女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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護衛依頼。選り好みも冒険者の権利です! 1

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「実は、自信を持ってアリスに紹介できる依頼ではないのだけど」

 少しだけ困ったように微笑んだディアーナの手にある複数の依頼用紙。

 内容は全て護衛依頼なんだけど、行き先が王都❝方面❞のものばかりで王都までではない。少し寄り道になるのがネックだとディアーナは思っているようだけど、そこは別に問題ないんだ。

 問題なのは、

「う~ん……、単独で受けられる依頼はやっぱり少ないねぇ。あるのは拘束時間が長い上に依頼料が割安かぁ……」

 他のパーティーとの共同受注になるケース。やっぱり私たちだけでは護衛として少なすぎるんだよね。

 私たちだけで受けられそうな依頼は❝目的地まで定額の依頼料❞なので何日掛かっても報酬は一緒だし、元から設定されている拘束期間が他の依頼より長期間になっている。……悩みどころだ。

「あんた、スレイプニルの飼い主のアリスだろう!? 王都までの護衛依頼を探しているのか? だったらわしらの依頼を受けさせてやろう!」

 ディアーナが選んでくれた依頼票を見ながらこれはここがねぇ……、これはここがなぁ……、と受注を決めかねていると、不意に後ろから声を掛けられた。

 振り返って見ると、一組の男女。

 男性はお腹に立派なお肉を蓄えていて、女性はお胸に立派なお肉を蓄えている、共に中年の夫妻らしき2人が立っていた。2人とも体型にあった服と装飾品を身に付けている所からみると、それなりに成功している商人さんって所かな?

 居丈高な態度と口調に好感を持てなかったので、

「不要」

 とだけ返してディアーナに視線を戻したんだけど、男性は自信満々に、

「なんと! 話も聞かずに断るのか? そんな態度では人生の好機を逃すことになるぞ! ……ふぅ、仕方がない。わしはそれなりに成功している商人だからな。ここは広い心でその不遜な態度を許し、話を聞かせてやろう」

 と言いながら依頼ボードから1枚の依頼票を剥がし、一方的に条件とやらを話し始めた。

 ちらっと見た依頼票には、王都までに護衛任務、1日5万メレ、食事は依頼主が用意、とだけ書かれていたんだけど、


 ・依頼内容は王都までの護衛任務。ただし、自分の店の屈強な護衛4人との共同になる危険は少ない。(任務中はその護衛たちの指示に従えと……)

 ・依頼料は1日5万メレ。通常は20日ほどの距離だが、自分たちは途中の集落に寄りながら旅をするので30日くらいを想定している。(状況次第で期間が延長したり短縮する可能性もあるよね。微妙)

 ・食事は自分たちが用意するものを毎日破格値で販売するので安心して良い。(これ、買わないとダメみたい。冒険者が個人で用意したもので体調を崩されたら困るからって理由だけど……)

 ・任務中に襲って来た盗賊や魔物を退治した場合、1回の襲撃につき3万メレの追加報酬アリ。ただし、その所有権は依頼主の物となる(盗賊の討伐報酬や魔物の素材を商人が総取りってこと。途中の集落に寄るのはこれらの売買の為でもあるんだろう)。


 詳しい話はこんな内容。

(ダメダメにゃ!)
(ダメダメだよね~!)

 話にならない!と首を横に振るハクとライムに私も同意。

 その上、女性がにっこりと笑いながら、

「あら、あなた。スレイプニル2頭の借り受け条件が抜けているわよ? そうね、1日につき1万メレって所かしら?」

 なんとも図々しいことを言い出したので、大人しく話を聞いていたことを後悔する。思いっきり!時間の無駄遣いをしてしまった……。

 条件に当てはまる❝王都までの護衛❞依頼だったのに、ディアーナがこの依頼をスルーした理由が良くわかったよ。

「お断り」

 とだけ告げて商人夫妻に背中を向けると、

「あら、スレイプニルを貸し出すのが嫌なの? でも、依頼主の馬よりも脚の速い馬を持っているなら、貸し出すのは当たり前のことよ? 急に襲われた時に、依頼主を安全な場所に避難させるのに役立つのだから」
「王都まで護衛として同行するのだから、その期間中馬を取り換えても何の問題もないだろう? タダで報酬が増えるのだからむしろ感謝して欲しいな」

 まるで❝常識だろう? 知らないのか?❞とでも言いたげな口調で話しかけてくる。

 ……これが護衛依頼の常識っていうなら、私は一生護衛依頼なんて受けないつもりでディアーナに視線を向けると、口元だけの笑顔を浮かべたディアーナが、

「確かに、護衛任務中の冒険者が自分の愛馬を依頼主に貸すことはありますが、それは敵に襲われた時に依頼主を逃がす為に必要だと冒険者が判断した時、あくまでも冒険者側の厚意で行うものです。最初から最後まで、自分の相棒である馬を貸し出す冒険者なんて、ほとんどいませんよ。
 それにスレイプニルの貸し出しが1日に1万メレだなんて……。少なくても桁が2つほど足りませんね」

 冷たい声で商人夫妻に告げてくれた。

 どうやらこの商人夫妻の常識はどこかがズレているようだ。

 放って置いていいだろうと判断してディアーナと護衛依頼の検討を再開すると、

(うるさいのにゃ!)

 すぐさま私たちの周りをハクが結界で覆ってくれた。どうしたのかと振り返ると、諦めの夫妻がまだ何かを言っている姿が見えた。当然声は聞こえない。

(ありがとうね!)

 気の利くハクにお礼を言って、改めて依頼の検討を再開する。なかなかコレ!っていう依頼がないんだよねぇ……。

 依頼を受けずに王都へ行って、王都に着いたらディアーナ宛に手紙を送るのはどうかな、と私が思い始めた時、

「今、ギルドに入って来たのが、この依頼の依頼主よ」

 ディアーナが入り口付近にいる一組の男女を小さく指差した。

 依頼の内容は……、拘束期間が長い上に依頼料がとっても割安な、王都の近くの町までの護衛依頼。

 う~ん……? まあ、せっかく依頼主が来たんだし、詳しい話を聞いてみようかな?

 なんだかディアーナのお勧めな雰囲気がするし、少なくても、今の商人夫妻よりひどい話はないだろうしね?
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