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街歩き4日目 2
しおりを挟む「ああ、やはり素晴らしく美味しい……」
私たちの食事がすむまで待ってくれているのか、話があると言っていた総支配人さんは何も言い出さないで、ゆっくりと紅茶とクッキーを味わっている。……とっても真剣な顔で。
❝美味しい❞と言いながらも真剣な顔を崩せないほど難しい話なのかと少しだけ警戒するけど、この総支配人さんが❝泊り客❞である私に理不尽な話を持ってくるとは思えなかったので、とりあえずはハクとライムがおいしそうにごはんを食べる姿を堪能することにした。
(アリスの作るごはんは今日もおいしいのにゃ♪)
(ぼく、ありすのつくるごはんがだいすき!)
(ふふっ、ありがとう! ハクとライムがいつも「おいしい」って言ってたくさん食べてくれるから、ごはんを用意するのが楽しいんだよ~♪ スレイとニールもおいしく食べてくれてるかな?)
(もちろんにゃ! スレイもニールも「これほど素晴らしく美味な食事を惜しみなく振舞ってくれる主に出会えた我らは、世界で一番幸せなスレイプニルだ」って言っていたのにゃ!)
(本当!? すごく嬉しい!!)
2頭がそんな風に言ってくれていたなんて知らなかった。一緒にごはんを食べる機会も少ないしお留守番をしてもらうことも多いので、もっと不満が出ていてもおかしくないのに……。
私は本当に良い従魔たちに恵まれている、と喜びをかみしめながらまったりと食事を楽しんでいると、
「恐れ入ります、アリスさま! 私はこの宿で料理長を務めております、ピエランジェロと申します。お寛ぎ中に誠に申し訳ございませんが、お時間を頂戴できませんでしょうか?」
扉をノックする音と共に、聞き覚えのない男性の声がした。
「ピエランジェロ!」
料理長が私に何の用かはわからないけど、ちょうど総支配人さんもいることだし入ってもらった方が話は早い、と返事をする前に、総支配人さんが厳しい声で咎めるように料理長の名前を呼んだ。そしてドアへと向かい、
「私が呼ぶまで待ちなさい! お客さまへの非礼は許さん!」
料理長を叱責する。 どうやら総支配人さんの話は彼に関係することらしい。だったら同席させた方が話が早い。
総支配人さんにドアを開けて良いと伝えると、
(アリス、ちゃんと【マップ】や【魔力感知】を使っているにゃか?)
ハクの咎めるような声の心話が届いた。
急いで【マップ】を発動させるとドアの前には4つのポイント。 あれ? 後の3人は誰? 不思議に思って確認する前に総支配人さんはドアを開けてしまう。 そして「どうしたんだ、お前たち!?」と驚きの声を上げた。
総支配人さんの予定にはなかった人たちも来ているようだ。
(警戒心が足りないのにゃ…)
呆れたようにため息を吐くハクに謝りながら、戸口に立った4人を観察する。
前に1人で立っている白いコックコートを着ている大柄な男性が料理長だろう。そしてその後ろに3人が並んで立っていて、その内の一人は見覚えがある。以前にも部屋を訪ねてくれた、厩舎の責任者さん。
その横に並んでいるのは……、どう見てもまだ幼い子供が2人。2人とも目を真っ赤に充血させている。いったい何事!?
訝しみながらも入室を許可すると料理長は少しほっとした顔で、厩舎の責任者さんはバツが悪そうに、子供たちはおどおどとした様子で入って来る。
まあ、とりあえずは私のお客のようだし、うちの仔たちもまだまだ食事の最中だから、彼らにもお茶を出しておこうかな。
テーブルから少し離れた空きスペースに、インベントリから取り出したテーブルセットを置いてティーポットとクッキーを取り出すと、
「わたくしの教育不足で皆さまの食事の邪魔をしてしまい、誠に申し訳ございません。お気遣いなどはどうぞご無用に……」
総支配人さんが申し訳なさそうに頭を下げ、その後ろで4人も深く頭を下げてくれる。そう言われても、彼らをただ立たせたままで私たちだけ食事を続けるのはちょっと、ね?
さっさと座ってくれないと私たちが食事を続けられないと訴え、テーブルにティーポットとティーカップ、大皿に乗せたクッキーと小皿を置いて後は料理長に任せると伝えて放置する。
総支配人さんも椅子を持ってあちらのテーブルに移って何かを小声で話し始めたので、私たちは遠慮なく食事を再開した。
(ごはんの邪魔をするなんていったい何事にゃ? もしもしょうもない用だったなら、引っ掻いてやるのにゃ!)
と息巻くハクを宥めながら、2匹がもぐもぐするのを眺めていると、
「このお茶もクッキーもすっごくすっごく美味しいよぉ……! こんなに美味しいお茶があるなんてあたし知らなかったよぉ。お兄ちゃん、どうしてあたしたちはこのおねえさんの従魔じゃないの!?」
「そんなこと言っても仕方がないだろう? 泣くなよ! オキャクサマに迷惑が掛かっちまう!」
少女が突然泣き出した。お兄ちゃんと呼ばれた少年も服の袖で目元をぬぐいながら少女を宥める。
従魔を羨ましがって泣き出す子供たちって、一体なんなの!?
思わず彼らを凝視した私たちに気が付いたのか、厩舎の責任者さんが椅子から立ち上がり、
「本当にすまんことをしてしまいました! こいつらのやったことは全て俺の責任です! どうか、どうか、鞭打ちで許してやってくださいっ! もちろん俺も鞭を受けます! どうか、クビだけは……!」
そのまま床の上で土下座を始めた。
子供たちも彼に倣って床に頭をこすりつけながら、「「ごめんなさい! もう2度としません! 許してください!!」」と声を揃え、総支配人さんと料理長も立ち上がり「監督不行き届きでした。申し訳ございません」と深く腰を折る。
「ええっ?!」
「にゃっ!?」
「きゅっ!?」
突然❝鞭打ち❞だの❝クビ❞だの言われても何がなんだかわからない。 あらかた食べ終わった2匹が私の腕に飛び込んできたので、ゆっくりと話を聞くことにした。
2人の子供たちは、以前に聞いていた❝動物に好かれる性質の❞従業員だった。といっても見習いのようなものらしいけど。
その子供たちがスレイとニールの食事に興味を持った…というか、馬たちの健康を心配してくれたのが事の始まりらしい。
馬の餌と言えば干し草や野菜が常識なのに、うちのスレイとニールは果物や野菜以外にも私の作った料理を大量に食べている。それを見ていたお兄ちゃんの方が「お金持ちが食うモノには香辛料とやらがいっぱい入っているんだろう? 馬が食っても大丈夫なのか?」と心配して声を掛けた所、スレイが「食べてごらんなさい」とでも言うように、彼らに向かってスープの入った鍋を示して見せたようだ。
当然戸惑いを覚えた2人だったけど、食事を止めて2人を優しい目で見ているスレイとニールの様子を見て、好奇心が湧いてしまったらしい。ほんの一口の味見のつもりがあまりの美味しさに二口、三口とスープをすすり、
「なんで、なんで、こんなに美味しいものをお馬さんが食べてるのぉ!?」
少女が大声で泣き出したことで、❝お客さまから預かっている大事な馬の餌を従業員が盗み食いをした❞ことがバレてしまった。
2人が黙っていればすんだこと。厩舎にいた従業員に聞かれてもきっと叱られただけですんだことだったのが、たまたま預けていた馬の様子を見に来た他の宿泊客の耳に入ってしまったことで、ことが大きくなってしまったようだ。
……どうしてここに<料理長>が絡んでくるのかはわからないけどね。
とりあえずの事情は分かったから、後は事実確認をしないとな。
「ハク、行ってきてくれる?」
「にゃん!(わかったのにゃ!)」
ハクの心話で事情を聞いてもらえばいいことだけど、2頭の様子も気になるので直接話を聞きに行ってくれるようにお願いしてみる。
ハクとしてもスレイとニールのことが気になっていたようで、返事をするなり窓から飛び出して行くのを見送って、彼らには改めて席について貰うように声を掛けた。
お茶とお菓子でまた子供たちの気持ちが高ぶってしまうといけないので、今度はお水を出したんだけど……、
「どうしてお水がこんなに美味しいのぉ?」
まさか、お水でまた泣き出されるとは思ってもみなかったんだ。
どうしたらいいのか途方に暮れてしまった私は、ライムを腕に抱きながら、事情を確認したハクが一刻も早く戻って来てくれるのを大人しく待つしかなかった。
感情が高ぶっている子供には、泣き止むように命じている総支配人さんの声も届いていないようだしね。気長に待つしかない。けど、
(ハク~! 早く戻って来てーっっ!)
この距離だと届かないとわかっている心話を送ってしまうくらい、子供の泣き声は聞くのが辛いんだ……。
ハク~! 本当に、早く戻って来てねーっっ!?
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