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第2章 となりの女神と狐様
6.かくれんぼ
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動いていない筈の心臓が飛び上がる。押入れを開けて幽霊が出てきたら、驚くのは本来人間の方なのだが。
ここからは、足元しか見えないが、夏也は中をざっと確認しただけのようで、そのまますぐに戸を閉めようとした。その時、
カタ……
頭上で音がした。さっき開けた時にバランスを崩していたのか、鞄が倒れてしまったようだ。
夏也は音に気付いたのか、襖を閉める手を止めて押入れを覗き込んだ。
鞄を引っ張り出している音がする。暫くして、小さく呟く声がした。
『たまご……焼き?』
どうやら俺の手帳を見つけて読んでいるらしい。
(なんか恥ずかしいな……)
俺は布団の中で小さく丸まった。少し待つと、気が済んだのか夏也は鞄を戻して襖を閉めた。周囲が再び闇に沈む。
俺はようやくほっとして、暫くそこでじっと様子をうかがっていた。少しして玄関の方からトラックのエンジン音が聞こえてくる。
(さっきの男は帰ったのか? 夏也も一緒に出かけただろうか?)
俺は恐る恐る襖を開ける。すると、すぐ目の前に足があった。
『あ……!』
俺は驚いて、つい声を上げてしまう。
『そんなとこで、なーにをしとるんじゃ?』
覗き込んできた顔は、夏也ではなく神様のものであった。
『アンタか……脅かさないでくれよ……。夏也は?』
『夏也? ああ、さっきの人間達か。車に乗って出て行ったぞ。友和の知り合いか?』
それを聞いて、俺はやっと布団から這い出すと、立ち上がって鞄の幽霊を引き出した。
『俺の甥だ。どうやら引っ越して来たらしい。アンタずっと家の中に居たのか?』
『いや、ちゃんとパトロールに出かけとったよ。この家の方でいつもと違う気配を感じたから、今戻って来たとこじゃ』
意外な事に、ちゃんと仕事はしているらしい。
『そうか、何か変わった事は?』
俺はポケットの調味料を鞄に移しながら尋ねる。幽霊の鞄には、幽霊の物はちゃんと納められそうだ。
『星呼山の方にも向かってみたが、今のところ何もないのう……。この家にも誰も来ないし、こっちに来ても美味い飯が食べられんとは……』
神様は心底残念そうな顔をする。やはり関心は飯が中心のようだ。
『そうか……。こっちは調味料を取りに来たんだ。今頃、西原が霊界きのこの味付けに頭を巡らせているだろうから、完成したら連絡するよ』
『それは楽しみじゃのう!』
『よし、もう少し鞄に入りそうだから、夏也が帰って来る迄に台所で使えそうな物を見繕ってみるか』
俺は台所へ戻り、もう少し棚を漁る事にした。神様も後ろからついてくる。
『久しぶりに友和の料理も食べたいのう……。なんか作ってくれんかの?』
俺がしばらく作業していると、神様が声を掛けてきた。
ここからは、足元しか見えないが、夏也は中をざっと確認しただけのようで、そのまますぐに戸を閉めようとした。その時、
カタ……
頭上で音がした。さっき開けた時にバランスを崩していたのか、鞄が倒れてしまったようだ。
夏也は音に気付いたのか、襖を閉める手を止めて押入れを覗き込んだ。
鞄を引っ張り出している音がする。暫くして、小さく呟く声がした。
『たまご……焼き?』
どうやら俺の手帳を見つけて読んでいるらしい。
(なんか恥ずかしいな……)
俺は布団の中で小さく丸まった。少し待つと、気が済んだのか夏也は鞄を戻して襖を閉めた。周囲が再び闇に沈む。
俺はようやくほっとして、暫くそこでじっと様子をうかがっていた。少しして玄関の方からトラックのエンジン音が聞こえてくる。
(さっきの男は帰ったのか? 夏也も一緒に出かけただろうか?)
俺は恐る恐る襖を開ける。すると、すぐ目の前に足があった。
『あ……!』
俺は驚いて、つい声を上げてしまう。
『そんなとこで、なーにをしとるんじゃ?』
覗き込んできた顔は、夏也ではなく神様のものであった。
『アンタか……脅かさないでくれよ……。夏也は?』
『夏也? ああ、さっきの人間達か。車に乗って出て行ったぞ。友和の知り合いか?』
それを聞いて、俺はやっと布団から這い出すと、立ち上がって鞄の幽霊を引き出した。
『俺の甥だ。どうやら引っ越して来たらしい。アンタずっと家の中に居たのか?』
『いや、ちゃんとパトロールに出かけとったよ。この家の方でいつもと違う気配を感じたから、今戻って来たとこじゃ』
意外な事に、ちゃんと仕事はしているらしい。
『そうか、何か変わった事は?』
俺はポケットの調味料を鞄に移しながら尋ねる。幽霊の鞄には、幽霊の物はちゃんと納められそうだ。
『星呼山の方にも向かってみたが、今のところ何もないのう……。この家にも誰も来ないし、こっちに来ても美味い飯が食べられんとは……』
神様は心底残念そうな顔をする。やはり関心は飯が中心のようだ。
『そうか……。こっちは調味料を取りに来たんだ。今頃、西原が霊界きのこの味付けに頭を巡らせているだろうから、完成したら連絡するよ』
『それは楽しみじゃのう!』
『よし、もう少し鞄に入りそうだから、夏也が帰って来る迄に台所で使えそうな物を見繕ってみるか』
俺は台所へ戻り、もう少し棚を漁る事にした。神様も後ろからついてくる。
『久しぶりに友和の料理も食べたいのう……。なんか作ってくれんかの?』
俺がしばらく作業していると、神様が声を掛けてきた。
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