103 / 131
第6章 言葉たちを沈めて
2.神社の思い出
しおりを挟む
『そーいや、お前はいつもそこでそうやって本を読んでたよな……あ、でも』
俺はふと、ある日の夕方の事を思い出した。もうすぐ期末試験で、友和に中学卒業後の進路について尋ねた時の事だ。
『お前がさ、急にここで考古学者目指すって宣言した時はびっくりしたわ』
『え……そんな事あったか?』
『あったさ、かなり印象深かったから覚えてるぜ、そん時お前確か……探さなきゃならないものがあるって言ってたんだ』
『探さなきゃならないもの……?』
友和はぽかんとしている。すると、広場の向こうにある社から、着物姿の女性が出て来た。
『サザナミ様!』
女神はにっこりと笑うと、こちらに向かって歩いて来た。俺は直ぐに、友和が月神と話した内容を、彼女にも共有する。
『そうですか……友和さんは、子供時代にアセビ様とお会いしていたんですね……』
『らしいな。だが何故かすっかり忘れていたんだ……』
そう言って目を伏せる友和に向かって、彼女は半ば独り言のように呟いた。
『……もしかすると、アセビ様ご自身が友和さんの記憶を消されたのかも知れませんね』
『えっ?』
俺も友和も思わず顔を上げる。
『大変お優しい方だったと聞いています。蛮神に勝負を挑むに当たって、友和さんを心配させまいとしたのかも知れません……』
『術が失敗すると分かっていたという事か…?』
『それは分かりませんが、上手くいく可能性が限りなく低かったのかも知れません……』
俺達は沈黙する。
『……そうかもしれないな。ありがとう。やっぱり今日はもう戻るよ』
友和はそう言うと、腰を上げて日向に出た。みるみる身体の端から光に溶けていく。
『……なんだか元気がありませんね』
『……今は仕方ないですね。そういや、神様方の会議では蛮神について何か話はあったんですか?』
俺が尋ねると、サザナミ様は首を小さく振った。
『強力な悪霊が私達の地域で悪さをしており、月神の術士部隊で春までに再封印を図ると、報告はそれだけです……』
『……そうですか』
少し黙った後、俺はサザナミ様に挨拶して自宅に向かった。うっかり日光を浴びないように、日陰を選んで歩いて行く。
(アセビ様の記憶は、俺には無い。それは元々会った事が無いからだろう。だけど友和には彼女との記憶が断片的に残っていた……)
アセビ様は、ここいらの氏神としてずっと我々を見守ってくださっていた。繊細なところのある友和の事も、特に心配してくれていたのかもしれない。
そんな神様は、突然自分が消えて心配をかけないよう、自分の事を忘れさせてまで蛮神に立ち向かってくれた。
そして悪い予感の通り、女神は術に失敗し、蛮神に取り込まれた。
その三十年後、記憶を無くしていたにも関わらず、友和は遺跡を掘り起こした。
(友和……お前もしかすると、)
そんな事を考えながら歩いている内に、俺は自宅の前に着いていた。
俺はふと、ある日の夕方の事を思い出した。もうすぐ期末試験で、友和に中学卒業後の進路について尋ねた時の事だ。
『お前がさ、急にここで考古学者目指すって宣言した時はびっくりしたわ』
『え……そんな事あったか?』
『あったさ、かなり印象深かったから覚えてるぜ、そん時お前確か……探さなきゃならないものがあるって言ってたんだ』
『探さなきゃならないもの……?』
友和はぽかんとしている。すると、広場の向こうにある社から、着物姿の女性が出て来た。
『サザナミ様!』
女神はにっこりと笑うと、こちらに向かって歩いて来た。俺は直ぐに、友和が月神と話した内容を、彼女にも共有する。
『そうですか……友和さんは、子供時代にアセビ様とお会いしていたんですね……』
『らしいな。だが何故かすっかり忘れていたんだ……』
そう言って目を伏せる友和に向かって、彼女は半ば独り言のように呟いた。
『……もしかすると、アセビ様ご自身が友和さんの記憶を消されたのかも知れませんね』
『えっ?』
俺も友和も思わず顔を上げる。
『大変お優しい方だったと聞いています。蛮神に勝負を挑むに当たって、友和さんを心配させまいとしたのかも知れません……』
『術が失敗すると分かっていたという事か…?』
『それは分かりませんが、上手くいく可能性が限りなく低かったのかも知れません……』
俺達は沈黙する。
『……そうかもしれないな。ありがとう。やっぱり今日はもう戻るよ』
友和はそう言うと、腰を上げて日向に出た。みるみる身体の端から光に溶けていく。
『……なんだか元気がありませんね』
『……今は仕方ないですね。そういや、神様方の会議では蛮神について何か話はあったんですか?』
俺が尋ねると、サザナミ様は首を小さく振った。
『強力な悪霊が私達の地域で悪さをしており、月神の術士部隊で春までに再封印を図ると、報告はそれだけです……』
『……そうですか』
少し黙った後、俺はサザナミ様に挨拶して自宅に向かった。うっかり日光を浴びないように、日陰を選んで歩いて行く。
(アセビ様の記憶は、俺には無い。それは元々会った事が無いからだろう。だけど友和には彼女との記憶が断片的に残っていた……)
アセビ様は、ここいらの氏神としてずっと我々を見守ってくださっていた。繊細なところのある友和の事も、特に心配してくれていたのかもしれない。
そんな神様は、突然自分が消えて心配をかけないよう、自分の事を忘れさせてまで蛮神に立ち向かってくれた。
そして悪い予感の通り、女神は術に失敗し、蛮神に取り込まれた。
その三十年後、記憶を無くしていたにも関わらず、友和は遺跡を掘り起こした。
(友和……お前もしかすると、)
そんな事を考えながら歩いている内に、俺は自宅の前に着いていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
【完結】25年の人生に悔いがあるとしたら
緋水晶
恋愛
最長でも25歳までしか生きられないと言われた女性が20歳になって気づいたやり残したこと、それは…。
今回も猫戸針子様に表紙の文字入れのご協力をいただきました!
是非猫戸様の作品も応援よろしくお願いいたします(*ˊᗜˋ)
※イラスト部分はゲームアプリにて作成しております
もう一つの参加作品「私、一目惚れされるの死ぬほど嫌いなんです」もよろしくお願いします(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
さよなら、私の愛した世界
東 里胡
ライト文芸
十六歳と三ヶ月、それは私・栗原夏月が生きてきた時間。
気づけば私は死んでいて、双子の姉・真柴春陽と共に自分の死の真相を探求することに。
というか私は失くしたスマホを探し出して、とっとと破棄してほしいだけ!
だって乙女のスマホには見られたくないものが入ってる。
それはまるでパンドラの箱のようなものだから――。
最期の夏休み、離ればなれだった姉妹。
娘を一人失い、情緒不安定になった母を支える元家族の織り成す新しいカタチ。
そして親友と好きだった人。
一番大好きで、だけどずっと羨ましかった姉への想い。
絡まった糸を解きながら、後悔をしないように駆け抜けていく最期の夏休み。
笑って泣ける、あたたかい物語です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる