女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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名声アップも楽じゃない 2

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 宿キャロ・ディ・ルーナに今起こっていること → 宿泊はひと月先まで、レストランが10日先までの予約で埋まっている。

 宿側の対策 → これまで通り、誠実にお客さまをおもてなしするだけ。予約を取れなかった人が、宿のお客さまに強引な交渉を持ち掛けないように目を光らせておく。



 ……考えてみれば、部屋やレストランが予約でいっぱいってことは問題でもなんでもない。むしろ宿からしたら嬉しいことだ。この調子でいくと、部屋の予約は3ヵ月先まで埋まりそうだと総支配人さんが幸せそうに教えてくれた。

 なので問題は、先ほどのように宿泊客に対して❝予約(部屋)を譲れ❞と無理を言う人と、これから出るであろう❝予約を取っておいて他の人に権利を売って稼ごう❞とする人たちの事。

 後者に対しては、予約時に前金を入れてもらった上で、宿泊予約リストに名前がない人の宿泊をお断りする(部屋の定員内であれば追加はOK)。予約の取り消しは5日前まで。それ以外の予約取り消しは前金を返金しない旨を周知徹底させることで対応するようだ。

 で、どうして宿の評価がここまで高まり予約が取れなくなったのか?

 理由の1つは<水>。

 レストランでは❝期間限定でお1人様1杯のみのご注文承り❞のお水は、宿だと(こちらも期間限定だけど)無料(部屋代に含まれる)で水差しに入った物がついてくる。追加で欲しい時には、1日1台のみだけど購入が可能。

 もう1つの理由が<料理>。

 高級宿の<キャロ・ディ・ルーナ>で、少し前まで❝家畜の餌❞と思われていた<米>を受け入れてもらうには時間がかかると判断して今回は見送りに。 その代わり、今あるメニューを改良して、野菜をたくさん使って香辛料を控えめにした料理の提供を始めた。

 ここでのポイントは、今までのメニューをそのまま残し改良メニューとして今までのメニューのお肉を控えめに、野菜を増やして香辛料を控えめにしたものを同じ料金で選べるようにしたことだ。

 お肉と香辛料を減らすことで、料理そのもののコストは削減される。だからといって料金を下げると、貴族や豪商、お金持ちのプライドが、今まで通りの高い方(香辛料の多い方)の料理を選ばせることが予測されたからだ。

 結果、❝同じ料理名でお肉と香辛料が少ないものがある。香辛料が少ないのに同じ料金なのには何か秘密があるはず!と気がついたお客さまが食べてくれるのを期待しよう❞作戦は、どうやら大うけしたらしい。

 手間暇かけても野菜は野菜。❝人前で安価なものを口にする=家名やプライドに傷がつく❞といった訳の分からない考えのもと、ひたすらに香辛料漬けの肉を好んでいた(ように見えていた)お金持ちたちの興味を引くことに成功。

 なかでもキーパーソンとなったのは、この街の領主夫人だった。

 婚約者である伯爵令嬢ロザリアちゃんとの親交を深める為に息子を連れてきた領主夫人は、お茶と共に出された(私のレシピで作った)生キャラメルをとても気に入って、夕食を宿のレストランで食べてから帰ることにしたらしい。

 もともとこの宿の料理を気に入っていた領主夫人は、今までのメニューに変化があることにすぐに気がついた。

 見慣れないメニューの詳細を料理長に尋ね、彼女が気に入った生キャラメルのレシピ開発者が開発したメニューであることを聞いて興味が増したところで、彼女のお気に入りのメニューもその開発者のアドバイスに従って改良したと言われて食べてみることを即決した。

 富の象徴であるお肉と香辛料を減らして貧の象徴である野菜を増やした一皿だったが、彼女に躊躇はなかった。一口、二口とゆっくりと咀嚼し……、あっという間に皿を空にして満足の吐息を吐くと、今度は新メニュー(私の登録レシピ)から料理長のお勧めを選び、幸せそうな笑顔で完食したそうだ。あくまでも優雅に、でもとてもスピーディーに。

 同席していた息子さん(ロザリアちゃんの婚約者)も、母親の食べっぷりに驚く暇もなくひたすらに自身の皿と向き合っていたらしい。「お母さま! お父さまとお姉さまの為に料理長を連れて帰りましょう!!」の一言は、レストランにいたお客さんのほとんどに聞こえるほどの声量だったと、総支配人さんが楽しそうに教えてくれた。

 料理を気に入ったのは良いけどね? いきなり料理長を引き抜かれたら宿が困るよ。

 良識のある領主夫人が息子を宥めて(とても残念そうな表情だったそうだ)、近いうちに家族揃って来ることを約束するのを聞いていた近くの席のお客さんたちが新バージョンや新メニューの注文を始め、それにつられるように、どんどんと新バージョンや新メニューの注文が増えたらしい。

 そうして次のキーパーソンとなるのが宿泊中だった老紳士。 前日に新バージョンのメニューを食べていた老紳士は、朝食の席で料理長を呼ぶと、

「今日は腹の調子がすこぶる良いのだ! 朝食には君のお勧めを出してくれ!」

 と言いながら、結構な額のチップを渡してくれたそうだ。 胃腸の弱っている年配の方のほうが、香辛料抑えめの料理の恩恵が大きいのは当然だよね。

 で、それを聞いていた他のお客さんも、当然のように同じメニューを求め……。彼らの評判を聞いた健康に気を遣うお金持ちの人たちがこぞって宿やレストランを予約してくれたらしい。

 そして、3つ目の理由。

 普段通りに丁寧に仕事を遂行していたスタッフさん達の素晴らしい接客が、お客さんたちの満足感を底上げしたこと。

 これら3つが<キャロ・ディ・ルーナ>の名声を高めることに貢献したそうだ。

 スタッフさん達の日々の努力が実を結んだのは素晴らしいことだよね! 

 2番手、3番手の宿のスタッフとは質が違うって改めて気がついたお客さんたちが、泊まるなら<キャロ・ディ・ルーナ>。食事をするなら<キャロ・ディ・ルーナのレストラン>と噂を広げてくれて、今の状況になったらしい。

 ということは、今が今後の為の正念場ってヤツだね!

 宿の皆さんには是非とも頑張ってもらいたい。 何か差し入れを考えておこうかな♪
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