護堂先生と神様のごはん 幽霊屋台は薄暮を彷徨う

第3章 墓場とラーメン

13.本業

『あっ、ほんとですねーw』

　青年は呑気に語尾に草を生やしている。ご主人の方も落ち着いたもので、何事も無かったようにのんびりとスープをかき混ぜていた。

『いいんですか？　お代貰ってないですけど……』

　私が尋ねると、ご主人は頷きながら答えた。

『マア大丈夫。アノ人、霊界ニ向カッテクレテヨカッタ。魂ヲ彼岸ヘ渡スノハ、私ノ本来ノ仕事』

　それはそうかも知れないが。

『貴方、先程何故私ガ拉麺作ッタか聞イタ。私ノ仕事、死神。イツモ悲シイ仕事。誰カニ喜んで貰えるコトしてみたカッタ』

　ご主人の表情は相変わらず見えないが、彼が心の底からそう思っている事は伝わってきた。

　確かに、人の死際に立つ仕事は、常に悲しみの多い現場に立ち会う事になる。

　そんな中で、誰かを幸せな気持ちにしてみたかったという動機は、私でも良く分かる気がした。

『……あの、ラーメン本当に美味しかったです。これからも頑張ってください』

　私がそう告げると、死神は少し照れたようにハイと頭を下げた。

『さて、そろそろ戻るかの、今頃宵山もお前さんを探し回っとるじゃろう』

『わ！　大変だ！』

　私はもう一度ご主人に頭を下げると、神様と共に霊園を出た。幽霊の青年も笑顔で手を振っている。

（参ったな……これ、宵山に何て説明しよう……）

　私が言い訳を思案しながら路上に出ると、道の先から声が聞こえてきた。