モフ愛強めの私はまったりもふもふライフを目指す

羽田宇佐

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熊、がおーしまくる

第19話 えーと、気合いでなんとか

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「熊ですが、猫に危害を加える様子がないのでこちらで何とかします。いいですね、セレネ」
「私は、それで良いと思う」

 セレネさんが隣に座ったルノンさんに向かって頷く。そして、他三名が見えないかのように、二人が話し始める。

 この村に車が一台あるとか。
 畑はどうするとか。

 そんなことをごにょごにょと話しているけれど、私は納得いかない。だって、私は熊を追い払いに来たのであって、追い払われに来たわけじゃないのだ。熊の一頭や二頭に負けていられない。

 獣使いとしては未熟者だとしても、やれることはあるはずだ。

 私は、勢いを付けて立ち上がる。
 ガタンと椅子が音を鳴らしたが、かまわずに口を開いた。

「なに言っているのよ、この村で何とかできないから獣使いを呼んだんでしょう。瀬利奈、操らないなら熊を撃ち殺しなさい」

 そう、それが獣使いのやるべきことだ。
 ドンッと撃って、バンッと倒す。

 ――って、違う。
 私は、そんな恐ろしいことは言わない。
 今の台詞、アシュリンさんだ。
 乙女の隣に視線をやると、彼女は椅子の上に立っていた。

「最終的に問題が解決すればいいんだから。獣使いの能力を使うつもりがないなら人間流にやればいいのよ。逃げるくらないなら、その方がいいでしょ」

 そう言って、アシュリンさんがむにゅっと拳、というか肉球を握る。

 まん丸いお手々が肉球ごとくにゅりと曲がるところは、チャームポイントと言って良さそうだ。だが、見目麗しい美猫のアシュリンさんが発した言葉は過激だった。そして、酷く人間のことを誤解している。

「人間流って言われても、人間は銃で問題を解決する生き物じゃないです。それに、撃ったりしたら熊が可哀想じゃないですか。私が獣使いの力で何とかします」

 私は黙っていられず、早口で捲し立てる。

「なんで? 私が過去に見た人間は、動物を撃ち殺していたわよ。それに人間の世界へ行ったときに、テレビで見たことがあるもの。山から下りてきた熊を撃ち殺すところ」
「……確かにそういうこともありますけど」

 彼女の言葉は間違ってはいない。
 私も、テレビで見たことがある。

 町で暴れる熊は放っておけないし、人間の生活もある。だからと言って熊を撃っても良いということにはならないけれど、仕方がないと思っていた。可哀想だと思いながらも、そう考えていた。

 でも、ここは人間の世界ではなく猫の国だ。
 そして、今の私には他の人にはない力がある。
 だったら、偽善でもその力を使って平和的に問題を解決したい。

「瀬利奈、なんであなたはそうしないの?」

 アシュリンさんがヒゲをぴくりと動かす。

「あの熊たち、今日はいつもとは違うって言ってましたけど、こっちに危害を加えるつもりはないみたいですし。それに、人間なら誰でも銃を持っているというわけじゃないし、私は銃を持っていたとしても使いたくないです」

 今まで猫に犠牲は出ていない。そもそも猫を襲うつもりがあるなら、逃げて行く私たちを追いかけて襲ってきてもおかしくはなかった。それをしなかったということは、熊たちの目的は他にあるんじゃないかと思う。

「危害は加えないと言っても、どうするの? 私はあなたたちより早くこの村に来ているけれど、向こうは話し合いをするつもりはないみたいよ」
「それは、獣使いの能力で」

 私は胸を張ってとまではいかないけれど、背筋を伸ばして言う。

「聞いた話だと、あなたは触ることで対象を操るんでしょ。あんなに暴れている熊でも触れるの?」

 アシュリンさんが椅子に座り直して、私を見る。

「えーと……。気合いで?」

 ちょっと、いや、かなりトーンダウンする。
 人間は、気合いと努力で大抵のことを何とかできる生き物のはずだとは思うけれど、あまり自信がない。
 意気揚々から意気消沈した私がしょんぼりしていると、セレネさんが静かに言った。

「アシュリンちゃん。私たちは、熊と戦うつもりはないよ。銃で撃ったりなんかしたら、戦争になっちゃう。熊の国は友好国だし、そういうのは避けたいしね」
「じゃあ、あなたは本当に帰るつもりなのですか?」
「そのつもり」

 きっぱりと言って、セレネさんが立ち上がる。
 そして、私と乙女に「帰るよ」と言った。

「セレネ。アシュリンさんを管理局まで送ってあげてください」
「おっけー」

 セレネさんの返事が部屋に響き、ルノンさんが車の鍵を持ってきて手渡す。これからの予定がトントン拍子に決まるが、私は帰るつもりになれない。

「ルノンさん。何とかするって、どうするんですか?」

 セレネさんに腕を引っ張られながら、尋ねる。

「そうですね。最悪の場合、畑を諦めて村ごと移動しても良いと思っています」
「思い出の畑だけど、仕方がないね」

 いつも明るいセレネさんの声色に、寂しそうな色が混じる。

「思い出って、過去に何かあったんですか?」

 私に言葉に、セレネさんが長い黒髪をかき上げて目を細める。そして、ふわりと笑って何かを懐かしむように口を開いた。

「あの畑、編集長が作ったの。ずーっと昔のことだけど、国を良くするには自給自足からだって言い出して、突然一人で畑を耕して。それがきっかけで、今は編集長ほどじゃないけどみんなでそれなりに野菜とか作ってる」

 セレネさんが小さく息を吐き、掴んでいた私の腕を放す。

「猫の国って、気候が良いからどこでも畑作れるし、色々な季節のものが穫れるからね。移動しても良いと思う」

 とうもろこしに人参、スイカ。
 茄子やキャベツ、苺なんかもあったはず。

 確かに、季節を無視して畑には色々な野菜や果物があった。ここへ来るまでにも、何だかよくわからない花が咲きまくっていたし、不思議な草も生えまくっていた。それを考えれば、どこで畑を耕しても良いはずだ。
 だけど、本当はこの場所で畑を作り続けたいんじゃないかと思う。

「断固反対! あの熊さんは私がなんとかします」

 バンッとテーブルを叩いて宣言をすると、乙女が真似をするように立ち上がった。

「リナ! わたしも手伝うっ」

 私は、ぴょんっと楽しそうに飛びついてくる乙女を受け止める。

 どうやってなんとかするかは後回し。
 今は、帰ることを阻止するのだ。
 やけに楽しそうな乙女が今の状況を理解しているかはわからないけれど、協力してくれるなら心強い。

「いや、二人で元気よくそんなこと言っても」

 やりたい放題を専売特許にしているセレネさんが困った顔をする。

「じゃあ、一回! 一回だけチャンスください。熊が襲ってこないと思ったら、やれそうな気がします」

 ぱんっと手を合わせ、セレネさんを神様のように拝む。
 お賽銭として一万円をお財布から出すくらいの気分で拝む。
 実際に、お賽銭として一万円を出したことはないけれど。

「瀬利奈、あなたそんなこと言って本当に操れるの?」

 アシュリンさんが疑いの目を向ける。

「操れるか操れないかで言えば、操れます」

 問題は、操る前に逃げられることだ。
 今回は私の中に、熊が可愛いと熊が怖いが混在しているから、逃げるかどうかはやってみないとわからない。

「熊には近づかなかったし、猫たちには逃げられていたし。あなたが操れるとは思えないのだけれど」

 証拠。
 証拠を見せるしかない。
 でも、誰を操れば良いんだろう。
 やっぱり、アシュリンさんだよねえ。

 そんなことを考えていると、私の隣にいた乙女がアシュリンさんの背後に回り込む。そして、彼女を羽交い締めにした。

「リナ。リンちゃんを操ってみれば?」
「え、なに? 乙女?」

 驚いたアシュリンさんが素っ頓狂な声を上げる。

「ナイス、乙女! そのまま捕まえてて」

 捕らえられているうちに、触ればこっちのもの。
 ちょっと可哀想だけれど、私の力を知ってもらうにはこれが一番だ。タロウ編集長がどんな獣でも操れるって言ってたし、大丈夫だろう。

 ――というわけで。
 ぴこぴこ動くお耳、ぴんっとしたおひげ。
 緩やかなカーブを描くお腹。
 すべてが可愛いアシュリンさん、触らせてもらいます。

「瀬利奈、ちょっと、来ないで。なんか、あなた、気持ち悪い。ちょ、ちょっと、待って。待ってってばっ」

 部屋に響くのは、アシュリンさんの悲鳴にも似た怯えた声。
 でも、それも今だけです。
 さあ、すぐに楽にしてあげますよおおおっ!

 と、意気込んだ私は、アシュリンさんの頭を、顎を、お腹を撫でて、撫でまくる。私の話をお願いを聞いてくださいと念じながら撫でたおす。そして、数秒後。誇り高きケット・シーは、ただのでっかい猫になっていた。

「うにゃーん」

 人の言葉を喋っていたアシュリンさんがゴロゴロと喉をならす。隙あらば、私の手に頭を擦り付けてくる。

 可愛い。
 可愛すぎてつらい。

「アシュリンさん、ぎゅーってしてください」

 膝をついて彼女のサイズに合わせると、私に魅了されたアシュリンさんがにゃーと鳴きながら素直に大きな腕でぎゅーと抱きしめてくれる。

 もふもふ。
 これぞ、もふもふ。

 大型犬サイズのアシュリンさんの腕の中は、気持ちが良い。質の良い毛布にくるまれているみたいで、私は彼女の胸に頬を埋めた。
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