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第三話 欲望と殺意の絡む帳簿
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その日の美代子は、もはや常の彼女ではなかった。
昨晩、夫の健司が夜遅くに帰ってきて、夜食にうどんを作れと言ってきた。
「買い置きしとらんけん、それは無理」と言うなり、健司は「お前、どの口が言いよんや。ご飯食べていけよんは、誰のおかげや思うとんや!」と、手を上げた。
咄嗟に顔をかばうと、「嘘やん」と、ニヤニヤしながら、近寄ってきた。
「そんなんしたら、まるで俺が悪モンみたいやんか。俺はええ夫やろ?」と、美代子の胸元に手を入れてきた。
美代子は、長らく夫に抱かれていなかった。
健司は外で男を発散しており、妻への関心が消えているように思っていた。
「俺も色々、女に手ぇ出してきたけどな、やっぱお前がいっちゃんや思うたわ。なあ、舌出せ。わしのこと吸うてくれ」
そうは言われた時、美代子は彼を突き飛ばした。
「よそで、やらしいことばかりしてきて、あんたみたいな汚い男にやられとうないわ!」
「なんや、お前。そんなん言うんなら、教えるぞ」
そこからの行為は夫のすることではなかった。
愛情も前戯もなく、自分の都合だけを押し付けてきた。
何度もやめてと伝えたが、健司は「俺が悪いんちゃうやろが」と平手打ちをして、彼女を恐怖で黙らせた。
そして、一方的に彼は、彼女に自分を入れて、最後には美代子が逃げたので、中に果てることができず、その身に飛び散らせた。
行為が終わり、美代子が嫌悪の顔でそれを拭き取っていると、健司は「悪かった、悪かったけんな」と謝るような口調でその場を離れた。
──あの男、もう絶対に許さんけんな!
健司が朝から博打に出かけたのを見計らい、美代子は屋敷の中を探し始めた。
狙いは健司の書斎だった。
美代子の心は、銀太郎への愛情と、健司への復讐心が合わさって、透き通るように落ち着いていた。
無造作に週刊誌やエロ本が散らかっている、書斎というには何の品位も文化性もなく、その割には『おれがここに入っとる時、絶対、覗いたらいかんけん。覚えとけよ』と、固く戒められていた秘密の部屋。
大事なものの場所は、想像がつく。鍵のかかった箪笥の引き出し。
ヤクザ者の妻として、多少の悪事には抵抗がない。
ハンドバッグから取り出した固いヘアピンでこじ開けた。
中には、果たして一冊の帳簿が隠されていた。
美代子は、ページをめくっていく。
「あぁ……見っけたわ」
そこには、組に内緒で動かしている金の流れが、生々しく記録されていた。
取引先の名前、日付、金額。
そして、白紙の領収書の束。
これさえあれば、健司を破滅させることができる。
美代子は帳簿を胸に抱きしめた。
これをうまく使えば、あの男も一巻の終わりにさせられる。
いや、これで抹殺してしまうしかない。そう改めて決意した。
美代子は帳簿をハンドバッグにしまい、静かに書斎を後にした。
まだ、誰にこれを渡すべきか、どう動くべきかは考えていなかった。
ただ、盗み出したからには、早く行動しなければならない。彼とて無能ではないからだ。
後戻りのできない一歩を踏み出してしまったことだけは、確かだった。
昨晩、夫の健司が夜遅くに帰ってきて、夜食にうどんを作れと言ってきた。
「買い置きしとらんけん、それは無理」と言うなり、健司は「お前、どの口が言いよんや。ご飯食べていけよんは、誰のおかげや思うとんや!」と、手を上げた。
咄嗟に顔をかばうと、「嘘やん」と、ニヤニヤしながら、近寄ってきた。
「そんなんしたら、まるで俺が悪モンみたいやんか。俺はええ夫やろ?」と、美代子の胸元に手を入れてきた。
美代子は、長らく夫に抱かれていなかった。
健司は外で男を発散しており、妻への関心が消えているように思っていた。
「俺も色々、女に手ぇ出してきたけどな、やっぱお前がいっちゃんや思うたわ。なあ、舌出せ。わしのこと吸うてくれ」
そうは言われた時、美代子は彼を突き飛ばした。
「よそで、やらしいことばかりしてきて、あんたみたいな汚い男にやられとうないわ!」
「なんや、お前。そんなん言うんなら、教えるぞ」
そこからの行為は夫のすることではなかった。
愛情も前戯もなく、自分の都合だけを押し付けてきた。
何度もやめてと伝えたが、健司は「俺が悪いんちゃうやろが」と平手打ちをして、彼女を恐怖で黙らせた。
そして、一方的に彼は、彼女に自分を入れて、最後には美代子が逃げたので、中に果てることができず、その身に飛び散らせた。
行為が終わり、美代子が嫌悪の顔でそれを拭き取っていると、健司は「悪かった、悪かったけんな」と謝るような口調でその場を離れた。
──あの男、もう絶対に許さんけんな!
健司が朝から博打に出かけたのを見計らい、美代子は屋敷の中を探し始めた。
狙いは健司の書斎だった。
美代子の心は、銀太郎への愛情と、健司への復讐心が合わさって、透き通るように落ち着いていた。
無造作に週刊誌やエロ本が散らかっている、書斎というには何の品位も文化性もなく、その割には『おれがここに入っとる時、絶対、覗いたらいかんけん。覚えとけよ』と、固く戒められていた秘密の部屋。
大事なものの場所は、想像がつく。鍵のかかった箪笥の引き出し。
ヤクザ者の妻として、多少の悪事には抵抗がない。
ハンドバッグから取り出した固いヘアピンでこじ開けた。
中には、果たして一冊の帳簿が隠されていた。
美代子は、ページをめくっていく。
「あぁ……見っけたわ」
そこには、組に内緒で動かしている金の流れが、生々しく記録されていた。
取引先の名前、日付、金額。
そして、白紙の領収書の束。
これさえあれば、健司を破滅させることができる。
美代子は帳簿を胸に抱きしめた。
これをうまく使えば、あの男も一巻の終わりにさせられる。
いや、これで抹殺してしまうしかない。そう改めて決意した。
美代子は帳簿をハンドバッグにしまい、静かに書斎を後にした。
まだ、誰にこれを渡すべきか、どう動くべきかは考えていなかった。
ただ、盗み出したからには、早く行動しなければならない。彼とて無能ではないからだ。
後戻りのできない一歩を踏み出してしまったことだけは、確かだった。
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