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お引越し準備 5
しおりを挟む椅子に座ったみんなは、バルさんの持つ組紐に興味津々だ。
この紐でどうやってハンモックを作るのか、早く聞きたくてうずうずしてるんだけど、……実はとても困ったことに気が付いてしまった。
私が知っているハンモックの作り方は、何本もロープを結んで作る方法。
そこで今更ながらに気が付いたのは……、何本ものロープを使って作るハンモックも、丈夫な布で作るハンモックと変わりなく荷物になるということだ。
始めは、日々みんなが組んでいる組紐をハンモックが編める長さで組んでもらってそれを持って行き、昼間は大きい子たちの寝袋などをまとめる紐に使っておいて、夜寝る前にチャチャっとハンモックにしてしまえばいいと安易に考えていたんだけど、紐をハンモックにする時間とハンモックを紐に戻す時間が大いに無駄なんだよね。旅の間は。移動中に、とも考えたけど、揺れる馬車の中での作業で紐同士が絡んでほどけなくなったら面倒だし……。
考えが甘かったと反省しながらどうしたものかと考えていると、
「なあなあ、アリスちゃん! この紐を使って、どうやってハンモックを作るんだ?」
バルさんが無邪気に私を追い詰める。
うん…、もう、仕方がないよね?
私は素直に自分の考えの甘さを告白してハンモック案を取り下げようとしたんだけど、
「今回の旅には使えなくても俺たちが野営をするのには使えるかもしれん。地面に直接寝るよりも、毒虫に狙われる危険は減るだろう? アリスがどんなものを想像していたかだけでも教えてくれ」
アルバロに是非にと言われて、簡単に説明することになった。
と言っても今は本格的にハンモック作りをする時間はない。子供たちが十分に睡眠を取るために、次の案を考える必要があるからね。
少しだけ考えて、今は雰囲気だけで許してもらうことにした。
インベントリから組紐用の糸を取り出して縒り合せてから端と端を結んで輪っかにする。それを両手の指を使って引っかけたり外したりを繰り返し、ひとつの形を作り出した。
地球では世界中で自然発生し、いろんな形で発展を遂げた❝あやとり❞だ。私が作ったのはその中の形の一つの❝六段はしご❞。ハンモックにしては随分簡易な形になってしまっているけど、おおよその雰囲気はわかって貰えるだろうとみんなの顔を見てみると、
「「「「「……………」」」」」
………大きく開かれた目。ぽかんと開いたままだったり、出来上がっているはしごを指差してパクパクと開いたリ閉じたりを繰り返している口。
その様子を見て、なんとなぁく感じる嫌な予感。この予感は、
「え? 何だ? 何をどうしたらそうなるんだ!? もう一回! もう一回見せてくれ!!」
「すげぇ! 一本の紐でハンモックが出来ちまった! それもこんなに一瞬で!?」
言葉を取り戻したらしい冒険者さんの叫ぶように大きな声での要望と、
「………まだよね?」
「………まだだろうな」
「アリスだもんね……」
「アリスだからな……」
何やらぼそぼそと2人だけで会話を交わしたと思ったら、大きな大きなため息を吐いた後に頷き合い、私の両肩をそれぞれにポンと叩いたアルバロとマルタの強い視線を受けた時に確信に変わった。
だって、見覚えがあるんだもん。この表情。きっと次に来るのは、
「ギルドに行くぞ」
……だと思ったよ。
だけど、少しだけ待って欲しい。
<あやとり>を登録しに行くのはなんとなくわかるんだ。これは<折り紙>同様に❝ちょっと珍しい❞ものだから。隙間時間の手遊びに、ちょっとした子供の遊びにと覚えたがる人もいるだろう。
でもこれを、❝六段はしご❞を❝縄や紐で作るハンモックとして登録するのはおかしいよ! だって、見たらわかるでしょ? 編み目(編んでないけど!)が大きすぎて、子供たちが頭から落ちてしまう可能性が高いってこと!
そう指摘するとマルタが私の手からそのままの形で❝六段はしご❞を受け取り、片手の指の間隔を狭くする。それを待ってアルバロが糸をちょいちょいと触りながら、これならどうだ?とはしごの間隔を整えた。
それでも浮かない表情で首を横に振る私を見て、
「だったらその上に敷物でも敷いてやればいい」
「それと、そのすぐ下に別の向きからハンモックを掛けてやればいいだろう?」
「落ちても怪我しないように、馬車から降ろせない荷物のすぐ上に掛けておけば? 空間の有効活用になるね!」
活動を再開した冒険者たちが次々に解決案を提案してくれる。
「上に敷物を敷くなら布で作ったハンモックを持ち込むのと一緒じゃない? 紐を持って行く分余計な荷物だよね? それに落ちて怪我をすることはなくても、落ちたら痛いことに変わりはないよ?」
と反論しても、
「寝相の悪いガキがベッドから落ちるのなんて普通だろ? 痛いだけで怪我がないならいいじゃないか」
「荷物の上の方に子供たちの着替えとか柔らかいものを置いておけばどうよ」
「バルトロメーオを支えられるほどの強度を持った紐なんだから、旅が終わったらうちのパーティーで買い取らせてもらいたい。これなら❝商品❞だ。余分な荷物じゃないよな?」
「あの紐の強度でこのハンモックの形なら、4点で引っかけることができるから子供たちの体重を支えるなんて楽勝だぞ?」
またまた反論が返って来る。
だったら、六段はしごのハンモックは手を離したらすぐ形が崩れる。毎回ハンモックの形にするのは大変だし、第一、子供たちの身長分の紐をあやとりするのは無理がある。と言ってみても、
「アリスの指は何本だ? 俺たちはアリスの指以上の人数になってるんだから、それぞれがどの指を担当するかを決めて覚えておけばいいだけじゃねぇか」
簡単に押し切られてしまった。
こうなったら、さっさと登録申請を済ませて戻ってこようと諦めの境地で歩き出そうとすると、アルバロが私の肩を抱き、私を挟んで反対側に立ったマルタが私の腰を抱く……。
………面倒だけど逃げたりする気はないからね。信用して欲しいな!
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