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断罪 11
しおりを挟む頼みの綱のシルヴァーノさんにこっぴどく振られてしまい、これでビーチェも観念しただろうと安心していたんだけど、ふと気がついてしまった。彼女にはもう一本の綱が残っていることに。
しばらくは放心状態だったビーチェだけど彼女もそのことに気がついたらしく、「私にはおじいさまがいるわ!」と呟くと、しっかりと立ち上がって私たちを睨みつける。でも、
「孫娘が自分の紹介した先のギルドで問題を起こした挙句<女神の断罪>まで受けたのに、彼がギルドマスターのままでいられると思っているのか?」
サブマスが悔しそうに顔を歪ませながら言った一言を聞いて、凍り付いたように動かなくなった。何とか気を取り直して「おじいさまなら握りつぶせるはずよ……」と考えたらしいが、
「おまえが<女神の断罪>を受けたことは隠しようがないだろう? スキルを失い、全ての能力が子供並みに弱体していることをどうやって隠すつもりだ?
おまえがこのギルドで起こした問題については……、あの人なら握りつぶせるだろうが、きっとそんなことはしないな。責任を取ってギルマスを引退するだろう」
サブマスによって希望を打ち砕かれた。ビーチェのおじいさまと面識のあるらしいギルマスやシルヴァーノさんも同意見のようで深く頷いているから、本当にビーチェのおじいさまはギルマス引退の危機の様だ。
……とっくに成人している孫娘のしたことで、どうしておじいさまがそこまで責任を負わなくてはいけないのかという疑問が少しだけ頭に浮かんだけど、ギルマスの立場を自分に置き換えて考えたら納得するしかなかった。
もしも、私の紹介した人が紹介先で不正行為に加担していたら?
自分が身を置いている組織とは違う所だったなら、紹介先に深くお詫びして損害額の賠償などですむかもしれない。でも、同じ組織内だったら? 同じ組織の他部署に自分の口利きで身内を預かってもらって、その身内が不正行為を行っていたら……。どうしたって責任を感じてしまうのは当たり前のことだ。
だから今、私が言えることは何もない。いくら彼女のおじいさまが気の毒だと感じていても、口出しできることじゃない。
とても残念な気持ちでいる私に何を思ったのか、立ったまま俯いているビーチェのことは冒険者に任せて、ギルマスが私に向き直り頭を下げた。
「今日まで待たせてすまなかった。 こいつらの調査に時間がかかっちまったんだ」
「これほど時間がかかるとはわたしも思っていなかった。遅くなってすまなかったよ」
同時にサブマスも頭を下げて、ギルマスの代わりに、どうして今日まで待たされたのかを説明してくれる。
フランカがギルマスに宛てた❝パーティーに預けているお金❞の日付と金額が書かれた紙は古い物で、文字はその都度書かれたらしく丁寧なものから走り書きまで様々な筆跡で書かれていた。その為ギルマス達はフランカの手紙の内容を信じ、パーティー内の資金に不明な点があることを察してくれた。
そして不明なお金の行き先について、2つの可能性を考える。
1つは、フランカからお金を受け取るたびにヤツらがこっそりと使い込むこと。
もう1つは、派手に金を使うことでフランカや他のパーティーメンバーに疑われることを避ける為に、本当に貯めておくケース。このケースで貯めているのはパーティーの為ではなく、自分たち2人の為である可能性が高い。
でも、どちらかが持っていて、もし万が一、相手が先に死んでしまうとか失くしてしまうことを考えたなら、どこかへ隠している可能性が高いと推測して、ヤツらの動きを徹底的に調査してくれたようだ。その結果の報告書が私の前にドンッと積まれた。
数人がかりで調べてくれた調査内容はとても詳細で、ヤツら金の動きや先日街で私が声を掛けられた際の言動までもが詳しく報告されていた。
……ヤツらはフランカから搾取した金を、自分たちのパーティーハウスの私室に穴を掘って隠していたらしい。それぞれの部屋には鍵がかかっていたようなのに、よくもこんなことを調べられたものだと感心してしまう。時間がかかったのも仕方がないよね。と思いながらも、私の頭に(ヤツらを裁判所に連れて行って<審判の水晶>使わせた後に<断罪の水晶>で断罪すれば話は早かったのでは?)という考えがよぎった。
それはしっかりと表情に出てしまったらしく、
「何の調査もなしに裁判所で<水晶>の使用申請をすると、高額な使用料が発生するからね。 ギルドで調査する分にはそこまでの経費は掛からない。
……フランカなら一刻も早く真実を知らしめることより、孤児院に少しでも多くの金を渡してやることを喜ぶだろうと判断した」
サブマスが事情を説明してくれた。詳しい事情を話さずに私を待たせたことを再度詫びてくれながら、ヤツらから出た<水晶>はオークションにかけてフランカの遺産に上乗せしてくれることも約束してくれたので、私には何の不満もない。
今まで待った結果がこれなら、逆に大満足だ。
でも、こちらが万全の調査をしてからの<水晶>の使用だと料金が発生しないのかと感心していたら、これもラリマーの裁判所とオズヴァルド限定の特例措置だと聞いてびっくりしてしまう。
ギルマス、思っていたよりもず~っと凄い人だったんだね? ほ~んと、人は見かけによらないなぁ^^
ギルマスの【スキル】と<女神の断罪>のことは他言無用とのことで、ここに残っているメンバー(ヤツら3人を除く)はみんなで誓約書にサインした。特にペナルティーが発生する誓約書ではない分、これで済まされる私たちはとても信頼されている気がして、ちょっとだけ嬉しかったりする。
そして、誓約書へのサインだけでは信用できないと判断された3人は、<審判の水晶>を使って誓いを立てさせられた。
審判の水晶を使った誓いを破ろうとすると、スキルやステータスが水晶化するペナルティーが発生するらしいので、すでに最低限のステータスしか残っていない3人は命に関わることになる。
3人は蒼白になっていたけど、誓いを破らなければ良いだけなんだから、簡単な話だよね?
この<審判の水晶>の使い方も他言無用かと思ったら、これは内緒の事ではないらしい。みんなが知っていることではないけれど、別に広まっても何の問題もないそうだ。
というより広めて欲しいらしい。裁判所の収入が増えるから。
……裁判官さん。さっきは裁判所の仕事が減るから、ギルマスの能力が時短になってありがたいみたいなことを言っていなかったかな? お仕事増えても良いんだね~?
裁判官さんは私たちの話が終わるまでの時間を休憩にあてることなく、私の行動に関するエルダの報告書やまだ裁判所に提出していなかった新しい資料を読み込んでいたほど忙しい人のようでちょっと心配だったんだけど、
「❝誓い❞はコスパが良いので」
の一言で笑いを提供してくれた。
うん、犯罪者のグダグダした言い訳を長々聞くのって、時間の無駄に感じることがあるよね?
コスパが良い商売を広めようとするその姿勢、見習わないとね!
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ありがとうございました!
これで一区切り! あ~……、しんどかった……。
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