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治癒士ギルド 3
しおりを挟む「ま、まだ途中だから……!」
そう言って背中に隠そうとするヴァレンテ君の手から、ライムがひょいと女性の像を取り上げて私に渡してくれる。
うん、近くで見てもやっぱり私に似ている。というか、像の服がビジューが創ってくれた着物ドレスとそっくり同じだから、この像は私に違いない。
女神像をお願いしたのに、どうして私の木像になっているのか。という疑問の声は、
「へえ、ヴァレンテはやっぱり器用だな? アリスさんにそっくりじゃないか!」
急いで駆けつけてくれた衛兵部隊長さんの声で搔き消された。ルシアンさんが隊長さんだけを招き入れたらしく、マップで確認すると家の周りに何人かの衛兵さん達が立ってくれていた。
確かにマッシモが詰所に声を掛けると言っていたけど、たかが治癒士ギルドの勧誘を断るのに衛兵さん達まで来てくれるなんて思わなかったな。なんて言うか、現代日本でいう❝民事不介入❞をイメージしていたから、こうしてわざわざ駆け付けてくれると本当にありがたく思う。
隊長さんに木像を褒められたヴァレンテはとても嬉しそうに、クリスピーノ君とベニアミーナちゃんはどこか誇らしそうに笑っているので、やっと私も気が付いた。
そうか。これは❝習作❞なんだ。
いきなりビジュー神を彫るのは勇気がいるから、とりあえず私の姿で練習してみたんだね。と納得していると、
「てめぇは他人様の家の門の前を塞ぎやがって何様のつもりだ!? とっととそこをどきやがれっ!」
野太い怒鳴り声が聞こえた。
いつも聞いていた声よりもずっと頼もしく響く声は、自分の声に対する返事が聞こえないことを不審がっていたが、
「アリスの物理障壁と遮音結界だろう」
「ああ、いつかのあれか。アリスは相変わらず器用だな」
すぐに理由を理解すると家の中に入ってきた。器用なのはハクなんだけどね?
「子供たちはみんな揃っているな? ギルドと宿の関係者以外にアリスと親しいヤツらはいるか?」
「マッシモの家族もここに匿うことになっている。他にアリスが気に掛けているヤツはいるか?」
部屋に入って来たギルマスとイザックの第一声は挨拶ではなく、私の交友関係の確認、いわゆる❝人質❞になりそうな人の確認だった。
2人が挙げた人たち意外との交流はほとんどないので大丈夫だと答えると、ほっと緊張を和らげた2人の視線が、ライムの持っている木像に止まり、
「へえ、アリスの木像か。いい出来じゃねぇか。どうするんだ? 王家にでも献上するのか?」
「あ? なんで王家なんだ? ここの子供たちの玩具じゃないのか?」
「アリスは王家にも大人気だからな。売ると良い金になるぞ」
なんて言い出すから思わず笑ってしまう。
王家と言えばモレーノお父さまとそのお兄さんの王さまだけど、2人が私の木像を欲しがるとは思えない。場数を踏んでいる2人が子供たちを和まそうとしているのがわかってさすがだな。と思っていると、
「売らないよ! これはあたしたちの大切な女神さまなの!」
不服そうな、拗ねたような声の子供の声がした。
「それが女神…? ああ、そうか。なるほどな。わかった! 王家には内緒にしててやるから大切にしろよ」
イザックが子供に合わせて笑ってあげていると、
「おや、なかなかいい出来の木像ですな! 一体15万メレでどうでしょう? ああ、材質によってはもう少し頑張りますよ?」
「いえ、それは誰よりも欲しがるだろうお方の為に私が購入しましょう。30万メレでどうです?」
商業ギルドマスターとラファエルさんが息を切らして部屋に入って来た。と思ったら、いきなり買い取り交渉を始める。
ラファエルさんはもしかするとモレーノお父さまに売りつけようと目論んでいるのかもしれないけど(そんなのお父さまが欲しがるとは思わないけど)、ネストレさんは何のつもりなのか。
「だめだよっ! これは僕たちの女神さまなんだから!」
さっきとは違う子が怒るように大声を上げると、
「女神…? ああ、これはすまないことを言いました。では、この女神像はどこで手に入るか教えてくれるかい?」
さっさと仕入れ先の確認に入ってしまう。いや、私は肖像権を主張する。勝手に私の像を売りさばかせたりしないよ?
だからヴァレンテ君? 君はそんなに嬉しそうな顔をしないの!
それにしても、気になるのは………。 その木像を子供たちが女神像って呼ぶことだよね?
……どういうことか、誰か説明してくれるかなぁ?
応援ありがとうございます!
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