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第1章 食いしん坊の幽霊

14.新たな姿と任務

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 鏡の中央に、青白く輝く炎のようなものが見えて、やがてそれは人の象となっていく。
 直ぐに自身の視界も強く眩い光で満ちてきた。

『お、おいおい、お前!?』

 近くで西原が慌てたような声を上げるのが聞こえた。光も収まってきたようだ。



 そっと目を開けると、目の前にはトレンチコートを着て、黒縁眼鏡を掛けた中学生位の少年が立っていた。つまり、この鏡に映っているのは、

『……俺、だよな?』

『いくら何でも、若返りすぎじゃねぇのか? 故障しちまったかい?』

『鏡は正常に作用しておる。友和、貴様そのくらいの年齢の時に、何か大きな節目の様な出来事はなかったか?』

 動揺する俺達とは対照的に、閻魔は落ち着いて尋ねた。

『節目……?』

 俺は小首を傾げる。何も思い当たらない。

『中坊の時の節目か……。小せえ頃から隣同士だったし、引っ越しとかも無かったよな。ああ、確かお前、その頃から考古学者になるって言い始めて、進路選択してなかったか?』

『そうだったか? もう、忘れたな……』

『とにかく、貴様らにはその姿でしばらく修行に当たって貰うぞ。ついでに、こちらの神にも協力をお願いした』

 閻魔が言うと、垂幕の裏からひょっこりと神様が顔を出した。

『神様!?』

 それは紛れもなく脱力系食いしん坊のうちの神様であった。こちらに向かって楽しそうに、ぱたぱたと手を振っている。
 続けて閻魔は、机の端に置いてある大きな印鑑を持ち上げて、巻物にドカンと捺印した。

『それでは、美味い料理を期待しているぞ!』

 神様はこちらに歩いてくると、

『此奴らの本気の料理なら、食わずにいられんからな』

 と言って、いつものようにニヤニヤと笑った。それを受けて、俺もひとつ溜息を吐くと、

『乗り掛かった船だ。やるなら徹底的にやってやろう。霊界の食材も色々と試してみたいしな。まずは色々食べてみるとするか!』

 そう言って拳を握った。確かに、身体につられて気持ちも少し若返ったような気がする。

『早速腹が減ってきたわい』

『俺もだ! 霊界に居たって美味いもん食いたいしな! ……ってなんでぇ、全員幽霊の癖に食い意地が張っていやがる』

 そう言って西原はガハハと笑った。

 こうして俺達は、霊界と人間界を行き来しながら、黒い霧の謎と新たな霊界料理の開発に挑む事になった。
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