モフ愛強めの私はまったりもふもふライフを目指す

羽田宇佐

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大体、大団円だよね

第25話 お家へ帰ろう

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 神様はいる。
 ドSだけれど。
 すっごくドSだけれども。

 神様は、運転手に向かないヤナギさんが運転する車に乗るという試練を私に与えた。でも、慈悲はあるらしく命は奪われずにすんだ。おかげでボロボロになりながらも猫編集部に辿り着いて、今は目をつり上げたタロウ編集長に睨まれている。

「おい、人間。こいつらは何だ。そして、車はどうした?」

 とっぷり日が暮れて、頼りない街灯がぽつんとついた猫編集部がある建物の前。
 タロウ編集長はお怒りだった。

「見ての通り、いや、今は人間ですけど。彼女たちは畑を荒らしていた熊です。車は、色々あって壊れました」

 私はタロウ編集長の疑問にすべて答えて、セレネさんを見る。でも、彼女はこの状況を面白がっているようで、助けてくれそうにない。

 じゃあ、熊の方はどうなんだと斜めを後ろを見ると、ハナさんがぴっと背筋を伸ばしてタロウ編集長に自己紹介を始めた。

「ハナです。そして、こっちはヤナギです。畑を荒らしたのも、車を壊したのも私たちです。すみません」

 一人は深々と、もう一人は威嚇しつつ頭を下げる。
 けれど、そんなことはどうでも良いとばかりにタロウ編集長がいつもよりも低い声で言った。

「誰が熊を連れてこいと言った!」

 何故か、文句は私にぶつけられる。
 タロウ編集長は、猫の姿だったら毛が逆立ってるような状態になっていた。爪が出た手で引っかかれたとしても、おかしくない。

 私、神様がいるって思ったけれど、それって間違いだったかもしれない。うん、いるのは悪魔だ。

 タロウ編集長、めちゃくちゃ機嫌が悪い。
 ここで、連れてきたわけではなく送ってもらっただけだって言ったら、屁理屈を言うなって怒られそうだ。

 どうしたものか。
 私は、頭から湯気が出てきそうなタロウ編集長に隠れるようにため息を一つつく。それから、もう一つついでにため息をつくと、サカナさん、いや、救いの女神が姿を現した。

「まあまあ、いいじゃないですか。熊の一頭や二頭。いえ、今は一人や二人ですね。とりあえず、中に入ってお茶でも飲んでいってください。おやつもありますよ」
「おい、サカナ。よく聞け。この熊たちは車を壊した犯人だ」
「まあ、そんなこともありますよ。どうせオンボロ車でしたし、熊が壊さなくても近いうちに壊れていたと思います。だから、気にするほどのことじゃないですよ」

 サカナさんは血管が切れそうなタロウ編集長を華麗にあしらい、熊二人を呼び寄せる。

「ついてきて下さい」
「わたしもお茶ほしい!」

 乙女が元気よく言って、サカナさんの服を掴む。

「もちろん、乙女の分も瀬利奈さんの分もありますよ」
「あの、私たちそろそろ帰らないと」

 私は、闇色に染まった空を見上げる。
 お茶を飲んでゆっくりしたい。
 おやつだって食べたい。
 でも、辺りは真っ暗だ。

 猫の国は、人間の世界と時間が連動している。何時かはわからないけれど、空に輝く星を見る限りのんびりしている時間はなさそうだ。早く帰らないと、お母さんが心配する。

「大丈夫ですよ、瀬利奈さん。楓がお家に連絡をしています。帰りも車で送りますから、心配いりません」

 柔らかな声でサカナさんが言って、歩き出す。
 けれど、それを引き留めるようにハナさんが言った。

「あの、私たちも帰らないと」
「もう遅いですし、泊まっていったらどうですか。布団くらいは出せますよ」
「でも、悪いです。あちらの猫さんも怒っていますし」

 ハナさんが恐る恐るといった様子でタロウ編集長を見る。

「ああ、あの人は気にしないでください」
「そうそう。泊まっていきなよ」

 セレネさんが軽い口調で言って、ハナさんとヤナギさんの腕を掴む。そして、二人を引きずるようにして歩き出す。

「ちょ、ちょっと。私、まだ泊まっていくなんて――」

 ヤナギさんの言葉が途切れ、ずるずると二人が連れ去られていく。

 うん。これ、お泊まり決定だ。
 あの二人、きっと帰れない。

 タロウ編集長は怒っているけれど、悪い人じゃないからそのうち怒ることに飽きて二人を許してくれるはずだ。

「リナ、行こう!」

 弾んだ声で乙女が言う。

「行こっか」

 私は、乙女に手を引かれて猫編集部の中に入る。すると、おやつの煮干しを前に微妙な顔をした熊二人が見えた。

 気持ちはわかる。
 わかるけれど、ぜひ食べて欲しい。
 熊の国のおやつとは違うかもしれないけれど、食べたら美味しいから。

 でも、それを口にする前にお茶が運ばれてきて、乙女がはしゃいで、セレネさんが上機嫌で話し出す。

 結局、なんだかんだと長居してから、私と乙女は猫編集部を後にした。
 ミヨルメントへ続く廊下を歩く乙女は、疲れたのか眠たそうな顔をしている。それでも二人でてくてくと扉に向かって足を進めていると、乙女がぴたりと止まった。

「ねえ、リナ。わたし、役に立った?」

 眠そうな顔に期待を混ぜて、私の服を引っ張る。
 長いようで短い一日を振り返れば、乙女は頑張った。

 猫に戻って熊の頭に飛びついた時には驚いたけれど、無鉄砲にも思える彼女がいなかったら問題が解決するまでにもう少し時間がかかったかもしれない。

「もちろん! 乙女がいなかったらもっと大変だったかも」
「ほんと?」
「本当」
「じゃあ、撫でて」

 猫だったら、ぐるぐると喉を鳴らしそうな顔をして乙女がねだる。

「言われなくても撫でるに決まってるでしょ」

 わしゃわしゃと。
 ふわふわの髪を撫でてやる。
 本当に乙女は可愛い。
 猫でも、人間でもそれは変わらない。

 けれど、人間の姿をしている今は、猫を撫でるようにはいかず、私はいつもより遠慮して撫でる。

「もっと」

 乙女は人間でも猫でも同じように撫でて欲しいのか、どんどん近寄ってくる。私と乙女の間にあったはずの空間がなくなり、温かな体がぺたりとくっつく。

 ついでに腕も背中に回され、ぎゅーと抱きつかれて少し、いや、かなり苦しい。それでも手に触れる長い髪を撫で続けてはいるけれど、乙女は足りないとばかりに頭をぐりぐりと私の肩に押しつけてくる。

「わたしも泊まりたかったな」

 撫でられたりないらしい乙女が拗ねたように言う。

「猫編集部、そんなに好きなの?」
「好きだけどそうじゃなくて。泊まったら猫にならなくていいし、リナともっとお話できるもん」

 こういうところ、とても可愛い。
 乙女のお願いなら、何でも聞いてあげたいと思う。
 でも、現実は厳しいのだ。

「私ももっと話したいけど、次に来たときにとっておこうね」

 頬を擦り付けてくる乙女を引き剥がして髪を撫でてやると、服の裾をぎゅっと掴まれる。

「わかった」

 不満が残る顔をしているものの納得したのか、服を掴んだまま乙女が歩き出し、あっという間にミヨルメントへ続く扉に辿り着く。

 私は、そっと扉を開ける。
 すると、乙女がキジトラ模様の猫に戻って「にゃあ」と鳴いた。彼女を抱き上げて倉庫を通り抜け、ミヨルメントの店内に出る。すると、腕の中から乙女が飛び出し、休憩スペースの椅子に飛び乗って丸くなった。

 猫に戻っても乙女は乙女で、相変わらず可愛い。

 私はふさふさのメインクーンの隣に座って、ふわふわの毛を撫でる。お喋りな乙女がみゃあみゃあと鳴いて、可愛いなあ、と呟いたところで店長の楓さんがやってくる。

「瀬利奈さん、お疲れ様です。熊の国との国境はどうでしたか?」
「ええっと、大変なことも面白いこともたくさんあって、今は体に力が入らないくらい疲れててこんにゃく状態です」
「じゃあ、急ぎましょうか。サカナちゃんに聞いていると思いますが、家まで送ります」
「あの、私の自転車は――」
「もう車に乗せてありますよ」

 軽やかに楓さんが言い、外へ出る。
 後をついて車に乗り込むと、猫の国で乗った車とは違って滑らかに走り出した。

 膝の上には、丸くなった猫が一匹。
 すやすやと小さな寝息を立てて眠っている。
 私は欠伸を噛み殺す。
 飛んだり、跳ねたりすることのない車は眠気を誘う。

「眠っても大丈夫ですよ」

 優しい楓さんの声に、私は遠慮も忘れて瞼を閉じた。
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