497 / 754
お仕事 3
しおりを挟む子供たちが嬉しそうに出かけていくのを少しだけ羨ましそうに見送っていたヴァレンテ君だけど、
「俺に何かできることがあるのか?」
私が意地悪で彼をお留守番させたとは思わなかったようだ。信頼関係がちゃんと築けているようで嬉しい。
「うん、これをね。真ん中に穴を開けてから全体を磨いて欲しいの。子供たちに棘が刺さったりしたら大変だから。
……これは1枚でどれくらいの手間賃が妥当かな?」
インベントリから取り出した大量の円盤状の木材を見せると、ヴァレンテ君は怪訝な表情を浮かべる。
これは昨夜、私が<鴉>を使ってカットしたものだ。ビジューがくれた<鴉>は戦闘以外にも使えて本当に便利だよね!
円盤状の木材の外周には対角線上に32個の切れ込みを入れてある。最初は8個だったんだけど、子供たちがそれぞれで工夫をしてくれることを願って32個にしておいた。
私が教えるのは本当に基礎の基礎。8個の切れ込みを使って組み上げるベーシックな物だけど、子供たちの発想力に期待してるんだ♪
でも、その分ささくれなどの処理が大変になってしまったんだけど……。引き受けてくれるかな?とヴァレンテ君を窺ってみると、
「……これがその綺麗な紐を作る為の道具なのか? 任せてくれ! チビたちに怪我なんかさせないから」
ヴァレンテ君はワクワクとした様子を隠さずに円盤をじっくりと観察し、自分の部屋に駆け込むと道具を取って来てすぐさま円盤を磨き始めてくれた。
その上、私に円盤の使い方を確認すると、
「だったら、この角は必要ないよな……。ここんところ削ってもいいか?」
と、すぐさま改良を加えてくれる。 ヴァレンテ君に任せておけば、子供たちにも安全な道具になること間違いなしだ!
当然私もできそうなことを手伝おうとしたんだけど、ヴァレンテ君から「全部俺に任せてくれ」と断られた。
道具は彼の持っている一組しかないから仕方がないかな、と思ったら、
「1枚100メレもらっていいか……? ……いいのかっ!? すると全部で………5,000メレ。へへっ、ばあちゃん喜ぶぞ♪」
少しでも多く稼いでミネルヴァさんを喜ばせてあげたいからだった。だったら1枚500メレでもって思ったんだけど、
(アリスはどうして値上げをしようとするのにゃ!?)
(だめだよ、ありす。こういうときはねぎらないと~)
「アリスさん。いくら金持ちでも無駄金を使うのは良くないぞ? それにこれは俺たちが稼ぐために使う道具なんだろ? これくらい当然!って顔でいばりながら、無料でやれって言ったっておかしくないんだ。
もしもアリスさんが破産でもしたら俺たちの家だってこのままって訳にはいかなくなるんだから、気を付けて欲しい……」
ハクとライムに呆れたような声で叱られて、ヴァレンテ君には困ったようにお説教されてしまったので諦めた。
うん。実は私、結構貧乏なんだよね。 モレーノお父さまの送ってくれたお金のお陰でなんとか必要な物にお金を使えているだけ。無駄(ミネルヴァ家に入るお金なんだから、無駄遣いだとは思わないんだけどね?)に使えるお金はない。
最近持ちなれない大金を持っていたから感覚が狂っていたようだと反省をして、円盤のことは1枚100メレでヴァレンテ君に全て任せることにした。
その間に私にできることは……。やっぱりごはん作りかな? ヴァレンテ君にキッチンの使用許可をもらって、携帯食の調理も同時に行う。
資金作りの為に販売しちゃったから、自分たちの分のストックが怪しいんだよね。いざという時の為にもいっぱい作って【複製】しておかないとね!
「アリスちゃん! 見て見て! かわいいの!!」
「ほんとだ、可愛い! 良く似合ってるよ!」
❝バンッ❞と勢いよくキッチンのドアが開き、嬉しそうな声を上げるなり勢いよく私に向かって飛び付いてきた女の子。 本当は勢いが良すぎてあまり見えなかったんだけどね? 新しいお洋服を褒めてもらいたがっている女の子は素直に褒めてあげるのが紳士というものです(紳士じゃないけど^^)。
「クツもなの! わたしだけのクツなんて初めて! アリスちゃん、ありがとう!!」
「うん。靴も良く似合っているよ! サイズはあってるかな? 痛くない?」
「いたくな~い! かわいいからいたくないの!」
この言い方だと本当に痛くないのか、本当は痛いけど可愛いから脱ぎたくないだけなのか悩む所なんだけど、
「少し大きめの物なので、本当に痛くはないはずです。 こら! キッチンにいる人に飛び付いては危ないでしょう!」
続いて入ってきたミネルヴァさんの言葉に安心する。
「アリスさん、子供たち全員や私にまで新しい洋服を……。感謝の気持ちをどんな言葉にしたらいいのかわからないほどです」
と言って嬉しそうに微笑むミネルヴァさんも、出かける前とは違う服を着ている。
❝新しい服❞と言っても新品ではないんだけどね? ディアーナが古着屋さんから買い集めてくれたものだけど、さすがはディアーナ! 少女にもミネルヴァさんにも良く似合う物を選んでくれている。
「とりあえず、今日の着替えだけは買ってきたわ。 アリスの注文通り1人に3着ずつの服と1足の靴は揃えられなかったから、また明日他の店を回ってみるつもりよ」
「うん、ありがとうディアーナ! いい趣味してる!」
心の中でディアーナを褒めていると、当人がキッチンに顔を出してくれたので、満面の笑みでお礼を告げる。
子供たち全員の分とミネルヴァさんの服を買って、みんながお風呂を上がるまでに公衆浴場まで届けるのは大変だっただろう。 それも、ただの❝間に合わせ❞ではなく、きちんと似合う物を選んでくれているのだから尚更だ。
でも、ディアーナは、
「とっても楽しい買い物だったわ! 私たちが入った時と出て行く時では店主の態度も大違いで面白かったのよ? さあ、他の子たちも見てあげて?」
笑顔を浮かべて、ただ「楽しかった」と言ってくれる。 だから私もそれ以上は言葉にせずに、
「楽しみだわ♪」
嬉しそうな少女に手を引かれるままにキッチンから出て、子供たちが集まっている食堂に足を急がせた。
ハクとライムは……。振り向くと、2匹ともディアーナの腕の中で可愛らしい鳴き声を上げていた。
ディアーナの働きを労っているつもりかな?
207
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる