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治癒士ギルド 静かではない戦い 3
しおりを挟むハクの張ってくれる結界は物理攻撃や魔法を防ぐだけでなく、防音も防塵も可能な優れものなんだけど、今回は音が聞こえた方が都合が良いので防塵だけを追加してもらった。おやつ中に埃が舞うのは遠慮したいからね。
だから、
「このっ、神を恐れぬ慮外者めっ!! 女神の怒りに触れるが良い!」
「あ? ビジュー神が子供を誘拐してアリスを搾取の対象にしろっておまえらに言ったってか? んな訳ねぇだろ!!」
❝ドカッ!!❞
だの、
「わ、わたしは無関係よ! 子供の誘拐なんて知らないわ」
「だったら裁判でそう訴えると良い。裁判官や水晶が認めたならすぐに保釈されるさ。おいっ、この女も連れていけ!」
「ハッ! ほら、さっさと歩け!」
だの、
「わしたちにこのような真似をして、今後、街の連中に何かあったらどうするつもりだ? 困るのはそちたちであろう!?
ほれ、己の立場がわかったならさっさと縄を解いて誠心誠意詫びるがよいぞ。今なら地に頭を擦りつけ、中銀貨を5枚も差し出せば許してやる。わしは寛大だからな!」
「治癒士不在の間は優秀な薬師たちに頑張ってもらいましょう。なに、今ならポーション類のストックも薬草類もストックもたっぷりとありますから心配はいりません。それに王都の治癒士ギルドから何名か派遣されるとか?」
「ああ。ギルドマスターからそのように連絡が入ったので、恥を忍んで受けさせてもらった。これ以上民を不安にさせる訳にはいかんからな」
と言った会話が当然聞こえてくる。
大人たちの怒号に最初は怯えていた兄妹だけど、結界内が安全だと言うことを思い出すと興味津々で周りを観察しはじめ、教会&治癒士ギルド員たちのあまりの見苦しさに、
「……あいつら、あんなに偉そうにしてたのに、ちっとも偉くなかったんだな」
スプーンを銜えたままのおにいちゃんがポツリと呟き、
「うん、ちっともこわくないね!」
ゼリーを鼻の頭に付けたままの妹ちゃんが、嬉しそうに笑った。
屈託のない笑顔を見て、今回のことが彼らのトラウマとして刻まれることはなさそうだと安心し、わたし達も一緒に笑った。
しばらくすると喧騒も止み、
「アリス。もう出て来ても良いぞ」
おいしくクッキーを摘んでいる私たちに、呆れたような声が掛かった。
ハクが結界を解くと同時に私の背中が軽く突かれ、
「アリス、俺も腹が減ったんだ。クッキーを一袋分売ってくれ!」
振り向くとイザックが小銀貨(1万メレ)を片手に笑っていた。
間髪置かずに商業ギルドマスターや冒険者ギルドマスターも同じように小銀貨を取り出し、それを見た衛兵部隊長さんが「仕事中でなかったら……っ」と悔しそうに3人を睨むので、
「お金なんていらないから、集まってくれた人たちにこれを配ってくれる? ささやかなお礼の気持ちだからみんなで食べてね」
インベントリからお菓子入りのバスケットを取り出す。 クッキーだけでなく生キャラメルなどの摘まみやすいお菓子なので、みんなの邪魔にはならないハズ。
ハクとライムは早速バスケットに寄って行って自分用にお菓子を取ってもらっているので、今回はこれで良いみたい。
(全部出しちゃダメにゃよ?)
とだけ言われたので、【複製】用の分はしっかりと確保しておく。
……もう少しで全部出すところだったって言ったら、やっぱり怒られるよね? 黙っておこう……。
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