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【第四部】炎上、そして爆発
みんな、燃やしてしまえ
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数日後、主催企業であるミネラルウォーター会社『甘露の雫』が、ついに公式の声明を発表した。
『イグニス氏本人と協議した結果、著名作家との画風の類似性は偶然の一致、あるいは個人的リスペクトの範疇であり、盗作の事実は認められない。よって、受賞の変更は行わない』
企業としては、これで鎮火することを望んでいた。
だが、すでに「隠蔽工作疑惑」で燃え上がっていたSNSは、この発表を「企業も隠蔽に加担した」と見なし、炎上はさらに悪化した。
『やっぱりデキレースだった』
『匿名垢で本人が火消しして、企業が擁護。真っ黒』
ほんの少しの嘘と、隠し事が、いくらかの誤解を含んで、芽衣の気持ちを沈ませていた。
名誉ある受賞が、不名誉な受賞となってしまった。
芽衣は、ミネラルウォーター会社『甘露の雫』とのオンライン打ち合わせで、剽窃の事実がないこと、個人のリスペクトとしてオイルマンをモデルにしたことを明言した。 向こうの担当も、弁護士も共に聞き取りを重ねた。
「一応お聞きする義務がありますのでお尋ねします。こちらからSNSの投稿に制限をかけることはないですが、本件について、匿名アカウントなどで言及はしていませんよね?」
そう尋ねられた時も、堂々と「そのような事実はありません。あれは……御社も関係ないことですよね?」と、尋ね返した。
その結果、こうなってしまった。
主催企業が、イグニスが、罵倒されている。
それだけではない。
匿名の英恵まで傷つけられた。
オイルマンに至っては、『被害を認めないのは、加害側に加担するのと同罪』という、無理筋感の強い攻撃が向けられていた。
芽衣は「この状況を誰も変えられないんだ……」と燃え盛るSNSや匿名掲示板を眺めながら、塞ぎ込んでいた。
(私が黙っているから、みんなが傷つく。私が「先生のコピー」だから、疑われる)
ネット記事も、この問題を取り上げ始めている。
著作権の問題、新興企業の確認の甘さなど、論点は様々だった。
ある辛口インフルエンサーは、『昭和だったら問題はなかったと言うけど、戦国時代なら殺人は無罪って言うのと一緒』と、古い感覚の擁護派を揶揄した。
芽衣は、自分の、誰にも見せたことのない、練習用のデータを眺めながら、一つの覚悟を固めようとしていた。
(みんな、燃やしてしまえ)
これまでの対策は、浩一の「沈黙」、英恵の「擁護」、そして企業の「黙殺」と、いずれも消極策だった。
いわば、逃げの姿勢。
芽衣という女は、浩一との関係を結ぶまでの経緯もそうであったように、状況を変えたい時、大胆に足掻くところがあった。
彼女は、自分を燃やした人たちの気持ちが、その収めどころをどこに着地させたらいいのか迷っているように見えた。
だから、その気持ちを完全燃焼させてやったらいい。
新しい話題を提供して、パクり疑惑の話題を忘れさせてしまったらいい。
芽衣は、決意した。
彼女は、炎上の中心地であるSNSに、新しいアカウントを作成した。
>『イグニス(@ignis_official)』
プロフィール欄には、一言だけこう書き込んだ。
>『本物の、私の投稿です』
そして、この話題で大きな関心を寄せているイラストレーターやインフルエンサーたちをフォローすると、最初の投稿を行った。
>『プライベート作品①』
そこには、ある男女のシーンが、イグニス、そしてオイルマンと瓜二つの画風で描かれていた。
ある田舎の和室で営まれる、情熱的な身体の重ね合い。
そして、それは②、③、④……と連投されていく。
この数ヶ月間、誰にも見せずに描き溜めていた「官能イラスト」を、一挙にアップロードし始めたのだ。
『イグニス氏本人と協議した結果、著名作家との画風の類似性は偶然の一致、あるいは個人的リスペクトの範疇であり、盗作の事実は認められない。よって、受賞の変更は行わない』
企業としては、これで鎮火することを望んでいた。
だが、すでに「隠蔽工作疑惑」で燃え上がっていたSNSは、この発表を「企業も隠蔽に加担した」と見なし、炎上はさらに悪化した。
『やっぱりデキレースだった』
『匿名垢で本人が火消しして、企業が擁護。真っ黒』
ほんの少しの嘘と、隠し事が、いくらかの誤解を含んで、芽衣の気持ちを沈ませていた。
名誉ある受賞が、不名誉な受賞となってしまった。
芽衣は、ミネラルウォーター会社『甘露の雫』とのオンライン打ち合わせで、剽窃の事実がないこと、個人のリスペクトとしてオイルマンをモデルにしたことを明言した。 向こうの担当も、弁護士も共に聞き取りを重ねた。
「一応お聞きする義務がありますのでお尋ねします。こちらからSNSの投稿に制限をかけることはないですが、本件について、匿名アカウントなどで言及はしていませんよね?」
そう尋ねられた時も、堂々と「そのような事実はありません。あれは……御社も関係ないことですよね?」と、尋ね返した。
その結果、こうなってしまった。
主催企業が、イグニスが、罵倒されている。
それだけではない。
匿名の英恵まで傷つけられた。
オイルマンに至っては、『被害を認めないのは、加害側に加担するのと同罪』という、無理筋感の強い攻撃が向けられていた。
芽衣は「この状況を誰も変えられないんだ……」と燃え盛るSNSや匿名掲示板を眺めながら、塞ぎ込んでいた。
(私が黙っているから、みんなが傷つく。私が「先生のコピー」だから、疑われる)
ネット記事も、この問題を取り上げ始めている。
著作権の問題、新興企業の確認の甘さなど、論点は様々だった。
ある辛口インフルエンサーは、『昭和だったら問題はなかったと言うけど、戦国時代なら殺人は無罪って言うのと一緒』と、古い感覚の擁護派を揶揄した。
芽衣は、自分の、誰にも見せたことのない、練習用のデータを眺めながら、一つの覚悟を固めようとしていた。
(みんな、燃やしてしまえ)
これまでの対策は、浩一の「沈黙」、英恵の「擁護」、そして企業の「黙殺」と、いずれも消極策だった。
いわば、逃げの姿勢。
芽衣という女は、浩一との関係を結ぶまでの経緯もそうであったように、状況を変えたい時、大胆に足掻くところがあった。
彼女は、自分を燃やした人たちの気持ちが、その収めどころをどこに着地させたらいいのか迷っているように見えた。
だから、その気持ちを完全燃焼させてやったらいい。
新しい話題を提供して、パクり疑惑の話題を忘れさせてしまったらいい。
芽衣は、決意した。
彼女は、炎上の中心地であるSNSに、新しいアカウントを作成した。
>『イグニス(@ignis_official)』
プロフィール欄には、一言だけこう書き込んだ。
>『本物の、私の投稿です』
そして、この話題で大きな関心を寄せているイラストレーターやインフルエンサーたちをフォローすると、最初の投稿を行った。
>『プライベート作品①』
そこには、ある男女のシーンが、イグニス、そしてオイルマンと瓜二つの画風で描かれていた。
ある田舎の和室で営まれる、情熱的な身体の重ね合い。
そして、それは②、③、④……と連投されていく。
この数ヶ月間、誰にも見せずに描き溜めていた「官能イラスト」を、一挙にアップロードし始めたのだ。
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