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断罪、の後
しおりを挟むフランカの元パーティーメンバーの2人もさすがに観念したらしく、虚ろな目で法廷兵たちに引っ立てられて行った。
後に残ったのは裁判官によってアイテムボックスから取り出されたヤツらの持ち物と、弱弱しく涙を零しているビーチェだけど……。誰一人、ビーチェに同情する様子を見せずにいると、彼女は先ほど自分を取り押さえていた冒険者にターゲットを絞ったようだ。
冒険者の目をじっと見つめ「何もかも…、全てを失ってしまったわ。私はこれからどうやって生きていけばいいの……?」と心細そうに呟いて見せる。何も知らない人が見たら高い確率で保護を申し出そうなほどの痛々しい姿に見えるけど、サブマスが、
「ディアーナはビーチェの部屋の整理を頼めるか? ギルドへの賠償額分差し押さえておいてくれ」
と言った途端に涙を引っ込めてサブマスを睨みつけ、
「あたしの物に勝手に触らないでよ! この泥棒っ!!」
元気いっぱいに怒鳴りつけてしまっては、せっかくの演技が台無しだ。呆れたような目をした冒険者にもしっかりと距離を取られている。でも、
「雇用契約時にきちんと説明をしておいたな? 故意にギルドに与えた損害はしっかり賠償してもらうと明記している契約書にも、お前のサインが入っているぞ」
サブマスに契約書と損害額の試算表を見せられながら説明されて、
「だったら今支払うわよ! だからあたしの部屋には入らないで!」
焦ったようにアイテムボックスからお金や金目の物を取り出していくことで墓穴を掘った。
私は、(お金持ちだな~。あ、同じ細工の宝飾品がいくつもある! プレゼント品が被っちゃったのかな?)としか思わなかったんだけど、
「うわ……。同じ細工の品だ。数人から貢がせて一つを残して換金するつもりだったんだな。娼婦並みの手口だぜ」
と呆れられたのはまだ良い方で、
「何をそんなに焦っているんだ……? どうせ出て行くんだから、現金や宝飾品よりも部屋の荷物を片付けた方が合理的だろうに……。
ディアーナ! 何人か連れて部屋を確認して来てくれ! <女神の断罪>で出た水晶の数からみて、ビーチェの罪は少なくない。部屋に不正の証拠が転がっているかもしれん!」
ビーチェの様子を訝しんだサブマスの判断で、ビーチェが隠していた他の不正が早々に発覚してしまったんだ。
……なんか、ビーチェってすごくたくましいよね? 口では「全てを失った」って言いながらも結構な額の現金や金目の物を色々と持っていたんだから。
新たに発覚した不正も人の命に関わるものがなかったお陰で、(結構高額な)賠償金さえ払えれば犯罪奴隷になることはないとわかったらあっさりと支払いをしてしまったし。……もっとも、もうほとんど残ってはいないようだけど。
ビーチェならどこへ行っても、強くたくましく生きていきそうだな……。そう思った私と同じように感じたのか、
「こいつを野放しにしてもいいのか? またどこかで男を騙して高笑いすんじゃないか?」
冒険者の1人が心配そうに言ってるのが聞こえたけど、
「どうせこの女の逃げ込み先は娼館か過去に騙した男の所だろ? 男と女の騙し合いなんてどこにでも転がっている話だ。気にすんな」
「それもそうか。騙される方も悪いのか」
もう1人の冒険者に笑い飛ばされて簡単に納得している。
……私はどんな状況でも、騙す方が悪いと思うんだけどね? ❝騙される方も悪い❞と発言したのが、ビーチェが偏見で語った❝私❞を信じてギルマスに報告してしまった冒険者だったので何も言えなくなった。
騙されて私の寝込みを襲ってくれた分のペナルティを受けてもそう言うってことは、自分に対しての戒めもあるんだと思うしね。
ビーチェを責めて責任転嫁しないできちんと反省する姿は、先ほどまでの見苦しい3人の姿を見ていた私にとっては嬉しいものだ。 ……慰謝料代わりの買い物に手加減はしないけどね!
追加の賠償額をきっちりと支払わされて、口汚く私たちを罵りながら出て行ったビーチェの後ろ姿を見送りながら、今後は彼女が人を騙さないで誠実に生きていくことを祈ってみた。
ハクとライムには呆れたようなため息を吐かれてしまったけど、皆が皆、騙された後に慰謝料請求や賠償額請求ですませるわけじゃないんだからね。今回野放しにしたことで、どこかでビーチェの遺体が転がるようなことになったら後味が悪いじゃない?
別に騙される人のことを思いやったわけじゃないと説明したら、またまた大きなため息を吐かれてしまう。
サブマスにどうしたのかと聞かれたんだけど、なんとなく説明しない方が良い気がしたので笑ってごまかしておいた。 ……別に、サブマスからもため息を吐かれると思ったわけじゃないんだからね?
フランカが返してもらいたがっていたお金の他に、フランカの元パーティーメンバーの所持金と持ち物と彼らの<水晶>を換金するお金、彼らを犯罪奴隷として売った後のお金も全てフランカに支払われることになり、換金が済み次第私が預かることになった。
フランカと同じ孤児院出身のトリスターノさんがいるんだから彼に預けた方が良いと思ったんだけど、フランカの遺書を見ながらやんわりと辞退されてしまったんだ。 フランカのご指名だしね。最後まできちんとやり遂げよう。
でも、とりあえずは……、ひと段落ってことで……。
やっとヤツらのことに片が付いて、気が抜けてしまった私はその場に座り込んでしまう。みんなが心配そうに見守ってくれていることには気がついているんだけど、今は立ち上がる気力が湧かないんだ……。
ハクとライムに寄り添われ労わられながら目を閉じて、心の疲れを癒した。
フランカのいた孤児院に遺品を届けるだけでは味気ない。何かお土産を持って行こうと思いつき、閉じていた目を開けると、さっき出したままにしていたフランカの遺品を1つ1つ愛おしそうに手にするトリスターノさんの姿が目に入った。
私の視線に気がつくと、
「これを俺に買わせてくれないか……?」
フランカの髪飾りを手にしながらこちらに歩いてくる。色々ある遺品の中で、どうして女性ものの髪飾りを選んだのかと思っていると、
「これは俺がフランカに贈ったものなんだ」
トリスターノさんは寂し気に笑いながら話してくれた。
トリスターノさんとフランカは孤児院の中でもとりわけ親しくて、独り立ちしたら一緒にパーティーを組もうと約束をしていたらしい。でも、トリスターノさんの方が年上だったので、先に孤児院を出て本格的な冒険者活動を始めていた。
フランカが冒険者になった時に、フランカを魔物から守れる強い男になろうとトリスターノさんは決心して必死で努力をして、順調にランクを上げていった。
努力を重ねて数年が経ち、晴れてフランカが冒険者になった時、トリスターノさんは喜んで迎えに行ったんだけど、その時彼はCランク。Fランクスタートのフランカとはパーティーを組めない…、いや、組むのは自由なんだけど、誰が見てもフランカがお荷物…というか、寄生しているような目で見られるようになってしまった、と。
トリスターノさんは外野の声など気にしなかったが、フランカはそれが我慢できなかった。自分がランクを上げるまで待っていて欲しいと彼を説得し、自分のレベルを上げる為に別のパーティー……、ヤツらのパーティーに加入した。
フランカは意地っ張りなところがあり、トリスターノさんが自分を心配するたびに「大丈夫」「何の問題もない」と笑っていたので、彼も彼女の境遇には気づけなかったようだ。
そして、この髪飾りはフランカがDランクになった時にお祝いで贈った物。彼女がもう1つ上のCランクになったらBランクになった自分と一緒に活動できるようになると喜んで、奮発して買ったものらしい。
……トリスターノさんはフランカを特別な意味で大切に思っていたってことだよね? 多分、フランカも……。
フランカを大切に思っていた人にどうしてヤツらの監視なんて辛い仕事をさせるんだと怒りが湧き、思わずギルマスとサブマスを睨みつけてしまったら、ギルマスは「知らなかったんだ!」と顔色を変え、サブマスは「こいつが適任だったんだ」と言い切った。
能力的に適任だったとしても、自分の大切な人を死に追いやったヤツらがのうのうと生きて笑っている所を見続けなくてはいけなかったなんて、どれほど辛かっただろうと憤りを抑え切れずにいたけど、
「おまえが適任だったと今でも思っている。が、辛い思いをさせてすまない」
「いや……。他の奴らに任せていても、何か見落としがなかったかと後から調べ直していただろうから、俺に任せてもらってよかったよ。
ただ……、欲を言えば、最初から全てを話して欲しかったけどな」
「ああ、そうだな……。すまなかった」
肝心のトリスターノさんが納得しているんだから、私が怒っていても仕方がない。私にできることは、トリスターノさんにフランカの大切な形見の髪飾りを返すことだけだ。
……返すつもりだったのに!
トリスターノさんはフランカの遺志だと言って私に多額のお金を受け取らせた。
確かにフランカは遺品を売って、孤児院に1メレでも多くのお金を渡してあげたいと思っていたけどね? その髪飾りは話が別だと思うんだ!
仕方がないから受け取ったけど、孤児院の院長さんにはきっちりと内訳の説明をするからね~?
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