護堂先生と神様のごはん 護堂教授の霊界食堂

栗槙ひので

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第2章 となりの女神と狐様

9.神に触れる

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 夏也もついに観念したようで、渋々ながら弁当の蓋を取った。
 そう、彼の前にあったのは、奇しくもあの唐揚げ弁当であった。生姜醤油で味付けされた鶏のから揚げが五つ、サラダや卵焼きも添えてある。俺も大好きな弁当だ。

『わ、美味しそう!』

『おおー! これこれ!』

 神様はいつものように素手でから揚げに手を伸ばした。するりとから揚げの幽霊が摘み出される。

『えっ!?』

 俺が初めてそれを目撃した時と同様に、夏也はかなり仰天した様子だ。親戚だけあるとリアクションも似てくるのかもしれないが、同じ展開であれば、全人類の反応がこうなるだろう。

 神様は夏也の驚きなど意に介さず、そのから揚げの幽霊をもぐもぐと平らげると、すぐに次の半透明のブロッコリーをつまみ上げている。

『て、手品か何かですか?』

『なにがじゃ? なんでわしが手妻てづま等するか』

『だ、だってその、から揚げから薄いから揚げが出てきてその……』

『わしは神じゃからな。人の世界の「もの」そのものを取り込む必要はないのじゃ。わしが食べておるのは、貢物みつぎものに込められた「思い」じゃよ』

(そういや俺にも同じ説明をしていたな……)

 俺がそうして過去を振り返っていると、夏也が唐突に神様に向かって手を伸ばした。

『えいっ』

 伸ばした彼の手は、神様の肩にぽんと置かれる。俺は一瞬思考を停止した。

『なんじゃ、重いぞ。疲れるからやめい』

 神様も一瞬動きを止めたが、直ぐに夏也の手を振り落とそうと、身をよじる。おそらく、神様も不意を突かれて驚いたのだろう。

(まさか、見えるだけでなく触れられるとは……)

『身体には触れるんですね? 食べ物は幽霊しか食べないのに……』

 夏也の手から逃れて、神様は座り直すと言った。

『人の世にとどまれるように、わしは人の形に身をやつしておるのだ。だが、大概の人間には見る事さえ出来ない仮の姿だ。友和にはわしが見えた。そしてお前もな。しかも、わしに触れる事さえ出来るようだ。血筋なのかもしれんな……』

 神様はそこで少し言葉を切った。俺は神様に目配せすると、西側の部屋から廊下に出て、弁当を食べている二人の後ろをそっと通り抜け、二階へ上がった。 

(朝日が昇るまで、今夜は二階の奥の部屋で隠れていよう)

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