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第二話 青年と人妻の危険な関係
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それからというもの──。
美代子は健司の目を盗んでは、銀太郎が借りている波止場近くの小さなアパートで逢瀬を重ねた。
潮の香りが染みついたその部屋は、美代子の心を無性に駆り立てる。
ただの男がいて、そこに自分はただの女になる。
度胸もないのに小賢しく、粗暴なだけの男とは違う、銀太郎のたくましい腕に抱かれている時だけ、美代子は思うさま、女らしさを見せた。
日に焼けた広い背中には、刺青の一つも入っていない。
港での荷役仕事でついたであろう無数の小さな傷跡に指を這わせると、それがかえって彼の生きてきた証のように思えて、美代子はたまらなく愛おしくなった。
そして、入ってくる男の太い器官、これが好きだと言わんばかりに足を、銀太郎に絡ませる。
「姐さん、ほんまに綺麗じゃ……」
銀太郎の首に流れる汗と脂を舐め取ろうと、舌を這わせて、「あんたは、そればっかりやな」と憎まれ口を叩く。
そして、欲深く、腰を下から動かしていく。
「ああ、もうそんなん、いかんです。姐さん、こんなんすぐいってしまう!」
「ええけん、いき。早う遠慮せんで、いき!」
美代子には、彼が可愛くてたまらなかった。
彼が吠えるようにして果てると、それを抱きしめて、子供を寝つかせるようにその背を叩いて、子守唄を歌い始めた。
銀太郎は、「姐さん、そんなんせんで。どうしてええかわからんようなる」と、静かに美代子の髪を撫でる。
その言葉が、美代子の乾いた心にどこまでも染み渡っていく。
健司が決して与えてはくれない、飾り気のない愛情に、美代子は自分からも深い愛情を与えたいと思っていた。
この安らぎを手放したくない。
そう思うほどに、この安らぎをいつでも奪い去ることのできる夫への憎しみが、黒い炎のように燃え上がった。
──若頭の妻や言うても、あん人はうちにお金や全然入れてくれん。貧乏くさい生活させられて、何の甲斐もない。ホンマつまらんことで死んだらええのに。
そして、ある夜のこと──。
「姐さん、もう跡が消えとる。ほんま嬉しいわ」
そう言って銀太郎が、美代子の頬をなでる。
この優しさに、美代子は胸が焼けるように、彼が愛おしくなった。
そして、夫への怒りは、もはや殺意のようなものに近づいていた。
自慢の顔に痣をつけたこと、そしてその不始末を人に擦ろうとした恨み。
「あん人、健司は……近ごろどんな様子なん?」
ある夜、銀太郎の胸に頬をうずめながら、美代子はさりげなく尋ねた。
「若頭は……相変わらずピリピリしとります。最近、帳簿のことでなんか揉めとるみたいで」
「帳簿……って?」
「へえ。なんや金の流れがどうとか……。わしら下っ端にはよう分からんのやけど、夜中に一人で算盤弾いとるみたいですわ」
その言葉に、美代子の心臓が跳ねた。
──裏金。
このところ、夜毎に若い衆を誘って瓦町で遊び呆けている。
それを一度、『こんな遅うなるんだったら、連絡くらいほしい』と言ったばかりに、あの男にひどい乱暴を受けて、悲鳴を上げさせられ、最後に痣が残された。
最近の健司の羽振りの良さ。
その金の出処を、ずっと不審に思っていた。
「姐さんも気ぃつけて。なんか胸騒ぎしてくる」
「胸騒ぎってどんなんか聞かせて」と、美代子は彼の胸に唇を寄せて、強く吸い付く。
銀太郎が「あぁっ、はっ、はっ、ね、姐さん」と息を荒くすると、「犬みたいな色っぽい声」と笑って、そのまま歯を立てていく。
銀太郎の欲望に火がついた。
その夜は、瀬戸の海のように塩辛い互いの肉体を、強く求め合って、部屋の中を二人の匂いで満たしていった。
その最後に、美代子は足を震わせて「そんなんできるん? そんなん! ああっ」と、大きな声で鳴いた。
美代子は健司の目を盗んでは、銀太郎が借りている波止場近くの小さなアパートで逢瀬を重ねた。
潮の香りが染みついたその部屋は、美代子の心を無性に駆り立てる。
ただの男がいて、そこに自分はただの女になる。
度胸もないのに小賢しく、粗暴なだけの男とは違う、銀太郎のたくましい腕に抱かれている時だけ、美代子は思うさま、女らしさを見せた。
日に焼けた広い背中には、刺青の一つも入っていない。
港での荷役仕事でついたであろう無数の小さな傷跡に指を這わせると、それがかえって彼の生きてきた証のように思えて、美代子はたまらなく愛おしくなった。
そして、入ってくる男の太い器官、これが好きだと言わんばかりに足を、銀太郎に絡ませる。
「姐さん、ほんまに綺麗じゃ……」
銀太郎の首に流れる汗と脂を舐め取ろうと、舌を這わせて、「あんたは、そればっかりやな」と憎まれ口を叩く。
そして、欲深く、腰を下から動かしていく。
「ああ、もうそんなん、いかんです。姐さん、こんなんすぐいってしまう!」
「ええけん、いき。早う遠慮せんで、いき!」
美代子には、彼が可愛くてたまらなかった。
彼が吠えるようにして果てると、それを抱きしめて、子供を寝つかせるようにその背を叩いて、子守唄を歌い始めた。
銀太郎は、「姐さん、そんなんせんで。どうしてええかわからんようなる」と、静かに美代子の髪を撫でる。
その言葉が、美代子の乾いた心にどこまでも染み渡っていく。
健司が決して与えてはくれない、飾り気のない愛情に、美代子は自分からも深い愛情を与えたいと思っていた。
この安らぎを手放したくない。
そう思うほどに、この安らぎをいつでも奪い去ることのできる夫への憎しみが、黒い炎のように燃え上がった。
──若頭の妻や言うても、あん人はうちにお金や全然入れてくれん。貧乏くさい生活させられて、何の甲斐もない。ホンマつまらんことで死んだらええのに。
そして、ある夜のこと──。
「姐さん、もう跡が消えとる。ほんま嬉しいわ」
そう言って銀太郎が、美代子の頬をなでる。
この優しさに、美代子は胸が焼けるように、彼が愛おしくなった。
そして、夫への怒りは、もはや殺意のようなものに近づいていた。
自慢の顔に痣をつけたこと、そしてその不始末を人に擦ろうとした恨み。
「あん人、健司は……近ごろどんな様子なん?」
ある夜、銀太郎の胸に頬をうずめながら、美代子はさりげなく尋ねた。
「若頭は……相変わらずピリピリしとります。最近、帳簿のことでなんか揉めとるみたいで」
「帳簿……って?」
「へえ。なんや金の流れがどうとか……。わしら下っ端にはよう分からんのやけど、夜中に一人で算盤弾いとるみたいですわ」
その言葉に、美代子の心臓が跳ねた。
──裏金。
このところ、夜毎に若い衆を誘って瓦町で遊び呆けている。
それを一度、『こんな遅うなるんだったら、連絡くらいほしい』と言ったばかりに、あの男にひどい乱暴を受けて、悲鳴を上げさせられ、最後に痣が残された。
最近の健司の羽振りの良さ。
その金の出処を、ずっと不審に思っていた。
「姐さんも気ぃつけて。なんか胸騒ぎしてくる」
「胸騒ぎってどんなんか聞かせて」と、美代子は彼の胸に唇を寄せて、強く吸い付く。
銀太郎が「あぁっ、はっ、はっ、ね、姐さん」と息を荒くすると、「犬みたいな色っぽい声」と笑って、そのまま歯を立てていく。
銀太郎の欲望に火がついた。
その夜は、瀬戸の海のように塩辛い互いの肉体を、強く求め合って、部屋の中を二人の匂いで満たしていった。
その最後に、美代子は足を震わせて「そんなんできるん? そんなん! ああっ」と、大きな声で鳴いた。
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