499 / 754
お仕事 5
しおりを挟む問題となっていたのはヴァレンテ君の❝言葉遣い❞だった。
男の子としてごく普通の話し方だと思うんだけどね? 何がいけなかったのかと考えていると、
「Dランク以下の冒険者が依頼人にあのような話し方をしていたら、その依頼人は次からその冒険者を雇わないわね」
ディアーナが苦笑を交えながら教えてくれる。マッシモも深く頷いているから、冒険者としての常識なのかもしれない。
仕事を依頼する側と依頼を受ける側。基本は対等な関係なのだけど、依頼をする側(お金を払う側)が選択の権利を持つケースの方が多い。
つまり、依頼人に対して偉そうに物を言う、横柄に振舞う冒険者に仕事を依頼したがる人はそう多くない。実力が同じなら当然、礼儀正しい方を選ぶのが人情だ。
「依頼人に向かって仕事を❝受けてやる❞なんて言って世間に許されるのは、Aランク以上の冒険者だけよ。 後はまあ、冒険者がランクに合わない安い仕事を引き受ける時くらいね」
ディアーナの説明に続いてミネルヴァさんも、
「この家の子供たちにとって世間は優しいものではありません。 だから❝処世❞の術の1つとして❝丁寧な❞話し方を教えているのですが……」
孤児院の子供たちの実情を教えてくれる。決して卑屈になる必要はないけれど、相手を不愉快にさせない為の礼儀正しさは武器の1つになるから、と。
(ヴァレンテの兄弟子たちはアリスを見て、すぐさま丁寧な口調に切り替えていたのにゃ)
いつの間にか戻って来ていたハクに言われて思い出して見れば、ヴァレンテ君は兄弟子たちに対しても今の話し方のままだった。兄弟子に対するというより、対等な相手に対してのもの。
その時は、ヴァレンテ君が彼らに対して自分の権利を主張する為に当然のものだと思っていたけど‥‥‥。
もしもあれが普段からのものだったのなら?
兄弟子としては面白くないだろう。方法としては良くないが、立場を判らせる為にと意地悪な行動をとってしまったのかもしれない。もちろん、弟弟子の作品を盗んで自分たちのお小遣いにすることは許してはいけないんだけど!
視点がほんの少し変わるだけで、物事の捉え方が変わって来る。
親方さんが兄弟子たちを❝集中して教育❞する為にヴァレンテ君に休暇を出した意味すらも、見方を変えれば、腕のいい弟弟子に見下されないように兄弟子たちのスキルアップを図り、弟子たちの関係を改善させるためのもの。休暇=不和の火種を作ったヴァレンテ君への罰の一種だと捉えることができてしまう。
『仕事を受けてやる』。ヴァレンテ君がそう言った時は何も感じなかったけど、文字にして見てみれば、随分と偉そうな言い方だ。
あれを当然の物として、幼い弟妹たちが真似をしてしまったら‥‥‥?
自分たちがお風呂に行っていた短時間の間に5,000メレを稼いだと知った時の子供たちの憧れの眼差しを思い出すと、彼らがヴァレンテ君の真似をしたがる姿は容易に想像できる。
ミネルヴァさんやべニアミーナちゃんの表情が曇った理由がわかり、「私は気にしていないから」なんて軽々しく言えなくなった。
この世界は子供にとっても厳しい世界だ‥‥‥。
❝この世界は子供にとっても厳しい❞と思っていた私だけど、自分の育った世界だって同じだと思い至った。
日本で道に迷っていた7~8歳くらいの子に「○○にはどう行けばいいですか?」と聞かれたことがある。こんなに幼いのに一人で迷子なの? 親御さんはどこ!?と思ったのと同時に「最近の子はしっかりしてるなぁ」と感心しながら、聞かれた場所まで案内してあげた。私も待ち合わせ場所に向かっている最中だったけど。
でも、あの時、もしもとても生意気な態度で聞かれていたなら?
私はその場所まで案内してあげただろうか? きっと、自分にも予定があることを理由に、口で簡単に説明をしただけで終わったかもしれない。
どうしてヴァレンテ君が別室に連れていかれたのかが理解できた頃、食堂のドアが開き、べニアミーナちゃんとヴァレンテ君が戻って来た。どこかバツの悪そうな表情のヴァレンテ君だけど、決して卑屈なものではないので安心して、
「おかえり。【クリーン】」
お風呂に行かせずお仕事を頑張ってもらったヴァレンテ君に【クリーン】を掛ける。少しはさっぱりしたかな?
「クリーン魔法、すげぇ‥‥‥」
ポツリとこぼれた呟きで、彼が【クリーン】を気に入ったことがわかり安心する。
仕事の説明が済んだら、ゆっくりとお風呂に行ってもらっていいからね?
ヴァレンテ君が早くお風呂に行けるように! さっさと仕事の説明を始めることにする。
<組紐>の組み方は言葉にするよりも一緒に実践する方がわかりやすい。
1人1人に円盤と刺繍糸(もちろん、お手頃価格の方)を渡して、まずは円盤に糸を掛ける所から。糸を掛ける場所だけ指定するけど、掛ける糸の組み合わせは子供たちに任せた。
もちろん子供たちだけでなくミネルヴァさんにも覚えてもらう。ディアーナやルシアンさん、マッシモには子供たちがふざけて怪我などをしないように見守ってもらう係をお願いする。
注意点は二つだけ。
糸を掛ける場所と順番を守ることと、飽きてしまっても雑に作業を行わないこと。力の掛け方を均等にしてくれないと綺麗な模様にならないからね。
見守り隊の3人にハクとライムと私を加えて、子供たちの様子をゆっくりと観察する。
この作業が得意な子はもちろん、どうしたってこの作業に向かない子もきっといる。
この作業に向かない子、好きになれそうにない子には他の仕事を考えているからね。まずは1本組み上げてからだけど!
212
あなたにおすすめの小説
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】
本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。
Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited.
© 魯恒凛 / RoKourin
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる