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のんびりとした時間は長くは続かないようだ……。 4
しおりを挟む❝食中毒を起こした屋台に対する処罰をどうするか?❞
これが今回の問題のはずだった。
乱闘騒ぎに対しては、始めに手を出したのが被害者の関係者だったことから今回は❝喧嘩両成敗❞。なので、屋台側から食中毒被害者に対する謝罪の気持ち❝お見舞金❞の額などについての話になるハズだったんだけど。
(くちゃい…! アリス、この料理は傷んでるんじゃなくて腐っているのにゃ!)
ひっくり返されていた元・酸っぱい料理をクンクンしていたハクの一言で事態は深刻なものになった。
屋台の関係者自身の手で後始末をさせようと思って放っておいた元・酸っぱい料理。腐っていることを承知の上で販売していたのだとしたら、屋台側の責任は大きく変わってくる。
思わず眉間にしわを寄せた私に、
(それに、毒物も入っているのにゃ!)
ハクの衝撃の言葉が突き刺さった。
❝毒物の混入❞
それは明らかな悪意だ。毒物を混入していることをごまかす為に料理を腐らせたのか?という疑いと共に、どうして私の【診断】スキルでは毒物の混入がわからなかったのかと、【診断】スキルに対する不安が芽生えた。
でも、その不安は、
(食中毒の原因をアリスが知りたいと思ったなら、スキルは答えてくれたんじゃないかにゃ?)
ハクの見解であっさりと消える。
そういえばルシアンさんの足の治療の時もそうだった。あの時も最初の診断から掘り下げていって原因に辿り着いたのだから、今回も私が食中毒症状の原因をスキルで詳しく確認していたならわかったはずだ。
(毒物よりも腐った食べ物の毒性の方が強かっただけじゃないかにゃ?)
というハクの見解を私も支持する。 ビジューがくれたスキルを疑う前に、せっかくのスキルを使いこなす努力をするべきだった。
元・酸っぱい料理……、いや、ひっくり返された鍋とぶちまけられている毒物を前に反省している私がどう見えたのか、
「アリス、どうしたんだい?」
サブマスターが不審そうな顔で近づいて来た。後ろでディアーナも不安そうな表情をしている。
「うん……。コレね? 腐ってるんだ」
「? ああ。これだけの病人が出ているんだから、食った料理が腐っていたのは当然……。違うのかい?」
何を当たり前のことを?と言いたげだったサブマスターだったけど、すぐに私たちの様子がおかしいことに気が付いてくれた。
「うん。不注意で傷んでいたレベルじゃなくて、明らかに腐らせている感じ。その上で毒が混入されてる」
「「なんだってっ!?」」
私の今の【鑑定】スキルではコレに毒が混入されているかどうかはわからない。でも、私はハクの鼻を、ハクを信じて告発する。
私の告発は、サブマスターと私の様子がおかしいと気が付いて近づいてきていた衛兵部隊長さんの耳にも届いたようだ。重なった声の2人が一瞬だけ顔を見合わせると、
「この屋台の責任者をここへ!」
「屋台の関係者が逃げる恐れがある! 誰一人逃がすんじゃないよ!!」
すぐさま部下や仲間に指示を出した。
………疑いもせずにすぐさま反応してくれるんだ?
嬉しい気持ちと少しの疑問……、不安かな?を視線に乗せて2人を見ると、
「アリスがここで嘘を言う意味があるのかい? それにわたしは普段の言動を知っているんだ。今アリスを疑う必要なんかないだろ?」
サブマスターがおかしそうに笑い、
「私は君とはハジメマシテなんだが……。君が『アリスさん』だということはすぐにわかったよ。孤児院の側にある衛兵詰所の隊長は私の友人で、一緒に飲むと最近は君や従魔たちの話ばかりだ。楽しく聞かせてもらっていたよ。今回の君の言動はヤツから聞く話と相違なかったからね。疑うよりも信じることを選んだだけだ。
もちろん、君の発言が❝間違い❞かもしれない可能性も考えているから、そんな不安そうな表情をしないでくれ」
衛兵部隊長さんが優しく、でも少し困ったように微笑んだ。
……衛兵部隊長さんを❝素直過ぎる人かも❞と不安に思ったことは、バレバレだったようだ。
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