496 / 754
お仕事 2
しおりを挟む「仕事……? 家賃の代わりに働くってことか?」
「くみひもって何? あたしたちにも作れるものなの?」
手に焼き栗を持ったまま、近くの子と意見交換を始める子供たち。
いきなりそんなことを聞かされても、そりゃあ困っちゃうよねぇ?
子供たちの反応から自分の説明が不足していたことに気がついたミネルヴァさんが恥ずかしそうに頬を染めるのを見て、私の提案がミネルヴァさんにとってとても魅力的な物だと判断されたんだとわかり私の頬も緩む。
みんなもそう思ってくれるといいんだけど……。
子供たちの不安そうな視線に気がついたミネルヴァさんが、安心させるように笑顔を浮かべながら説明を始めようとするので私が代わることにする。
今日はその為にみんなにここにいてもらっているんだしね!
まずは、そう。組紐の説明からかな?
私は笑顔を浮かべてみんなに話しかけ、みんなの注意が私に向いたことを確認してからスッと後ろを向いて身を低くする。
「これが<組紐>。みんなにはこれを作ってもらいたいんだ」
今日の私の髪形は、サイドの髪を後ろで束ねたハーフアップ。髪を束ねるのに使っているのが<組紐>だ。
「うわぁ! きれいな紐~!」
「こんなきれいな紐、初めて見た!!」
「……ぼく、こんなの作れない」
「あたしにも出来っこないよぉ……」
スレイとニールの馬具の刺繍用に染めたアラクネーの糸のあまり。その中から赤を主体にして組んだ組紐は私の黒髪に良く映えてくれて、子供たちの好評を得ることができた。と同時に、とても複雑に組まれているように見えるようで怖気づかせてしまう。
「ふふふっ、素敵でしょう? でもね、ある道具を使えばとっても簡単にできるんだよ? それでね………」
私は満面の笑顔で振り向くと、ラファエルさんに合図を送る。
説明はラファエルさんにお任せして、私は子供たちの様子を観察するのがお仕事だ。
合図を受け取ってくれたラファエルさんはおもむろにアイテムボックスから契約書を取り出すと、子供たちにもわかるように、丁寧かつ簡単な言葉を使って説明を始める。
1.この仕事はノルマなしの出来高制であること。他にやりたい仕事のある者には選択の自由がある。ただし、どんなに苦手だと感じても、最低1本を組み上げてから判断をすること
2.素材は私が用意し、出来たものも全て私が買い取る。が、ミネルヴァ家で資金が用意できるようになり希望があれば、素材の買い付けから販売までを執り行う権利を譲渡すること。ただし変則的ではあるが雇用関係は継続されるので、毎月売り上げの10%を納めてもらこと。
3.<組紐>の製作方法については私が<占有登録>をするので、期間内は口外禁止であること
これらをゆっくりと、子供たちが理解できるように丁寧に説明してくれたラファエルさんは最後に契約書をミネルヴァさんに手渡し、内容の確認をしてもらう。
言った通りのことが書かれていることをミネルヴァさんが説明すると、子供たちは興奮したように、❝冒険者にならなくても❞❝どこかに奉公に出なくても❞みんなと一緒に稼ぐ手段ができたことを喜び合い、子供たちの様子を見ていたミネルヴァさんがこの話を受けて私と雇用契約を結ぶことを改めて伝えると、大歓声で喜んでくれた。
ずっと観察していたけど、どの子たちも嫌がるそぶりを見せなかったので(自分に組紐が組めるのかと不安がる子はいたけどね)、私たちは安心して雇用契約を締結することができた。
さて。無事に契約を結ぶことができた今、雇用主の私にはやらなくてはいけないことがいくつかある。
「じゃあ、<組紐>の詳しい説明は晩ごはんの後にするとして。ミネルヴァさんとマッシモは子供たちをお風呂に連れて行ってくれるかな?
ああ、悪いけど、ヴァレンテくんだけは残ってくれる?
ディアーナはお買い物をお願いね? ルシアンさんはディアーナの付き添いをお願い。荷物持ち兼護衛ってことで。 お金はこれで。
晩ごはんは私が用意するから、みんなはゆっくりとお風呂を楽しんでから戻っておいでね~!」
やらなくてはいけないこと。それは………、福利厚生!
子供たちは突然の展開に、
「うわぁ! 今日もお風呂に行けて、夕食はアリスちゃんのごはんなの? アリスちゃんのごはんもお風呂も、だぁいすき♪」
素直に喜んでくれる子もいれば、
「お風呂は4日前に入ったよ。 だから、お風呂の日は明日だよ?」
と躊躇する子もいる。
今までお風呂は5日に一度だったんだね?
でもね。私があなた達を雇うからにはお風呂は毎日入るんです。毎日のお風呂代が払えない?
その費用を支払うのが、雇い主の私の役目なんだよ? みんなは代金の事なんか気にせずにお風呂に行っておいで!
私が<福利厚生>を説明すると、最初は躊躇っていた子も嬉しそうにお風呂道具の用意を始めた。
ここの子供たちも、本当はお風呂が大好きなようです♪
204
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる