護堂先生と神様のごはん 幽霊屋台は薄暮を彷徨う

栗槙ひので

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第3章 墓場とラーメン

12.美味しさの力

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(やっぱり話し掛けるんじゃなかった……)

『まあまあ、お父さん! この店の美味いラーメン食べたら、辛い事もきっと忘れられますよっ!』

 私が後悔していると、先程の人懐こい青年が空気の読めない明るさで声を掛けてきた。

『誰がお父さんだっ!』

 案の定、ネチネチ親父はご立腹だ。

 ゴトリ

 気不味い空気に、死神の主人が一石ならぬ一杯を投じてくれた。
 親父は舌打ちしながら、目の前に置かれたラーメンに箸をつける。

『!?』

 かったるそうな動作で一口麺をすすった彼は、急に目を見開いて勢い良く食べ始めた。

『ほらほら~、ね?』

 自分が作った訳でもないのに、青年は得意そうだ。親父は聞こえているのかいないのか、一気にラーメンを平らげると、大きく息をついた。

『……確かにこの世のものとは思えねえ美味さだ。なんか、人生色々上手くいかなかったけど、そろそろ成仏して次の人生頑張ってみるかなぁ……』

 親父はしみじみと呟く。

『面白いくらいに効果ありましたね』

 私がそう言うと、神様はうんうんと頷いた。

『美味いもん食って、好きな事して、しっかり寝れば、大体の悩みはなんとかなるもんじゃ~』

『それって、まだ生きてる場合ですよね……?』

 私は思わず突っ込んでしまったが、まあ皆がそれで納得いくならこれ以上触れまい。

『ありがとうな……』

 親父は、先程までの表情とは打って変わって、主人に晴れやかな笑顔を見せるとキラキラと輝き消えていった。

(本当に成仏した……!)



 私は初めて目の当たりにした神秘的な光景に、思わず感動しかかったが、少し冷静になってから声を上げた。

『いや、これ食い逃げじゃないですか!?』
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