女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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孤児院改め、フランカの実家 3

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「家賃の値上げ……、ですか? それも今の10倍!?」

「ええ。この辺りは治安も良いし、住環境としては整っているので……」

 院長ミネルヴァさんの憂い顔の原因は、この孤児院の家賃の値上げ問題だった。

 この大きな家は、実は商人だったミネルヴァさんのお父さまの別宅で、若かったミネルヴァさんが孤児院を作ると決めた時に破格の家賃で貸してくれたそうだ。

 当時、それなりに大きな商会の会頭だったお父さまはこの家をミネルヴァさんに与えることも考えたそうだけど、未婚のミネルヴァさんに資産いえを与えることでミネルヴァさんが悪い男に騙されたり犯罪に巻き込まれることを防ぐつもりだったらしく、家賃を受け取る代わりに孤児院には何かと援助をしてくれていたそうだ。

 未婚の身で独り、孤児院経営という茨の道を歩もうとする愛娘に対する思いやりの措置だったのだが、やり手だったお父さまが突然亡くなり、ミネルヴァさんのお兄さまが後を継いだころから商会の経営が怪しくなった。そのため家賃は破格のままの据え置きだが、援助は打ち切りになってしまった。

 そして、兄の息子が後を継いだ今の商会は当時の隆盛の影もないほどに規模を縮小し、この孤児院に力を貸す余裕はなくなり、家賃の値上げの話が持ち上がってしまった、と。

「それでも突然10倍なんて……」

 この家の中はとても質素で調度品などもほとんどない。子供たちの着ている服や靴を見たら経営が厳しいことは一目でわかるので、突然の家賃の値上げは困るだろう。しばらくはフランカの遺産でなんとかなっても、お金は使えばなくなってしまう。 どうしたものかと考えていると、

「値上げが嫌ならここを明け渡せと……。ここを売却すればまとまった金額になると思われるので、あのこはそれを望んでいるようです……」

 状況はもっと悪いものだと知らされる。

 ミネルヴァさんがここを孤児院にした当時、この辺りは閑静なことだけが売りの土地だった。飾らずに言うと、家がポツポツ立っているだけのあまり魅力のない土地だった。

 でもこの数十年で家が増え、店が建ち、ここをほんの少し先に行った所には衛兵の詰め所が出来て、賑わいがあるのに治安が良いという好条件の土地に生まれ変わった。甥はそこに目を付けたらしい。

 ……気持ちはわかる。気持ちはわかるんだけどね? 

 そうすると、ここの子供たちはどこへ行ったらいいの? 引っ越すにしても、子供たちが全員で住むにはそれなりに大きな家が必要になる。大きな家を借りるにはそれなりの家賃が必要になるだろうし……。

 簡単ではない問題に頭を抱えていると、

「にゃ~~お!(お腹が空いたのにゃーっ! 話はまだ終わらないのかにゃ?)」
「ぷきゅ~?(ごはんまだ~? こどもたちもおなかすいてるよ~?)」

 ハクとライムがドアに体当たりをしながら心話を送ってきた。慌てて懐中時計を取り出して見ると、思っていたよりも時間が経っている。ミネルヴァさんも気がついたようで、

「あなたにこんな話を聞かせてごめんなさいね。わたくし子どもたちの食事の支度をしないといけないので……」

 慌てて立ち上がる。でも、今からごはんの用意を始めて、食べられるのは何時になるの? ここは突然やって来て長話をしてしまった、私が責任を取らないとね!











 今にも部屋を出ようとするミネルヴァさんを引き留め、突然の往訪のお詫びに今夜の食事は私に用意させて欲しいとお願いし、インベントリからお鍋ごといくつかの料理を取り出した。

 どうして出来上がった料理を大量に持っているのかと聞かれ、自分たちのごはんでもあり❝商品❞でもあると答えると一瞬だけミネルヴァさんの目に警戒の色が浮かんだ。もちろん料金なんか取らないことを急いで説明すると警戒の色は薄まったけど。

 疑いを持ったことを自省しているようだったので、上手に説明できなかったことを申し訳なく思った。……いままで苦労されているなら、常に警戒心を持つのは子供たちを守る為にも必要なことだよね。

 ミネルヴァさんの警戒は当たり前の物だと肯定するために検食を提案してみた。子供たちに出す前にきちんと❝毒見❞をした方が安心すると思ったから。でも、そのせいで、

「お気持ちはとても嬉しく受け取らせていただきますが、これらの料理はいただけません」

 料理の受け取りを拒否されるとは思っても見なかった!

 料理を口にした時はとても、本当に嬉しそうに「美味しい…!」と言ってくれていたし、料理のせいで具合を悪くしている様子もない。何が悪かったのかと焦っていると、

「どれも素晴らしく美味しい料理ばかりですが……、美味しすぎるのです。明日からの毎日の食事が悲しく感じるほどに」

 ミネルヴァさんが苦笑しながら教えてくれた。自分たちの生活では、これらの料理は子供たちが想像したこともないほどの❝ごちそう❞だと。

 焼きたての柔らかいパンにハーピー肉がゴロゴロ入っている深みのあるスープ。オーク肉いっぱいの野菜炒めや色鮮やかなカットフルーツなどは自分たちの普段の食事とはかけ離れていて、これらを今日食べると、今まで毎日食べていた硬いパンや塩で味付けしただけの野菜のスープを食べることが苦痛に感じるようになってしまう。❝ごちそう❞はさっきのクッキーだけで十分で、これ以上は子供たちに❝毒❞になる、と。

 ……私はこの孤児院の窮状を理解していなかった。子供たちの着ている服が継ぎのあるものだと、足元は靴を履いていない子供の方が多いことにも気がついていたのに、根本的なことが理解できていなかったんだ。

 だから子供たちが喜んでくれるかと、深く考えもせずにたくさんのオーク肉を使った料理や果物を取り出した。出汁を取ったスープなんて、商業ギルドのギルマスでさえも驚いていたのを知っていたのに……。

 悲しい瞳で苦笑を浮かべているミネルヴァさんに申し訳なくて、私は出していた料理を急いでインベントリにしまいこみ、代わりにいくつかのお鍋を取り出した。

 以前作っていた出汁を取っていないスープや、ボア肉を使った野菜の炒め物や野菜の煮物。ハクとライムが好みじゃない!と言い切った、品質的にあまり良くない野菜を使ったものなので、食材が充実してきた今となってはインベントリの中で眠ったままになっていた料理たちだ。 これならどうかと恐る恐る聞いたら、一口ずつ味見をしていたミネルヴァさんが、

「とても、とても美味しいです。子供たちが大喜びしそう。本当に頂いてもよろしいの?」

 と言ってくれた。「こんなことにまで気を使わせてしまってごめんなさい」と悲しそうに微笑むのは気がつかないフリをして、

「良かった!! では、私たちはこれでお暇するので、早く子供たちの食事にしてあげてください。遅くまですみませんでした!」

 ハクとライムを迎えにドアに向かう。鍋ごと置いていくのでまた今度取りにくると伝えてドアに手を掛けると、

「アリスさん、待って! …フランカのことは子供たちに」
「伝えていないんですね?」

「気がついて……?」

「ええ。私からは何も言いません」

 ミネルヴァさんに小声で引き留められた。

 子供たちがフランカの死をまだ知らないことには気がついていた。私がフランカの名前を出した時の屈託のない様子が不思議だったからね。

 だから、フランカから子供たちへの手紙をどうするかはミネルヴァさんに一任する。

 まずは子供たちにごはんを食べさせてあげないとね! その為にも私たちは早く帰ろう!!
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