかじゃなくて、女神さまなんだぞ!」
「それ、もっと違うからっ!! 私はただの冒険者だからーっ!!」
……いきなりの賑やかな現場で何をしているのか気になる? えっと…、炊き出し(?)中です。
マッシモの家を覗いていた少年…、私を❝女神さま❞と言った少年は、マッシモのことを心配して様子を見に来てくれた❝心優しいご近所さん❞の1人で、今ここにいる人たちは、寝たきりになっていたマッシモのことを気に掛けてくれていた心優しい人たち。
今マッシモがゆっくりと齧っている硬いパンも、少年が彼の為に持って来てくれたものだ。
……この場所は街の中でも貧しい人たちが集まっている場所で、本来なら他人に食料を分けてあげる余裕なんてないハズなのに、ここにいる人たちは❝他人を思いやる気持ち❞を忘れてはいなかった。
嬉しそうにりんごを頬張っている少女は寝たきりのマッシモの為に、家の側などに咲く小さな花を摘んで来ては「今日はいい天気」「今日もかわいいお花を見つけた」とお話をして帰るらしい。 ……マッシモが「うん」とか「ああ」しか言わなくても気にせずに!
おじいさんはお花の少女のおじいさんで、もう先がないと思われていたマッシモの為に体を拭いてやったり、毎日女神への祈りを捧げてくれていた。 病のせいで自身が歩くのも大変なくらいに弱っていたのに。
小さな子供にスプーンでお粥を食べさせている女性は少年のお母さん。ドアだけでなく、色々なところが壊れているせいでほこりや砂が入り込んでしまうマッシモの家を掃除しに来てくれていた。昔、男性に乱暴されそうになった時にたまたま通りかかったマッシモに助けてもらったからそのお礼だ、と言って毎日様子を見に来てくれていたようだ。……元・夫に焼かれた顔を布で覆い隠し、「化け物」と呼ばれる恐怖に怯えながら。
そうして少年は街の中のお使いなどで稼いだわずかなお金で買う食料を、マッシモに分けてあげていた。お母さんが自分を身ごもっていた時に助けてくれたマッシモは、自分の命の恩人だから、と。
この人たちのお陰でマッシモは今日まで生き延びていて、この人たちのお陰でイザックが余計な心の傷を負わずに済んだ。
そう思った私は感謝の気持ちをほんの少し形にするためにおじいさんの病を治し、お母さんの火傷の痕を綺麗に治療した。そして、治癒魔法の❝副作用❞で減ったお腹を満たす為に食事を提供しただけなんだけど……。
「かあちゃん! やっぱり女神さまは俺たちのことも忘れていなかったんだな! 生きてりゃいつかいいことがあるってかあちゃんが言ってたのは今日のことだな?」
スプーンを握りしめながらキラキラした目で私を見つめる少年の喜びようが胸に痛い。大したことをしたわけじゃないんだけどな。 その反面、
「見ず知らずの俺の為にここまでのことをして、あんたに何の得があるって言うんだ……?」
と疑いの混じった目で私を見るマッシモにはかなりムカついている。 イザックが言うには、元は大きな声で良く笑う大らかな男性だったらしいんだけどね。 何があってこうなったのかは知らないけど、何かにつけて疑いを持たれるのは正直なところ気分が良くない。
だから誤解を解くことにした。
「私はあなたの為には何一つしていないけど?」
「は? 俺を治療してくれた上に、今だってみんなに飯や治療を……」
「あなたを治療したのはイザックの頼みだったし、彼らの治療は、今日まであなたを生かしてくれていたことで、結果的にイザックの心を守ってくれたことへのお礼の気持ちだから。 あなたの為には何もしてないし、今後もしない」
きっぱりと言い切ると、マッシモはびっくりしたように口を噤んだ。 代わりにイザックが口を開き、
「……アリスらしくない物言いだな? どうした?」
突っ込んで欲しくない、私の心情に突っ込んできた。
……自分でもわかってる。私の中で育ってしまった暗い感情。これは❝嫉妬❞だってことくらい。
生きることを放棄しようとしていたマッシモを何とか助けようとした❝昔❞の仲間のイザック。
見返りを期待できる状況ではないのに、マッシモを気にかけ続けてくれた❝ご近所さん❞や❝昔に繋がっていたご縁❞。
それは、私が失くしてしまったもの。遠い地球に置いてこざるを得なかったものだから。
だから、私はマッシモが羨ましかった。 それなのにイザックがここに来たことに喜びを表すこともなく、気にかけてくれる人たちがこんなにたくさん側にいるのに、生きていくことを放棄しようとしていたマッシモに苛立ちを感じていたんだ。
所々をぼかしながらポツポツと話をすると、
「アリス……。おまえ、今の話をモレーノさまが聞いたらあの人落ち込んじまうぞ? それにマルタの耳に入ったら泣かれるかもしれんな。 噂に聞くマルゴ夫妻だって、アリスを大事に思っているようなのに、怒る…、いや、やっぱり悲しむだろうな。
ちなみに俺は……、悔しいぞ。 一緒に戦ったり笑ったりしてきた俺たちのことを忘れないでくれよ!」
イザックは顔を歪めながら私の頭に手を置いた。 そして、私の肩の上では、
(アリスには僕がいるのにゃ! ライムがいるのにゃ! スレイやニールだっているのにゃ! ビジュー様もにゃーっ!)
(ありす! ぼくたち、ずっとそばにいるよ? わすれないでね?)
私の可愛い従魔たちが、悲しそうに抗議の声を送ってくる。
……そうだよね? 失くしたものばかりじゃない。 新たに手に入れたものだってたくさんあるんだ。
こっちに来てからつながったご縁は意外に多い。
失くしたものばかりに意識がいって、もう少しで新たに手に入れた大切なご縁をないがしろにするところだったよ。
肩の上で抗議するように飛び跳ねる2匹を腕にだき、頬を寄せながら小さな声で謝った。
「ごめん。今まで一緒にいてくれてありがとう。 これからもずっとそばにいてね?」
私の反省と感謝の気持ちが伝わったのか、それまで腕の中で暴れていた2匹が少しだけ大人しくなり、
「んにゃん♪」
「ぷきゃ~♪」
可愛らしい声で鳴いて、頬にすりすりしてくれる。
………この仔たちのお陰でどれだけ心が慰められたか。この異世界を生きて来るのにどれだけ心強かったかを思い出し、改めて感謝の気持ちを込めてすりすりをいっぱい返す。
ハク! ライム! これからもよろしくね!!
233
あなたにおすすめの小説
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~
結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』
『小さいな』
『…やっと…逢えた』
『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』
『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』
地球とは別の世界、異世界“パレス”。
ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。
しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。
神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。
その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。
しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。
原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。
その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。
生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。
初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。
阿鼻叫喚のパレスの神界。
次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。
これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。
家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待!
*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈
小説家になろう様でも連載中です。
第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます!
よろしくお願い致します( . .)"
*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる