女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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お引越し準備 9

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 ハンモックを使ったブランコ遊びが気に入った年長さんたちはマルタからハンモックが何のために必要なのかを説明され、旅が始まるまでには自分たちに必要な分の組紐を組み上げると息巻いている。

 合言葉は❝旅の間に100万メレ(稼ぐ) ❞らしい。

 どうやら旅に行く前に自分たちの分を用意してしまい、護衛組に買い取ってもらう分の組紐を旅の間に組むつもりのようだ。

 アルバロたちは、子供たちが使った後の組紐を買い取り予定だったんだけど、べニアミーナちゃんの、

「私たち子供の体と、皆さんの立派な体では必要になる紐の太さと長さが違ってきます。……え? 紐と紐をつないで使うから大丈夫? つなぎ目はどうしても弱くなってしまいますが……。 ああ、私たちに無理をさせたらアリスさんが心配するからと遠慮を……? そんな遠慮よりもきちんとしたものを高く買って欲しいです! ……アリスさんも賛成の様ですね。そうだ! アリスさんの大事なお友達だから特別に色を選ばせてあげます、どんな色がいいですか? 荷物が増えたり重くなると困るから紐の太さは変えない方が良いですよね? ではヴェルの糸を増やして強度を上げてはどうですか? 糸の手持ちは、……あるようですね。お値段はヴェルの糸1本につき、……商業ギルドと相談した方がいい? わかりました。商業ギルドでヴェルの糸の価格を聞いてきます。ヴェルの糸の本数と紐の長さで価格を決め……、ギルドで価格表を作ってもらいますね!」

 怒涛のセールストークで話が変わる。

 べニアミーナちゃんの利口さがわかるのが、勝手に話を進めているようでいてしっかりと私の意向を確認していることだ。

 要所要所で私の顔色を窺いながら答えを見つけてセールストークに織り交ぜる。つまり、べニアミーナちゃんの言葉は私公認という形になり……、アルバロとマルタは満面の笑顔で彼女の話に乗った。

 強度を増した紐を、自分たちに必要な長さ&好みの糸で組んでもらえる。正確な価格はまだわからないけど、元々私が決めていた組紐の販売価格にヴェルの糸代を上乗せするだけだから、常識外の価格になることはないしね(オーダーメイドということで少々割り増しになることはあるかもしれないけど♪)。

 べニアミーナちゃんの手腕に感心しながら、護衛組のみんながご機嫌に自分たちの好みを伝えているのを眺めていると、

「おまえたちはまだGランクみせいねんだろ? こんなにちっこいのに兼業で職があるなんてすげぇなぁ! で? 今回のはいくらくらいの稼ぎになるんだ?」

 マルタのパーティーメンバーの1人が感心したように年長さんたちに質問した。子供たちの稼ぎが気になるというより❝自慢話を聞いてやるぞ❞という雰囲気だったので、微笑ましい気分で聞いていたんだけど、

「全部アリスさんの稼ぎになります!」

 元気いっぱいのクリスピーノ君の返事を聞いて、目が点になってしまった。

 当然!と胸を張っているクリスピーノ君やベニアミーナちゃんたちの表情はなぜか誇らしげで、……訳が分からない。今まで納品してもらった組紐だってきちんと歩合で報酬を支払っているんだけどね? 

 ………支払っているよね? 

 不安になって思わずハクに問いかけの視線を向けたんだけど、私の視線の先にいるハクも不思議そうな表情で子供たちを見ている。

 うん。不思議そうなハクの表情が答えだ。ちゃんと支払っている。なのにどうしてそんなことを言い出したのかがわからない。もしかして今までの報酬では少なすぎてタダ働きも同然だって言いたいのかな? でも、だったら誇らしげな表情を浮かべている理由がわからない。

 なんて考えていると、年長さん達に質問をした彼は、

「え…? ああ、<徒弟>か。そっかそっか、頑張れよ! 徒弟で冒険者を兼業させてもらえるなんて、おまえらは親方に恵まれてるな! 早く一人前の職人になれるといいな!」

 1人で答えを出して納得してしまった。 アルバロやマルタ、他のメンバーたちも納得!といった表情かおで笑っているんだけど……。

 ………ねえ、<徒弟>ってなんだっけ?











 私とミネルヴァ家の間にあるのは徒弟制度ではなく、雇用契約だ。

 きちんと報酬を受け取る権利があるんだよ!と改めて年長さんたちに説明を始めたんだけど、

「いいの! 報酬は全部アリスさんのものなの! わたし達が正式にネフ村の住民になるまでは、私たちの受け取る報酬は全部アリスさんに渡そうって、みんなで決めたの!」

 ピカピカの笑顔を浮かべた年長さんの女の子に説明をぶった切られた。

 そんなことをしたら、契約違反になってしまうと言っても、

「私たちがそうしたいんだから契約違反なんかじゃないよ? お母さんも賛成してくれたもん! だから大丈夫~!」

 ちっとも大丈夫じゃない理屈が返ってくる。 なんとも嬉しそうな笑顔付きで。

 私たちの会話を聞いて疑問を持ってくれたアルバロが、

「おまえたち、どうしてそこまでアリスに尽くそうとする? 俺たちの知っているアリスは、子供ガキの上前を撥ねて喜ぶような奴じゃないぞ? それも全額ってなんだ、ありえねぇ……」

 理解できん!と首を横に振りながら説明を求めると、

「ちっとも尽くしてなんかいませんよ? アリスさんの物をアリスさんに返しているだけ! 私たちが❝これから❞の生活に不安を感じないでいられるのは、今が幸せだって笑っていられるのは全部、ぜ~んぶ!アリスさんのお陰だから、当然のことです。 だから今回の仕事で私たちが受け取る報酬があるのなら、それは全てアリスさんのものです!」

 胸を張って、報酬いらない宣言をしてしまう。

 マルタが、

「あんた達、クリスピーノとベニアミーナ? 冒険者であるあんた達が報酬を受け取る権利を放棄なんてしたら、同業の冒険者、特に同じランクのGランクの子たちが迷惑するってわかってる?」

 と注意してくれたけど、

「わかってます! 俺たちだって普通の仕事、普通の依頼人が相手なら報酬の権利の放棄なんてしやしない! 金がなければメシが食えなくなるってことは、嫌って程知ってるんだから!」

「でも、アリスさんは普通じゃないから良いんです! マルタさんたちは知らないでしょうけど、私たちが今お母さんと一緒にみんなで仲良く笑っていられるのは、アリスさんのお陰なんです!」

 2人は意見を譲らなかった。それどころか、これまでにあったことを詳しく護衛組のみんなに説明し始める。

 私がここに初めて来た時、金策に困っていたミネルヴァ邸ここの相続人からの立ち退き要求に遭っていたこと。

 それを買い取ったのが私で、子供たちにとっては破格の条件の雇用契約を結び仕事を斡旋したこと。

 今まで通りの家賃を払えばミネルヴァ邸にそのまま住めるだけでなく、仕事で得る報酬でミネルヴァ邸を買い取る権利を与えたこと。買い取りの際にはそれまで支払った家賃分を買い取り額から控除する契約であること。

 そして、フランカのこと。

 私とミネルヴァさんは子供たちには内緒にしていたつもりだったんだけど、Gランクとはいえ冒険者であるクリスピーノ君とベニアミーナちゃんは、フランカの元パーティーメンバーたちの裁きの場にこっそりと立ち会っていたらしい。事の顛末を知った2人は自分たちと年齢の近い年長さん達にだけ話して聞かせ、相談の結果、少し抜けてる(失礼な!!)雇用主わたしを全力で守ろうと誓ってくれたようだ。

「私たちの生活とフランカ姉さんの名誉を守ってくれたアリスさんは、今度は私たちに新しい希望いじゅうのはなしを持って来てくれました。この土地から出て行く為の費用も新しい土地の領民になる費用も必要ないのに、家も仕事も用意してくれる。大きくなったらここから出て行かないといけないと思っていたのに、これからもみんなと一緒に、家族と一緒に居られるなんて夢のよう……。
 だからみんなで決めたんです! 村に着くまでに私たちが受け取る報酬があれば、それは全てアリスさんに渡そうって!」

 ❝譲らない!❞とばかりに毅然とした目で私を見る子供たちだけど、ここは私も譲れない。

 お金がないと欲しいものが出来た時に悲しい思いをするかもしれないと。村に着いて不足がでた時の為に、すぐに使えるお金が手元ある方がいいことを説明し、これからもちゃんと歩合を払うから受け取って欲しいと説得し、子供たちみんなの気持ちは本当に嬉しい。私はその気持ちだけで十分だから、どうかみんなには自分の権利を捨てないで欲しいと言葉を尽くして伝えると、私の意見にハクやライムだけでなく、マルタやアルバロを始めとする護衛組も賛成してくれて、一緒になって子供たちを説得してくれた。

 その甲斐あって、年長さんたちは渋々とだけど報酬の受け取りを受け入れてくれたんだけどね?

「ねえ、アリスさん。護衛をしてくれる冒険者のみなさんは、いつ誓いを立てるんですか?」

 ベニアミーナちゃんが新しい爆弾を落としてくれたんだ……。
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