女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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頼もしいご近所さん

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 ミネルヴァさんに会いに孤児院へ行ったら留守だった。お留守番役の子が、夕方までには戻る予定だと教えてくれたので時間つぶしに近所の散歩をしていると、

「今日は溝の掃除が追加だ。綺麗にしてくれよ」

「うんっ!!」
「は~い!」

 衛兵の詰め所の前で孤児院の子供たちが集まって、衛兵さんたちから掃除道具を手渡されていた。

 様子を見ていると、

「16時の鐘が鳴るまでには終わらせてくれ」

「わかりました。皆、始めるよっ!!」
「「「お~!」」」

 年長の子供の号令で、子供たちが一斉に動き始める。

 詰め所の周りの掃除を元気に始める子供たちと、子供たちを優しく見守る衛兵さんたちの姿をほのぼのとした気分で眺めていると、ふとこちらに気がついた衛兵さんと目が合った。

 衛兵さんが一瞬だけ私を不審そうに見たのに気がついたので、ゆっくりと近づいて行くと、

「アリスおねえちゃんだ!」
「アリスちゃん! お仕事が終わったら一緒にあそぼっ!」
「おねえちゃんのごはんおいしかった! 今日も作ってくれるの?」

 私に気がついた子供たちが笑顔で話しかけてくれ、衛兵さんの視線も柔らかいものになった。

 衛兵さんと挨拶を交わして子供たちの❝仕事❞について聞いてみると、子供たちは週に1度、詰め所や周辺の掃除をすることで賃金を得ているとのことだった。少しでも孤児院の助けになれば、と詰め所の隊長さんが発案したらしい。 

 詰所のトイレ掃除などもするそうなので、子供を中に入れても大丈夫なのかと聞いてみると「危険があると判断した時は中には入れないようにしているし、俺たちが守るから大丈夫だ」と請け負ってくれたので安心だ。

 衛兵さんと一緒に❝お仕事中❞の子供たちを見守っていると、黙ってまじめに掃除する子、楽しそうにおしゃべりをしながらもキッチリと手を動かしている子、……面倒そうにいやいや掃除をしている子など、様々な様子が見られてなかなか面白い。

 なんとなく、この子たちのことを衛兵さんたちはどう思っているのかと聞いてみると「皆それぞれだ。それぞれに普通の子供だな」と穏やかな微笑みと共に返事が返ってきた。
 まじめな子、明るい子、ちょっと乱暴な子、大人しい子、元気な子、少し気が弱い子。孤児院の子供だからといって、みんなが良い子でもなければみんなが悪い子でもない。と言って、掃除をさぼって箒で遊び始めた子を笑いながら叱りに行く。

 ……ここの衛兵さんたちに子供たちへの偏見がないことがありがたい。以前会った非番中の衛兵さんの反応を覚えていたから少しだけ不安があったんだけどね。払拭されて良かったよ。

 いいご近所さんに恵まれたな。と安心しながら子供たちを見ていると、

「アリスさん!」
 孤児院の方からヴァレンテくんが駆けてきた。

 職人見習いのヴァレンテくんがこんな時間に戻ってくるのは珍しいらしく、嬉しそうに名前を呼ぶ子供たちに笑顔で「ただいま」を言いながらヴァレンテくんも詰め所の掃除に加わった。

 せっせと働くヴァレンテくんに、

「今はまだ工房にいる時間だろう? 何かあったのか?」
「その表情かおなら心配はいらないか? でも、どうしてこんな時間に帰って来たんだ?」

 衛兵さんたちが少し心配そうに聞いてくれて、彼らが子供たちの職場の事情まで気にかけてくれているのがわかり頼もしく思う。職場で理不尽な目に遭ったら相談に乗ってくれそうだ。

 ヴァレンテくんも衛兵さんたちの気持ちをちゃんと理解していて、くすぐったそうな表情でトラブルではないから心配はいらないと説明している。

 どうやらヴァレンテくんが練習を兼ねて作っていた女神像を取り上げて換金していた兄弟子たちの所業が、親方さんの耳に入ったらしい。

 もちろん、反省した彼らが自分で告白した訳ではなく、工房に出入りの商人さんの、

「いや~、親方の所ではいいお弟子たちが育っておりますなぁ。彼らの作る女神像はなかなか好評ですよ」

 という、ちょっとした世間話から発覚したようだ。

 最近兄弟子たちが女神像を作っていることを知らなかった親方さんが(知っている訳がないよね。彼らが作った物じゃないんだから)❝見習い卒業試験❞として女神像を彫らせたところ、イマイチな出来に首をひねり、親方さんにコレのどこを評価したのかと聞かれた商人さんも首をひねったことから話の雲行きが怪しくなった。そしてヴァレンテくんが廃材で女神像を彫っていたことを知っていた親方さんが事の真相に思い当たり、鬼の形相の親方さんに問い詰められた兄弟子たちが、泣きながら白状した、と。それを聞いた親方さんは、

「見習いが練習作品を売って小遣いを稼ぐのは目を瞑る。俺たち職人のほとんどが通って来た道だからな。
 だが、弟弟子の作品を奪って小遣い稼ぎをするとは何事か! お前たちに職人としてのプライドはないのか!? 自分で腕を腐らせるようなことをするんじゃない!!」

 と烈火のごとく弟子たちを叱りつけ、兄弟子たちを❝集中して再教育❞する為に、ヴァレンテくんに休暇を与えたらしい。

 職人さんたちには基本休暇がないと聞いていた私は「休みが貰えて良かったね!」と喜んだんだけど、ヴァレンテくんは浮かない顔になり、自分よりも小さい子たちを見つめながら「休みの間は稼ぎが一切なくなる。何とかしないと」と呟くように言った。

 そうか。有給休暇も休業補償もない見習い職人さんは❝仕事を休む=収入がなくなる❞なんだ。

 話を聞いていた衛兵さんたちも、「それは大変だよな。何か仕事を世話してやりたいが……」と悩まし気だったので、

「だったら、私の仕事を引き受けてみない?」

 以前から欲しかったものを作ってもらうことにした。

<米>が有って<醤油>もあるんだから、当然あると思っていた<お箸>。でも、今まで見かけたことがないんだよね。自分で作ろうと頑張ってみてもなかなか上手くはいかなかったので、ちょうどいい機会だから発注することにした。でも、

「木の枝じゃダメなのか? 枝なら先も細くなってるし」

 私から<お箸>の形状を聞いたヴァレンテくんは不思議そうに首を捻り、

「木を細く切るだけで金は取れんだろう……」

 衛兵さんたちも困ったような顔で私を見ている。なので私は、

<お箸>は食物を挟んで口に運ぶものなので木材そのものの安全を考慮したいし、ただの細い棒が欲しいのではなく、私の手に馴染むような長さと太さのものが欲しいのだと力説した。当然ささくれなどがあっては指を怪我してしまうから表面は綺麗になめらかに削って欲しいし、直接手の当たらない所に可愛い彫り物などがあると嬉しいことなど細かい注文をする。

 そして練習用の木材と本番用のトレント材を取り出し、お箸を上手に削れたら次は女神像を作って欲しいとお願いすると、

「お箸の次が女神像?って差が激しすぎるよ! それもトレント材で作れなんて、アリスさんは何を考えてるんだ?」
「いくら知り合いでも、見習い職人にトレント材なんて……。手が震えてまともに動かないんじゃないか?」
 ヴァレンテくんの深~いため息と、衛兵さんの呆れたような視線が返ってきた。

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