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<従魔>って、なんだっけ? 3
しおりを挟む「アリスのお陰で良い商材が手に入ったわ! ありがとう!」
付着していた体液を洗い流し終わったタランチュラの糸を手に、ほくほくの笑顔でオデッタがお礼を言う。
「手持ちの資金が乏しくて少し不安だったのですが、これで安心してアリスさんから食事を購入できます」
切り落としたタランチュラの爪を包んだ帆布を手に、アルフォンソさんがほっとした表情で笑う。
(すこしだけならヒリョウをつくれるよ~)
タランチュラを消化中のライムは嬉しそうに体を揺らしているし、
(アリスの魔力操作力がアップしたのにゃ♪ 成長したのにゃ♪ 売り上げの8割getなのにゃ!)
ハクは満足そうにゆらゆらと尻尾を揺らしている。
求める成果を得られて嬉しそうに笑っているみんなには悪いけど、私は、
「………………」
疲労困憊中の精神を癒す為に、目を閉じて瞼の裏に綺麗なお花畑をひたすら描いていた。
風に揺れる小さくてかわいい花、太陽に向かって誇らしげに咲く花、鮮やかな色合いが印象的な美しい花や、ひらひらと幾重にも花弁が重なる華やかな花を想像しながら、ただただ自分を癒すことに集中する。
現実逃避? 何とでも言って。嫌な記憶を消去する為に必要なプロセスなんだから。
私が自分を癒す為に、黙って想像の世界にいることをどう思ったのか、
「……そこまで蜘蛛が苦手だったの? 冒険者として採取もしているって聞いていたから、まさか本当にダメだとは思わなくって……。ごめんなさい!」
「森の中で単独の野営の経験もあると聞いていたので、蟲が好きではなくてもそこまで苦手だとは考えられなくて……。申し訳ないことをしました………」
(アリス、アリス! おへんじして? ぼく、アリスにいじわるしたの?)
(しっかりするのにゃ、アリス! ……ちょっとだけごめんなのにゃあ)
みんなが声の質を変えて何かを言っているみたいだけど、……ゴメン。私の耳にはほとんど届かない。
私を挟むように両隣に座り込んで、自らの体温で温もりを分けてくれているスレイとニールに感謝をしながら、ただひたすらに精神の疲労を癒すことに集中していた。
疲れ果てていた精神も何とか回復した気がしたのでゆっくりと目を開けてみると、目の前には、悲壮な表情で私を見つめている4対の瞳があった。その内2人はなぜか正座中。……石ころとか当たって痛くないのかな? ハクは珍しく四つ足を揃えた姿勢で行儀よくお座りしているし、ライムのぷにぷにボディがいつもよりもぺっちゃりしている気がする。
どうしたのか聞こうと口を開こうとした矢先、
(ごめんなのにゃあ!)
(ごめんなさいなのーっ!)
涙声のハクとライムが飛び付いて来た。思わず目を白黒させてしまう。そんな私に構うことなく、
(アリスは最近同じ魔法ばかり使っていたから他の魔法もきちんと使えるようになって欲しかったし、初めての護衛任務だったから、いつも以上に気を引き締めないといけないと思ったのにゃあ~。アリスに気合を入れるつもりだったのにゃ~。本当にごめんにゃ~~!)
(ぼく、わがままだったの。ごめんなさい……!)
「私、自分が蟲とか平気だから<冒険者>のアリスも平気だと思ったの。嫌がっているのはわかったけど、大袈裟に嫌がるフリをしてるのかな?って……。本当にそこまで苦手だなんて思わなかったの。ごめんなさい! もう、蜘蛛を狩ってくれなんて言わないわ!」
「アリスさんの実力は聞いていたのですが、自身の目でも一度確認しておきたかったのです。それで資金難を自分への言い訳にアリスさんに無理を強いてしまいました。本当に申し訳ないことをしました……」
それぞれが言い訳をし始める。
うん、まあ、それぞれの考えはわかったけどね? できたら蜘蛛のことは思い出させないで欲しかったなぁ。思わず遠いところへ視線を飛ばすと、
「いや~! アリス、しっかりして~っ!」
「アリスさん! アリスさん! お気を確かに!!」
((アリス~っ!))
途端に広がる阿鼻叫喚。……ゆっくりと現実逃避もできないんだね。
まあ、魔物が出る所で現実逃避なんかしてたら危険極まりないんだけど。スレイとニールに守ってもらっている私はともかく、依頼人を危険に晒すわけにもいかないし。
でも、一言だけ言っておく。
いざという時には<結界>で私たち全員を守れるハクがいることを知っている従魔組はともかく、護衛の冒険者を使い物にならなくする危険性を、少しは理解した方が良いと思うんだよ? 依頼人ご夫妻さん?
「今みたいなケースで私が弱っている時に魔物に襲われて怪我や死亡をしたとしても、責任は負わないからね? 私もあなた達に死亡されたら依頼失敗になるけど、それはまあ、仕方ないし……」
呟くように言った私の注意は、ただでさえ悪かった依頼人夫妻の顔色をさらに悪い物にしちゃったけど、まあ、必要な注意だよね?
決して仕返しで脅したわけじゃないんだからね?
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