モフ愛強めの私はまったりもふもふライフを目指す

羽田宇佐

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大体、大団円だよね

第24話 笑顔の裏には般若の面

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「あの、畑を荒らしたりしてすみませんでした」

 ハナさんがぺこりと頭を下げる。すると、それを打ち消すようにヤナギさんが言った。

「なんで謝るの!?」
「だって、畑は荒らすものじゃないから。それに、この猫さんたち悪い猫に見えないし」
「悪く見えなくても悪い猫だよ。だって、畑を荒らしても襲っても怒らなかったもん。これって、やましいことがあるからでしょ。絶対にそうだもん」

 ハナさんを手当てするために畑から少し離れた草の上、ヤナギさんが地団駄を踏みながら断言する。

 その地団駄は、最近、子どもでもこんなに激しく地面を踏み鳴らしたりしないと思うような地団駄っぷりで、ヤナギさんの怒りが伝わってくる。くるのだけれど、私には猫たちが罠を仕掛けるなんて面倒なことをするとは思えなかった。

 私の知っている猫たちは、悪巧みをしている暇があるなら趣味に没頭したり、美味しいご飯を食べたりしていそうだ。

「それは単純に面倒だったからです」

 ルノンさんが私の脳内を覗いたかのように言う。

「熊の国の方たちは、悪戯好きでよく畑の食べ物を取りに来ていたじゃないですか。だから、最初は悪戯の一環だと思ってたので、見守っていただけです。それに、畑自体は多少荒らされてもまた植えればどんどん育っていくので、最初は気にしていなかっただけです」

 関わりが増えれば揉め事も増える。
 だから、用もないのに他国に行くことはない。

 確かサカナさんがそんなことを言っていた。
 それは揉め事が嫌いだってことだろうし、ルノンさんも面倒事を増やしたくなかったんだろうなと思う。
 でも、その結果、もっと面倒なことになっているのは皮肉としか言いようがない。

「悪戯に見えてたの? あれが?」

 ヤナギさんが心の底から驚いたようにルノンさんを見る。

「ええ。ですが、さすがに面倒では済まされない事態になってきたので、獣使いを呼びました」
「獣使いって、この人間? 何をさせるつもりでこんなのを呼んだの?」

 こんなの、という台詞とともに、私は人間の証である猫耳を引っ張られる。

 猫の国では、“人間”と“人間に変身した猫”を区別するために“人間の方に猫耳”が生える。だから、引っ張られるためにあるわけではないのだけれど、ヤナギさんが耳の耐久検査でもするように容赦なく引っ張ってきてちょっと痛い。

 私は引っ張られた耳を取り戻し、ここへ来た目的を告げる。

「えーっと、こんなのがここに来たのは、あなたたちをとめるためなんですけど」
「そうだよ! リナは獣使いだから、暴れてる熊を止めに来たの」

 物扱いに抗議するように皮肉っぽい言い方になったけれど、乙女の明るい声がそれを相殺してくれる。

「だから、さっきいうこと聞いちゃったんだ」

 ハナさんが独り言のように呟いて、身を乗り出してくる。

「獣使いって初めて見ました」

 不躾という感じではないけれど、興味深そうに私を凝視する。

「人間に変身した動物も操れるんですか?」
「それは無理みたいです」
「へえ、面白いですね」

 ハナさんがしみじみと言いながら、じりじりと私に寄ってくる。

 うん、近い。近いね。

 無邪気に詰められた距離はかなりのもので、乙女が不服そうに私に抱きつき、ヤナギさんが勢いよくハナさんの肩を掴んだ。

「ちょっとハナ! 人間に近づきすぎっ。まだ罠を仕掛けたのがこいつらじゃないって証拠がないんだから」

 熊形態じゃなくて良かった。
 熊の姿だったら、たぶんヤナギさんに頭から囓られてる。
 彼女の口調はそれくらい荒かった。でも、まったく動じない声が隣から聞こえてくる。

「確かに、証拠はありませんね。でも、本当に罠は仕掛けていませんよ」
「証拠がないなら、猫が悪いからっ」
「そうですね。また正式にお話に行きますが――。こういうのは、どうでしょうか?」

 ぷんぷん、という擬音が聞こえてきそうなヤナギさんに、ルノンさんが笑いかける。

「熊の国に仕掛けられた罠の撤去の手伝い、それと必要なら畑で取れた野菜や果物もお分けします。だから、暴れるのはやめてもらえませんか?」

 にっこり。
 ルノンさんが怖いくらい優しい笑顔を貼り付けていた。
 けれど、ヤナギさんはうんと言わない。

「まあ、これ以上暴れるようなら、瀬利奈さんに頼んであなた方を操ってもらって、熊の国の上層部に自首してもらいますが。熊の国はあなた方をかばっていたのか処分をしていないようですが、自首をしたら無視できないでしょう。一応、猫の国と熊の国は友好国ですし、それなりの決まりがありますから」

 笑顔がさらに優しくなる。
 菩薩を思わせる穏やかさを湛えている。
 ――はずなのに、般若の面が見える。

「今、やめると約束してくださったら、熊の国にもこの問題は解決したとお話します」
「……ね、猫のこと信じたわけじゃないけど、罠を撤去してくれるなら言うこと聞いてもいい」

 引きつりながらヤナギさんが言う。

「では、そういうことで」

 話が丸く収まったのかはよくわからないけれど、ルノンさんが熊二人と握手を交わす。

「あの、めでたしめでたし、なんですか? これ」

 猫と熊の温度差を感じつつ尋ねると、ルノンさんがにこやかに答えた。

「まあ、大体めでたしめでたしですね」
「そういうことみたいだね。だから、瀬利奈ちゃんのお仕事はこれで終わり! と言うことで、帰ろう」

 ぱちぱちぱちぱち。

 黙って話を聞いていたセレネさんが手を叩いてから、歩き出す。
 そして、私も乙女も、何故か熊たちも。
 つられるようにセレネさんの後をついていき、車の前までやってくると、中からアシュリンさんが顔を出した。

「瀬利奈、解決したの?」
「したみたいです」
「じゃあ、これでお別れね。もう会うこともないでしょうけれど」
「会えないの?」

 冷たく言ったアシュリンさんに乙女が問いかけると、彼女は何かを思いだしたのか眉間に皺を寄せて言った。

「絶対に会わないわよっ」

 乙女との思い出は良い物ではなかったらしい。
 まあ、その残念な思い出づくりに私も協力してしまったわけだけれど。

 操らなくてもいいから、もう一度ふわふわで大きな猫であるアシュリンさんに触りたかった。

 話を聞くと、アシュリンさんがケット・シーの国へ帰るのは明日らしい。それまでに触れるチャンスがないわけではないが、明日は学校があるからのんびりしているわけにはいかないのだ。

 って、んんっ?
 帰れないのでは……。

「そう言えば、私たちが乗ってきた車壊されちゃいましたけど、どうやって帰るんですか?」
「あ、そっか。車、壊されちゃったんだっけ。どうやって帰ろうか。ルノンちゃんの車、借りるわけにはいかないんだよね」

 あはははー、と笑いながらセレネさんが言う。

 やっぱり、無策なんだ。
 予想していたこととはいえ、帰る方法がないことにため息をつく。学校へ行きたいわけじゃないが、家に帰れないのはまずい。

「あの私、車壊しちゃったお詫びに皆さんのこと送ります」

 助け船がどんぶらことやってきて、私は声の主であるハナさんの腕をがしっと掴む。

「車、あるんですか?」
「いいえ」
「え? じゃあ、何に乗るんですか?」
「私の背中に乗ってください」
「へ? 背中?」
「そうです」

 ハナさんの声は爽やかだった。
 そんなこと当たり前じゃないですかー。
 という心の声が聞こえてきそうなほど、爽やかだった。

「三人を背中に?」
「そうです。熊に戻れば、乗せられます」
「いやいやいや、無理じゃないですか。それにハナさん、怪我してるじゃないですか」
「大丈夫です」
「ちょっとハナ、こいつら乗せていくの?」

 ヤナギさんが不満しかない声で言って、私たちを見る。
 そりゃそうだ。
 怪我人、いや怪我熊に三人も乗るなんて無理だと思う。でも、彼女は断言した。

「乗せて行くから」
「……私も行く。熊の国で車借りてきて、車で送る」

 苦虫を千匹ほど噛みつぶして、飲み込んで、もう千匹を噛んだような顔をしてヤナギさんが走り出す。

 そして、三十分後。
 私は、セレネさんの運転が素晴らしいものだったと褒め称えたい気持ちでいっぱいになっていた。

「うわあああああっ」

 ヤバい、ヤバすぎる。
 ヤナギさんの運転がヤバくてヤバい。
 語彙力が失われ、ヤバいしか言えない。

 行きの方がマシ。
 そんな状況がやってくるとは思わなかった私は、恐怖と吐き気に襲われながら猫編集部を目指すことになったのだった。
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