女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
606 / 754

ミネルヴァ家 家族会議 3

しおりを挟む






 入室して来た大人たちがそれぞれに自己紹介をしてくれる。

 子供たちに続いて一番最初に入って来た男性は、小さな水晶を手にした裁判官さん。

 次に入って来た厳格そうな雰囲気の男性は商業ギルドが絡む契約関係を担当する部署の職員さん。

 最後にこの家の近くにある衛兵詰所の部隊長さんが入ってきた。

 部隊長さんが軽く手を上げて挨拶をしてくれるのに、私も軽く手を振って応えながら(なんで今この取り合わせが?)と内心で首を傾げてしまう。

 孤児を正式に引き取るためには難しい手続きが必要で、この人たち全員が必要なのかな?と当たりを付けてみたけど、

「子供たちを養子に迎えていただけることを深く感謝いたします。
 ……実はこのたびお選びいただいた2人はアリスさんと雇用契約を結んでいる子たちなので、貴家にお迎えいただくに為には雇用契約の解除、契約解除に伴い、アリスさんの元で培った知識や業務に関する全てに対しての❝沈黙の誓い❞を立てる必要がございます。こちらの方たちはその為にお越しいただきました」

 ミネルヴァさんが男性に説明するのを聞いて、そうではないことがわかった。

 この3人は、私を守る為にミネルヴァさんが呼んでくれた人たちだ。

 引き取りたいと申し出のあった2人は、幼くても<組紐>制作に関わっている子供たち。

 組紐作りはプレートと材料さえあれば簡単にできるし、プレート自体も複雑なものではないので、現物を知っている子供たちから話を聞けば簡単に作製することができる。

<組紐>に関しては商業ギルドで<占有登録>をしているので、占有期間内に他の誰かが制作したとしても大っぴらに流通させることはできない。だけど、どこにだって❝抜け道❞は存在する。こっそりと利益を得る事が可能なのだ。

 もちろん、❝嫡子を支える為に親のいない子供たちを家族として引き取りたい❞だけの男性には関係のない話で…………。関係のない話だと思っていたんだけど………。

 焦りを無理やりに抑え込んだような笑顔で、

「沈黙の誓いなど……! そうだ! あれは誓いを立てる際に痛みを伴うと聞いている! あんなに小さい子供たちにそのような辛い思いをさせる必要などないでしょう!? ❝秘密❞だと言っておけばいいことで……」

 と言うのを見て、ちょっとだけ見方を変える。

 言っていることは確かに正しいんだけどね? 子供たちに痛い思いをさせるのはかわいそうだと私も思うし。

 でも、何かが違うんだよね。この人の焦ったような、不愉快さを押し隠しているような雰囲気は。

 どうやって真意を探ろうかと思っていると、商業ギルドから来てくれた契約担当の職員さんが、

「こちらの子供たちは、私共のギルドを通してアリスさまと❝雇用契約❞を結んでいるのです。子供たちを相手にわざわざ❝契約❞を交わしていた意味をお考えいただきたい。<沈黙の誓い>で子供たちに痛い思いをさせるのは可哀想だと私も思いますが、こちらの家の子供たちはそうしなければならないほど、アリスさまの商売にとって重要な仕事に携わっているのです。
 大丈夫です。アリスさまと関わりのあることを全て秘匿したとしても、あなたの家の商売を手伝うのには何の不都合も生じないようにきちんと配慮した形での誓いを立てられるように原稿をお作りしますよ」

 とても丁寧に状況を説明してくれる。

 男性の家の不利益にはならないようにきちんと配慮するって言ってくれているし、安心してくれるかな?

 と思いながら男性を見ると、表情が先ほどよりも強張ってて……。

 もしかして?と疑いを深めた瞬間だった。

「あの子たちなら美味しいごはんと甘い言葉で手懐けるのは簡単だと思ったんでしょ? おじさんの見込みは当たってるよ。あの子たちは幼くて良い事と悪い事の区別がついていないからね。自分の欲求を満たしてくれる人=いい人って信じ込むくらいにはまだまだおバカさんだし?」

 大人たちを連れてきてくれた、年長の子の1人が皮肉気に笑って口を開いた。……なかなかに辛辣な物言いに驚いて思わずミネルヴァさんに視線を移すと、ミネルヴァさんは少しだけ悲しそうに男性を見つめてからゆっくりと目を閉じて、

「アリスさんの扱う商品に関する情報を欲する人はいくらでもいるでしょう。幼い2人を守る為にも<沈黙の誓い>は絶対に必要なのです。それとも、アリスさんに関する情報を引き出せない子供は不要、ですか?」

 目を開くと毅然とした態度で男性に向き合った。

 男性が強張らせた表情のまま沈黙を守っていると、

「おっさん! 金になる情報を引き出せない孤児になんて、何の興味も用もないって正直に吐いてさっさと逃げたらどうだ?」

 もう一人の年長の子が、いかにもバカにしたように男性に声をかけて部屋の扉を蹴り開けた。

 残念なことに男性の表情から答えがわかってしまった私は、せめて、この子たちが傷つかないように、上手な言い訳をしてから出て行って欲しいと祈ったんだけど……。

 男性は舌打ちを1つだけ残してさっさと部屋から出て行ってしまった。テーブルに置いていた中銀貨6枚を引っ掴んで。

 重い沈黙が降りた部屋の中、やるせない気分をなんとか立て直してミネルヴァさんや子供たちに声を掛けようと言葉を探していると、

 ❝❝❝パン!パン!パン!パン!❞❞❞

「ふふふっ! これは見事な!」
「ええ、ええ。気分がいいですね~」
「あっはっは! さすがミネルヴァ! おまえたちも良くやったぞ! 偉かったな!」

 3人の男性の愉快そうな笑い声と拍手が部屋を満たす。

 それに応えるのはミネルヴァさんの深いため息と、

「あったりまえだよ! あんな下心見え見えの奴に、俺たちの弟妹きょうだいをくれてやるもんか!」
「ああ。まだまだガキでおバカな弟妹だけど、あんなゲス野郎にはもったいない!」
「今のあたし達に中途半端な養い親なんて必要ないしね! ミネルヴァ母さんの愛情とアリスさんのくれる仕事があれば十分以上よ!」

 子供たちの満足そうな笑い声。

 ……子供たちが傷ついているんじゃないかと心配したんだけど、そうでもない、のかな?

 ミネルヴァさんも安心したように笑って子供たちを順番に抱きしめては頭をなでなでしているし、もしかして、なんとな~く、一件落着、ってヤツ?
しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...