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【第二部】秘密の授業
嘘つきさん
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約束の火曜日の午前十時。
英恵がパートに出ていき、家には浩一、一人。
インターホンが鳴り、浩一がモニターを見ると、そこには先週よりも少しだけ表情の和らいだ如月芽衣が立っていた。
リビングに招き入れる。
「こんにちは、先生。宿題、やってきました」
「……どうも。まあ、座って」
二人は作業デスクに向かい合う。
芽衣が緊張した手つきでタブレットを操作し、データを開いた。
そこには真夏の日差しを受けて輝く、近所の神社の木漏れ日が描かれていた。
技術的にはまだ拙いが、構図は写真のように正確だ。
そして光を捉えようとする真剣な意志と、どこか湿度を感じさせる絵だった。
「観察力が……感じられるね。光をよく見ようとしてるのが伝わってくるよ」
浩一がプロの目で評価すると、芽衣は安堵の息を漏らした。
「光をもっと眩しいぐらいに強くしたいと思ったのですが、これ以上どうしたらいいのかわからなくて」
「そうだね。ここの影に、もっと青を足してみて。光が強ければ、影も濃くなる」
言われた通りに、色を修正していくと、より光が明確になってきた。
「私、影を強調することも考えたのですが、色の使い方でイメージが変わるのですね」
レッスンは一時間ほどで終わり、タブレットの電源を落とした。
「ふう」
芽衣が椅子に座ったまま、伸びをした。
「……ところで、芽衣さん」
背後の浩一が、低い声で尋ねた。
「はい?」
「この前の土曜、英恵から聞いたよ。君、僕が『オイルマン』だって、かなり前から知ってたんだって?」
芽衣が、「あ」と言わんばかりの顔で、口元を隠した。
浩一は、彼女の反応を待たずに続けた。
「あの日……初めてここに来た日。僕の絵を見て、驚いてたよね。『もしかして浩一さんが?』って」
芽衣は、耳まで赤く染め、俯いて小さく頷いた。
「あれは……知らないふりの演技だった?」
「はい……ごめんなさい。知ってました」
「いつから?」
「英恵さんから……浩一さんがオイルマン先生だって聞いたのは、もう、半年以上前です」
そんな前から、彼女は自分の正体を知っていたのだ。
「私、ずっと『オイルマン』先生のこと……憧れていたんです。そして……その先生が、すぐ間近にいるんだって思ったら……その……だんだん、想いが……」
そう言って、芽衣は自身の胸を抑えた。
「……」
「だから、あの日……回覧板を口実にして……。本当は、先生の仕事場が見たくて。何も知らないふりをして、作品に興味があるふりをして……あなたに、近づきたかったんです」
か細い声での告白。
「ご、ごめんなさい……」
それは、内気な彼女が計算して仕掛けた「接近」だった。
浩一は、数秒間黙り込んだ後、ふっと笑いを漏らした。
「ははは……そうか。まんまと騙されたな」
浩一は俯く芽衣の顎に手をかけ、無理やり上を向かせる。
「……嘘つきさんだよ、芽衣さんは」
その目は、教師ではなく、獲物を見つけた男の目をしていた。
芽衣は、その視線に怯えるどころか、潤んだ瞳で浩一を見つめ返した。
「……先生……嘘をついた悪い生徒には、『おしおき』が、必要だと思いませんか?」
大胆な誘いの言葉だった。
「矯正してください。いじめてください」
浩一は、椅子に座る芽衣に覆いかぶさるようにして、その唇を激しく塞いだ。
レッスン用のデスクが、二人の体重で小さく軋む。
唇が離れ、芽衣が熱い吐息を漏らす。
「出光先生…………」
甘い声に、浩一も教師のような声で、生徒を呼ぶように「芽衣くん」と囁き返した。
そして、芽衣のブラウスのボタンに手をかけながら言う。
「君の嘘は、それだけじゃないだろ」
「え……?」
「芽衣くんの身体には、まだ隠し事がたくさんあるはずだ。君自身も、まだ気づいていない快感がね」
ブラウスが落ちた。
浩一の手が、素肌に触れる。
「それを、一緒に探していこうか」
芽衣は、これから始まる『おしおき』に身を震わせながら、浩一の首に腕を回した。
英恵がパートに出ていき、家には浩一、一人。
インターホンが鳴り、浩一がモニターを見ると、そこには先週よりも少しだけ表情の和らいだ如月芽衣が立っていた。
リビングに招き入れる。
「こんにちは、先生。宿題、やってきました」
「……どうも。まあ、座って」
二人は作業デスクに向かい合う。
芽衣が緊張した手つきでタブレットを操作し、データを開いた。
そこには真夏の日差しを受けて輝く、近所の神社の木漏れ日が描かれていた。
技術的にはまだ拙いが、構図は写真のように正確だ。
そして光を捉えようとする真剣な意志と、どこか湿度を感じさせる絵だった。
「観察力が……感じられるね。光をよく見ようとしてるのが伝わってくるよ」
浩一がプロの目で評価すると、芽衣は安堵の息を漏らした。
「光をもっと眩しいぐらいに強くしたいと思ったのですが、これ以上どうしたらいいのかわからなくて」
「そうだね。ここの影に、もっと青を足してみて。光が強ければ、影も濃くなる」
言われた通りに、色を修正していくと、より光が明確になってきた。
「私、影を強調することも考えたのですが、色の使い方でイメージが変わるのですね」
レッスンは一時間ほどで終わり、タブレットの電源を落とした。
「ふう」
芽衣が椅子に座ったまま、伸びをした。
「……ところで、芽衣さん」
背後の浩一が、低い声で尋ねた。
「はい?」
「この前の土曜、英恵から聞いたよ。君、僕が『オイルマン』だって、かなり前から知ってたんだって?」
芽衣が、「あ」と言わんばかりの顔で、口元を隠した。
浩一は、彼女の反応を待たずに続けた。
「あの日……初めてここに来た日。僕の絵を見て、驚いてたよね。『もしかして浩一さんが?』って」
芽衣は、耳まで赤く染め、俯いて小さく頷いた。
「あれは……知らないふりの演技だった?」
「はい……ごめんなさい。知ってました」
「いつから?」
「英恵さんから……浩一さんがオイルマン先生だって聞いたのは、もう、半年以上前です」
そんな前から、彼女は自分の正体を知っていたのだ。
「私、ずっと『オイルマン』先生のこと……憧れていたんです。そして……その先生が、すぐ間近にいるんだって思ったら……その……だんだん、想いが……」
そう言って、芽衣は自身の胸を抑えた。
「……」
「だから、あの日……回覧板を口実にして……。本当は、先生の仕事場が見たくて。何も知らないふりをして、作品に興味があるふりをして……あなたに、近づきたかったんです」
か細い声での告白。
「ご、ごめんなさい……」
それは、内気な彼女が計算して仕掛けた「接近」だった。
浩一は、数秒間黙り込んだ後、ふっと笑いを漏らした。
「ははは……そうか。まんまと騙されたな」
浩一は俯く芽衣の顎に手をかけ、無理やり上を向かせる。
「……嘘つきさんだよ、芽衣さんは」
その目は、教師ではなく、獲物を見つけた男の目をしていた。
芽衣は、その視線に怯えるどころか、潤んだ瞳で浩一を見つめ返した。
「……先生……嘘をついた悪い生徒には、『おしおき』が、必要だと思いませんか?」
大胆な誘いの言葉だった。
「矯正してください。いじめてください」
浩一は、椅子に座る芽衣に覆いかぶさるようにして、その唇を激しく塞いだ。
レッスン用のデスクが、二人の体重で小さく軋む。
唇が離れ、芽衣が熱い吐息を漏らす。
「出光先生…………」
甘い声に、浩一も教師のような声で、生徒を呼ぶように「芽衣くん」と囁き返した。
そして、芽衣のブラウスのボタンに手をかけながら言う。
「君の嘘は、それだけじゃないだろ」
「え……?」
「芽衣くんの身体には、まだ隠し事がたくさんあるはずだ。君自身も、まだ気づいていない快感がね」
ブラウスが落ちた。
浩一の手が、素肌に触れる。
「それを、一緒に探していこうか」
芽衣は、これから始まる『おしおき』に身を震わせながら、浩一の首に腕を回した。
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