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治癒士ギルド 4
しおりを挟む「女神ビジューは、この世界とこの世界で懸命に生きる人々を愛しているの。ビジュー神はみんなを嫌ってなんかいない! みんなのことを等しく愛してる!」
「だったらどうして私の両親は殺されてしまったの?」
「だったらどうして俺の親は俺を捨てたんだ?」
「だったらどうしてわたしに意地悪をする人がいるの?」
「だったらどうして僕たちの誰も治癒士スキルを持っていないんだ? 治癒士スキルは女神の恩寵だって言われているんだぞ?」
私の目を通して子供たちの言葉に傷ついているかもしれないビジューの為、何よりもこの世界の唯一の神である❝創造神ビジューに嫌われている❞なんて悲しい誤解を子供たちにして欲しくなくて懸命に訴えたけど、色々なものを失くし、奪われながら人生を歩んで来た子供たちの心には何の影響もなかった。
皆がそれぞれに抱えている傷を疑問という形で私に見せるが、私は子供たちの薬になるような言葉を持っていない。だけど、
「あなたが捨てられたのは、ビジュー神があなたを嫌っているからじゃない。あなたの両親に、あなたを育てるだけの何かが足りなかったからよ。それが愛情なのか金銭なのかはわからないけど」
両親の愛情に恵まれなかった…、いや、愛情はあったかもしれないけど育てることを放棄された子に対して傷を抉るようなことを言っている自覚はある。でも、女神ビジューに否定されているとだけは思って欲しくなくて言葉を告ぐと、
「……残念だけど、あなたの両親は自分しか大事に思えない人たちだったからあなたを手放したの。でも、生まれたばかりのあなたを放置することなく孤児院へ、わたくしの元へ連れて来てくれたことは、わずかだけれど彼らに芽生えたあなたへの愛情だったのだと私は思っていますよ。たとえ一欠けらだったとしても、確かにそこには愛があったのだと」
彼の事情を知っている院長先生が言葉を補ってくれた。決して優しい内容ではないけれど、それが確かな真実なのだと思う。
真実は人を癒すばかりではなく、新たな傷を与えることがある。彼は今にも泣き出しそうな顔で俯いたけど、
「わたしがここに連れてこられた時、院長先生はとても優しくしてくれたけど私だけのお母さんじゃないからとても寂しかった……。でも、私が泣くとお兄ちゃんがずっと手を握ってくれていたから、お兄ちゃんがいたから寂しくなくなったの。
……わたし、お兄ちゃんのお父さんとお母さんに、ありがとうって言う!」
彼のシャツの裾を握っていた少女が泣きそうな顔で笑うと、彼はハッとしたように、
「俺もおまえが、おまえたちがいたから寂しくなんかなかったぞ」
少女や、彼を心配そうに見ている子たちの頭を優しく撫でながら笑って見せた。失ったものばかりではなく、それによって得たものの大切さを噛みしめているようだ。だから私は言葉を続ける。
「【治癒スキル】はビジューの恩寵の結果じゃないよ。 今の教会、治癒士ギルドの在り方を女神ビジューは喜んではいないと思う。あんなに自分勝手で傲慢な人たちをビジューは決して特別に愛したりしない!」
と思う。ビジューに直接聞いたわけじゃないけどね。私が友達になりたいと思ったあの女神なら、決して彼らを寵愛したりしないと思うんだ。
だったらどうして彼らは治癒士スキルという有益なスキルを持っているのか?なんだけど……。それは一言❝運❞としか言いようがないよね? 残念だけど私は詳しく説明できるだけの情報を持っていない。でも、
「あのね? 女神ビジューはこの世界を創造した素晴らしい女神さまだけど、全てにおいて万能じゃあないんだ。この世界とこの世界で懸命に生きる人々を愛しているんだけど、女神としての力が強すぎて、この世界には簡単に干渉できないの。だからビジュー神にできるのは、自分の手を離れて成長を続けるこの世界と人々の営みを見て愛でたり悲しんだりするだけ……。
みんなにはとても残念なことかもしれないけど、女神の領分と人の領分は違っているんだよ……」
私の知っている女神ビジューの話をする。みんなには女神の何を知ったかぶりしてるんだと思われる覚悟をしていたんだけど、
「女神さまは何でもできるんじゃないの?」
「うん。何でもできる神力はあるんだけど、力の反動が強すぎて何もできないの」
「力があるのに何もできないなんて、不便ね」
「僕たちを見てるの?」
「うん。懸命に生きている人たちを見て愛おしんでいるの。懸命に生きているのに不遇な人を見たら悲しいんだけど、何もしてあげられないから余計に悲しくて嘆いているんだよ」
「そっか。僕たちのことをちゃんと見てるんだぁ……」
「女神の寵愛があるから治癒士の奴らはあんなに偉そうにしてるんじゃなかったのか? 教会の奴らは『ご信託が降りた』と言っては金を集めてその金で贅沢してるんだぞ?」
「ビジュー神があんなヤツらを寵愛するわけがないじゃない? 【治癒スキル】を持ってるのはただヤツらの運が良かっただけだよ。 第一、教会や治癒士ギルドに所属している人たちだけが贅沢をするための神託って何よ? 彼らが贅沢をすることでビジュー神にどんなメリットがあるっていうの?」
「寵愛を授けたヤツらが贅沢をすることを喜んでるんだと思ってたんだが……。違うのか?」
「違うわよ。何なら教会を破壊したって神罰なんて降りないくらいにはヤツらに対する寵愛なんて存在しないわよ」
子供たちやイザックたち大人組まで私の話を聞いて何かを感じてくれている。
ビジューの心の内を代弁できるだけの何を知っているのかと自分でも思うんだけど、私の話を大人しく聞いては、コクコクと頷いたり満足そうに笑っているハクを見て安心していた。
<神獣>のお墨付きなら、大きく間違ったことは言っていないハズ。
だから、
「おばあちゃんは、悪い事をすると女神さまに嫌われるって教えてくれるけど、私たちを見ているだけで何にもしてくれない女神さまに嫌われたって怖くないね!」
と笑う少女に対して、自信を持って断言する。
「私たちが生きている間はビジュー神は見ているだけだけどね? 死んだらその後はビジュー神の領域だよ? ビジュー神に嫌われたら次に生まれ変わってくるまでの時間がいっぱいかかっちゃうかもしれないし、悪い事をしたことを見られていたら、すっごくすっごく叱られちゃうかもしれないけど大丈夫かな?
とってもとっても美しくて優しいビジュー神に嫌われるなんて、私なら泣いちゃうくらいに悲しいんだけど……」
「綺麗なの?」
「うん。夢みたいに綺麗な女神さまだよ」
「怒ると怖い?」
「怒った所を見たことがないからわからないんだけど……。神力とか使い放題の世界で怒られるのはすっごく怖い気がするよね」
「僕(俺・私)たち悪い事しないし、頑張って大人になったら一生懸命に生きるよ! そうしたら綺麗な女神さまは優しくしてくれるんだよね!?」
素直な子供たちは私の話に納得してくれて❝悪い事をしない・一生懸命に生きる❞ことを約束してくれる。
でも、素直でない大人たちは、
「アリスさまはビジュー神と面識がおありで……? もしや、いや、やはりアリスさまは❝聖女さま❞だったのですね!!?」
「そうだよなぁ。アリスのどこかぶっ壊れ気味のスキルは女神の寵愛の印だよな。うん、アリスなら女神の寵愛を受けていてもおかしくないって言うか、受けていない方がおかしいよな!」
ちょっとおかしなことを言い出した……。
ヤメテクダサイ。ワタシハセイジョニナンテナリマセン。
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