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お引越し準備 4
しおりを挟む「ハンモックって貴族の子供たちがたまに昼寝に使うアレだよな? 木と木の間に引っかけた布の上で寝る……。依頼で貴族の家に行った時に庭で使っているのを見たことがあるが、子供が寝ている間ずっと専門の子守が落ちないように見張…見守っていたぞ。危険じゃないのか? それに体重を掛けても破れない布はそれなりの厚みと重さになるから荷物になるが……。アリスのアイテムボックスに入れるのか?」
アルバロの言葉で、この世界にもハンモックは存在するがあまり一般的なものではないことが分かった。
お金持ちの子供たちが昼寝に使う、贅沢品と見なされてるらしい。
荷物は……、全て私のインベントリに入れて運ぶことはもちろん可能。でも、それだと、
「あ~……、アリスにはわかりにくい感覚かもしれんが……。今回は村への移住だろ? だったら道中はあまり快適じゃない方が良いぞ」
アルバロの指摘通り、この世界の❝お引越し❞の旅としては各段に楽ちんな旅になるだろう。
もちろん、普通の旅なら不便な思いをするよりも快適な方が良いに決まってる。でも、今回は街から村へのお引越し。色々と不便なことのある村に着いた子供たちが「こんなはずじゃなかった」なんて思わなくても良いように、旅の間にある程度の覚悟を決めてもらいたい。
その為には道中ある程度の❝不便❞が必要だと事前にマルゴさんから言われていたんだ。王都から村への引っ越しを経験済みのマルゴさんのアドバイスだから、しっかりと頭に残ってる。
だから子供たちの体調管理の為の休憩や食事などには気を使うけど、それ以外は少し窮屈な馬車の旅を味わってもらうつもりだと説明すると、みんな普通に頷いてくれたんだけど……。うちの仔たちとアルバロとマルタだけはなんだか心配そうな表情を浮かべて私を見る。
……もしかして信用されていないのかな? おかしいね?
なんだかいじけたい気分になったけど、まあ、とりあえず! 今はハンモックの説明だ。
まずはハンモックの材料を見てもらおうと、後ろを向いて自分の髪飾りをみんなに見せる。
「? 珍しい髪飾りだな? アリスに良く似合っているぞ!」
「うんうん! 綺麗な飾りだ。アリスちゃん、可愛いぞ♪」
私が組んだ組紐の髪飾りは冒険者たちの目から見ても悪くないらしく、私は少し鼻高々だけど、違う。そうじゃない。見て欲しいのは、
「この紐を使うんだよ」
組紐の細さ&軽さと強度だ。
髪飾りを崩すのは勿体ないので、インベントリからただの紐状の組紐を取り出して隣にいたマルタに渡す。
「うわぁ! 大人しい色合いだけどこれも綺麗っ!」
うん、褒めてくれてありがとう! でも見て欲しいのは柄じゃなくて、強度。
マルタの手から組紐を返してもらって両手で引っ張りながら、この紐を簡単に編んで子供たちの体重を支えることを説明する。
「いくら子供の体重でも、こんなに細い紐で体重を支えられるわけがないぞ!? すぐに切れちまう!」
とみんなは不安顔だけど、
「じゃあ、試しにぶら下がってみる?」
体験してもらえばわかるハズ! そう思ってギルド内で組紐を結べる所を探してみたけど、ぶら下がれるような高さの所に突起はない。
仕方がないのでギルドの庭に出て、ちょうどいい高さの木を見つけた。
組紐の片方を輪っかになるように縛ったら、もう片方を太めの枝の根元に縛り付ける。その上で、
「じゃあ、バルさん。やってみよう!」
「あ? なんで俺なんだ!?」
体の大きなバルさんを指名する。子供たちの何倍も重たい体重を支えてこそ、安全性を確かめられるんだから、ここは頑張ってぶら下がって欲しい。
枝の高さと紐の長さで、ぶら下がる輪っかの位置は少し低めになってしまった。それを見てバルさんは諦めたようにため息を吐くと、輪っかに手首を通してから紐を握り膝を曲げていく。そして自分の腕が伸び切った所でゆっくりと腕に力を入れて、自分の体重を支え出した。
膝が深く曲がり、それに伴ってつま先が浮いていく様子をじっくりと観察していると、通りすがりの人たちがギャラリーに混ざって来た。……暇な人たちがいるもんだね。その中にバルさんの知り合いの冒険者がいたようで、
「おい、バルトロメーオ? おまえのそのデカい体は何でできてるんだ? 随分と軽いようだなぁ」
なんて言ってバルさんを揶揄っている。
でも、揶揄われている当人はそれどころではないようで、
「……なんで切れないんだ?」
不思議そうに自分と木をつなぐ紐を見つめていた。
これは組紐が子供たちの体重を一晩支えられるかどうかの耐久テストだから、すぐに終わっては意味がない。
バルさんの腕が持つ間はぶら下がっていてもらおうと思っていたんだけど……。
終わりの瞬間はあっけなく訪れた。
「おっと! 危ねぇ!」
ミシミシという音が聞こえたと思ったら、枝が根本から折れてしまったのだ。……バルさんの体重を支えるには細すぎたらしい。
でも、組紐は大丈夫! 切れていない。
子供たちが組んでいる組紐のままだったらもしかすると切れていたかもしれないが、実はこの紐には芋虫型で糸を吐く魔物の糸を混ぜて耐久度をアップさせているんだ。
盗賊たちを生け捕りにした時に縛る紐にするための工夫が、こんな所で役に立った。
短時間ではあるけど、見事にバルさんの体重を支え切った組紐に護衛組たちの視線は釘付けだ。バルさんなんか、
「すげぇよ、この紐! アリスちゃん! 俺、この紐欲しい!!」
子供がぬいぐるみを胸に抱くように、組紐を大事そうに胸に抱いている。
バルさんのような大男が、なんだかちょっとだけ可愛く見えるから不思議だね? 実験に参加してくれたお礼にプレゼントすると伝えると、
「「「「「バルトロメーオだけずるいっ!」」」」」
ブーイングが起こったけど、気にしない。だって、ヴェルの糸を混ぜた組紐はバルさんにあげた1本だけだったからね。お試しで作った分だったから、これから暇を見つけて量産するつもりだったんだ。
ギャラリーの目も気になったから、取り合えず話の続きをするために酒場に戻ることにした。
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