モフ愛強めの私はまったりもふもふライフを目指す

羽田宇佐

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熊、がおーしまくる

第18話 でかすぎる猫の正体

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「猫が人の言葉しゃべってる! しかも二本足で立ってる!」

 驚きのあまり、心の声が口に出てしまう。
 私が今までこの国で見た“猫の姿をした猫”は、猫語を話していた。
 にゃーにゃー言っているようにしか聞こえない猫語で会話をしていた。

 でも、物騒な提案をしてきたゴールデンレトリバーくらい大きなこの猫は違う。……サイズ的に猫と呼ぶことが憚られるような大きさではあったけれど、紛れもなく猫の姿で人間の言葉を喋っていた。

「誰が猫よっ」

 黒に白が混じった猫が、また私でも理解できる言葉を口にする。

 この猫は本当に猫なのか。

 初めて見る不思議な猫に対する疑問が浮かぶが、それはセレネさんが解決してくれた。

「瀬利奈ちゃん! この子、ケット・シーだよ、ケット・シー!」

 弾んだ声とともにセレネさんが大きな猫に抱きつく。すぐに「離しなさいよ!」と荒っぽい声が聞こえてきたけれど、セレネさんは離すどころかケット・シーに頬ずりをした。

 そして、大きな猫にしか見えないケット・シーが手足をばたつかせ、セレネさんが可愛いとその頭を撫でまくるという光景が私の目の前で繰り広げられることになる。気になって熊をちらりと見ると、二頭はジープを壊し続けていた。

 ええっと。
 なんだこの状況。

 ケット・シーの頭を撫でて可愛がってるセレネさんがズルすぎる。
 じゃなくて、逃げるんじゃなかったっけ。

 混沌とした現場に、頭が追いつかない。
 さらに、まとまらない思考を分断するようにキキキキィーと高い音が鳴り響き、リアカー付きの自転車が二台止まった。

「迎えが来ました。セレネ、遊んでないで行きますよ!」

 ルノンさんがセレネさんの肩を掴んで引きずる。必然的にセレネさんに抱きつかれているケット・シーも連行されることとなり、二人まとめてリアカーに乗せられる。

 運転手は筋骨隆々ということもない普通のお兄さんたちだけれど、大丈夫なんだろうか。

 といらぬ心配をしたところで、ぽんっという音が聞こえてセレネさんが猫になる。

「乙女さんも猫に戻って、瀬利奈さんと一緒に隣のリアカーに乗ってください」

 言われた通りに乙女が猫になり、私と一緒に隣のリアカーに乗り込む。そして、セレネさんたちと一緒にリアカーに乗ったルノンさんが「出してください」と指示を出すと自転車が走り出した。

 きこきこきこきこ。

 人間一人と猫一匹とは言え、それなりの重さのものが乗っているだけあってスピードは出ない。当然、人間一人と猫一匹、加えてケット・シーまで乗っている隣のリアカーだって遅い。

 熊からは遠ざかってはいるけれど、熊が本気を出せばすぐに追いつける。もしかしたら、リアカーから降りて、走った方が早いのかもしれない。
 そんなことを考えていると、熊がこちらをぎろりと見た。

「ブッフォー!」

 逃げて行く私たちに向かって威嚇をしてくる。引っこ抜かれたハンドルも飛んでくるけれど、命中するような場所には着地しない。そして、熊たちが追ってくることもなかった。

 ガッタンガッタン。
 きこきこきこきこ。

 自転車が進み、熊の姿が小さくなっていく。

「今、村には私以外に車を運転できる猫がいないので、リアカーですみません。でも、あと十分もすれば村に着きます」

 意思疎通のためか人間の姿でいるルノンさんの声が聞こえてきて、私は地面の凹凸をダイレクトに伝えてくるリアカーに揺られながら「わかりました」と返事をする。お尻にかなりのダメージがあるが、セレネさんの運転を思えば耐えられないことはない。

 自転車は四季折々の花が咲く道を通り、村へ向かう。
 おとぎ話に出てくるような煙突付きの家やレンガ造りの家、きのこみたいな形の家が見えてくる。

 十分経ったかどうかはわからない。
 けれど、三角屋根の家の前でキキキキィーという音とともにリアカーが止まった。

「ルノンちゃんの家、久しぶりだー」

 いつの間に人間に変身したのか、セレネさんがリアカーから飛び降りる。そして、自宅に入るようにルノンさんの家の扉を開け、私たちを招き入れた。でも、ルノンさんはまったく気にしていないから、いつものことなんだと思う。治安がいいのか鍵もかけていないようだし、日本で言えばのどかな田舎というイメージなのかもしれない。

「適当に座っていて下さい。私はお茶をいれてきます」

 セレネさんとともに客間らしき部屋に入ると、ルノンさんが台所に消え、乙女が人間に変身して椅子にちょこんと座った。

 私と乙女、そしてセレネさんとケット・シー。
 四人で人間用の丸いテーブルを囲むと、にこやかにセレネさんが言った。

「で、どうしてケット・シーがここにいるの?」
「無理矢理リアカーに乗せられて、ここまで運ばれてきたからに決まっているでしょっ」

 耳をぴくんっと動かしてケット・シーが不機嫌に言う。

「そうじゃなくて、何の用でこの村に来たのかなって」
「ケット・シーの国の使者として、この村を視察に来たのよ。獣使いが来るというから、どんなものか見るためにね」

 器用に椅子に座ったケット・シーが胸を張る。

 人の言葉を喋る猫の妖精。
 それがケット・シーだと聞いた。

 どんな生き物か気になっていたが、彼女はどこからどう見ても犬のように大きな猫で、そんな彼女が椅子に座っている姿は愛らしい。人間の言葉を喋っているのもポイントが高い。
 黒に白がちょこっと入ってるところも可愛くて、足は靴下をはいているみたいだ。

 可愛いの塊。
 可愛いの権化。

 私のために存在しているとしか思えない。

「ケット・シーさん。獣使いの吉井瀬利奈です。よろしくお願いします」

 肉球触りたい。
 とは口に出さないけれど、下心満載で握手を求める。

「私はアシュリンよ」

 ケット・シーは素っ気なく名乗ると、体を少し引いた。

「あの、アシュリンさん」

 握手して欲しい。
 できれば、撫でたい。
 という思いを隠して手を伸ばすと、彼女は毛を逆立て、ヒゲをぴくぴく動かしながら言った。

「――あなた、それ以上こっちに来ないで」

 どうやら、私の下心は隠せていなかったらしい。
 他の猫のように逃げ出したりはしないけれど、明らかに怯えている。

 私、少し離れた方が良いんだろうか。

 ただ、こぢんまりしたこの客間で距離を取るのは難しい。
 どうしたものかと思案していると、私とアシュリンさんの間に座っている乙女が助け船を出してくれる。

「リンちゃん、人間になったら? リナのこと怖いっていう猫は、人間になると怖くなくなるみたいだから。あ、ケット・シーって人間になれないの?」
「ちょっと、隣のふわふわ。私はリンではなく、アシュリンです。あと、人間になれないのではなく、誇り高きケット・シーはこんなことくらいで人間になったりしないのです」

 髪がふわふわしているから、ふわふわ。
 おそらくそういうことだ。

 ついでに言えば、アシュリンさんはご立腹のようで、ふわふわこと乙女を睨んでいる。だが、睨まれている乙女はまったく気にしていない。

「わかった。あとね、リンちゃん。私は、ふわふわじゃなくて乙女だから。よろしくね!」

 にっこり笑顔を付けて、乙女が握手を求める。けれど、アシュリンさんは鋭い視線を飛ばし、握手には応じない。

「アシュをつけて!」
「リンちゃんの方が可愛いから」

 屈託なく言って、乙女は握手のために伸ばした手でアシュリンさんを抱きかかえた。と言っても、アシュリンさんはでかい。大型犬くらいあるから、大きな子どもを半ば強引に抱っこしているみたいになっている。

「ちょ、ちょっと。抱き上げないで! 今すぐおろしなさい」

 ツンツンとした声が響き、猫にしては大きな手がむぎゅーと乙女の額を押す。しかし、残念なことに、乙女は楽しそうにあはははーと笑っているし、セレネさんもくすくすと笑っている。私が助けに入ればアシュリンさんが怖がりそうだし、ルノンさんもまだ戻って来ない。

 可哀想だけれど仕方がない。
 耐えてもらおう。

 私が救出計画をそうそうに諦めて、アシュリンさん地獄絵図状態を眺めていると、本人から救援依頼が飛んでくる。

「瀬利奈、どうにかしなさいよっ」

 ああ、合法的に猫に触れる。

 私が二つ返事でアシュリンさんに近づくと、彼女は耳をぺたりと折って自力で乙女から逃げ出した。
 結果、額に肉球マークをつけた乙女とケット・シーを触り損ねた私が残され、ルノンさんがお茶を持って現れる。

「皆さん、仲良くなったみたいですね」
「どこがよ!」

 アシュリンさんが鋭い突っ込みを入れ、耳をぴんっと立てる。

「とにかく、私にはケット・シーとしての誇りがあります。だから、人間にはなりません。そもそも、そこの人間などどうということもありません」

 ぴしゃりと言い切り、アシュリンさんは席に戻る。
 そして、大きな声で付け加えた。

「でもっ、瀬利奈っ! あなたはそこからっ、絶対にっ、こちらに来ないで下さいっ!」
「……はい」

 私は“ハウス”を言いつけられた犬よろしく、席に着く。

「私は獣使いというものを見に来ただけで、あなたと仲良くしたいわけではありません。だから、近寄る必要がないのです。わかったら、それ以上こちらに来ないように」

 アシュリンさんがぴんっとヒゲを伸ばして、胸を張る。

 これまでの態度を見るに、ケット・シーというのはなかなか気難しい種族のようだ。私は、言い訳っぽく聞こえた彼女の言葉を気のせいということにしておく。そして、触りたいオーラもなるべく出さないように気をつける。

 猫は好きだけれど、怖がらせるのは本意じゃない。
 私はなるべく心を無に近づけて、アシュリンさんを見る。
 耳はぴくぴくしているが、毛が逆立ったりはしていない。

 テーブルに視線をやると、いつの間にかお茶が置かれていた。

 こほん、と咳払いが聞こえる。

「では、そろそろ今後の話をしてもよろしいでしょうか?」

 ルノンさんが穏やかに言った。
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