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ミネルヴァ家 家族会議 3
しおりを挟む入室して来た大人たちがそれぞれに自己紹介をしてくれる。
子供たちに続いて一番最初に入って来た男性は、小さな水晶を手にした裁判官さん。
次に入って来た厳格そうな雰囲気の男性は商業ギルドが絡む契約関係を担当する部署の職員さん。
最後にこの家の近くにある衛兵詰所の部隊長さんが入ってきた。
部隊長さんが軽く手を上げて挨拶をしてくれるのに、私も軽く手を振って応えながら(なんで今この取り合わせが?)と内心で首を傾げてしまう。
孤児を正式に引き取るためには難しい手続きが必要で、この人たち全員が必要なのかな?と当たりを付けてみたけど、
「子供たちを養子に迎えていただけることを深く感謝いたします。
……実はこのたびお選びいただいた2人はアリスさんと雇用契約を結んでいる子たちなので、貴家にお迎えいただくに為には雇用契約の解除、契約解除に伴い、アリスさんの元で培った知識や業務に関する全てに対しての❝沈黙の誓い❞を立てる必要がございます。こちらの方たちはその為にお越しいただきました」
ミネルヴァさんが男性に説明するのを聞いて、そうではないことがわかった。
この3人は、私を守る為にミネルヴァさんが呼んでくれた人たちだ。
引き取りたいと申し出のあった2人は、幼くても<組紐>制作に関わっている子供たち。
組紐作りはプレートと材料さえあれば簡単にできるし、プレート自体も複雑なものではないので、現物を知っている子供たちから話を聞けば簡単に作製することができる。
<組紐>に関しては商業ギルドで<占有登録>をしているので、占有期間内に他の誰かが制作したとしても大っぴらに流通させることはできない。だけど、どこにだって❝抜け道❞は存在する。こっそりと利益を得る事が可能なのだ。
もちろん、❝嫡子を支える為に親のいない子供たちを家族として引き取りたい❞だけの男性には関係のない話で…………。関係のない話だと思っていたんだけど………。
焦りを無理やりに抑え込んだような笑顔で、
「沈黙の誓いなど……! そうだ! あれは誓いを立てる際に痛みを伴うと聞いている! あんなに小さい子供たちにそのような辛い思いをさせる必要などないでしょう!? ❝秘密❞だと言っておけばいいことで……」
と言うのを見て、ちょっとだけ見方を変える。
言っていることは確かに正しいんだけどね? 子供たちに痛い思いをさせるのはかわいそうだと私も思うし。
でも、何かが違うんだよね。この人の焦ったような、不愉快さを押し隠しているような雰囲気は。
どうやって真意を探ろうかと思っていると、商業ギルドから来てくれた契約担当の職員さんが、
「こちらの子供たちは、私共のギルドを通してアリスさまと❝雇用契約❞を結んでいるのです。子供たちを相手にわざわざ❝契約❞を交わしていた意味をお考えいただきたい。<沈黙の誓い>で子供たちに痛い思いをさせるのは可哀想だと私も思いますが、こちらの家の子供たちはそうしなければならないほど、アリスさまの商売にとって重要な仕事に携わっているのです。
大丈夫です。アリスさまと関わりのあることを全て秘匿したとしても、あなたの家の商売を手伝うのには何の不都合も生じないようにきちんと配慮した形での誓いを立てられるように原稿をお作りしますよ」
とても丁寧に状況を説明してくれる。
男性の家の不利益にはならないようにきちんと配慮するって言ってくれているし、安心してくれるかな?
と思いながら男性を見ると、表情が先ほどよりも強張ってて……。
もしかして?と疑いを深めた瞬間だった。
「あの子たちなら美味しいごはんと甘い言葉で手懐けるのは簡単だと思ったんでしょ? おじさんの見込みは当たってるよ。あの子たちは幼くて良い事と悪い事の区別がついていないからね。自分の欲求を満たしてくれる人=いい人って信じ込むくらいにはまだまだおバカさんだし?」
大人たちを連れてきてくれた、年長の子の1人が皮肉気に笑って口を開いた。……なかなかに辛辣な物言いに驚いて思わずミネルヴァさんに視線を移すと、ミネルヴァさんは少しだけ悲しそうに男性を見つめてからゆっくりと目を閉じて、
「アリスさんの扱う商品に関する情報を欲する人はいくらでもいるでしょう。幼い2人を守る為にも<沈黙の誓い>は絶対に必要なのです。それとも、アリスさんに関する情報を引き出せない子供は不要、ですか?」
目を開くと毅然とした態度で男性に向き合った。
男性が強張らせた表情のまま沈黙を守っていると、
「おっさん! 金になる情報を引き出せない孤児になんて、何の興味も用もないって正直に吐いてさっさと逃げたらどうだ?」
もう一人の年長の子が、いかにもバカにしたように男性に声をかけて部屋の扉を蹴り開けた。
残念なことに男性の表情から答えがわかってしまった私は、せめて、この子たちが傷つかないように、上手な言い訳をしてから出て行って欲しいと祈ったんだけど……。
男性は舌打ちを1つだけ残してさっさと部屋から出て行ってしまった。テーブルに置いていた中銀貨6枚を引っ掴んで。
重い沈黙が降りた部屋の中、やるせない気分をなんとか立て直してミネルヴァさんや子供たちに声を掛けようと言葉を探していると、
❝❝❝パン!パン!パン!パン!❞❞❞
「ふふふっ! これは見事な!」
「ええ、ええ。気分がいいですね~」
「あっはっは! さすがミネルヴァ! おまえたちも良くやったぞ! 偉かったな!」
3人の男性の愉快そうな笑い声と拍手が部屋を満たす。
それに応えるのはミネルヴァさんの深いため息と、
「あったりまえだよ! あんな下心見え見えの奴に、俺たちの弟妹をくれてやるもんか!」
「ああ。まだまだガキでおバカな弟妹だけど、あんなゲス野郎にはもったいない!」
「今のあたし達に中途半端な養い親なんて必要ないしね! ミネルヴァ母さんの愛情とアリスさんのくれる仕事があれば十分以上よ!」
子供たちの満足そうな笑い声。
……子供たちが傷ついているんじゃないかと心配したんだけど、そうでもない、のかな?
ミネルヴァさんも安心したように笑って子供たちを順番に抱きしめては頭をなでなでしているし、もしかして、なんとな~く、一件落着、ってヤツ?
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